本当になんのはなしですか〜ウ◯コで生まれた一体感〜
15時10分。私はいつもより少し早めに出勤した。午前診で手術予約をした3名分の手術記録を夜診が始まるまでに作らなくてはならない。
1階の自動ドアが開くと同時に息を止め鼻を摘みたくなるほどの悪臭が襲ってきた。明らかに汚物の匂いだ。
私の働くクリニックは2階建ビルの2階にある。と言っても2階にはうちのクリニックしか入っていない。
1階の自動ドアを入り階段で2階へ上がると左手にクリニックの入り口、右手に4畳半程の物置きスペースがあり、回収前の普通ゴミや廃棄物、掃除用具などを置いている。
きっと物置きスペースに置かれたゴミ袋からトイレに捨てられていたオムツの匂いがしているのだろう。
階段を登るたびに増大する悪臭。これ程までの異臭は病棟勤務以来久々だ。
と、物置きスペースに先に出勤していたスタッフ達が集まっている。
私「どうしたん?」
A「ここに ウ◯コがしてあるねん」
なんのはなしですか?
異臭を放っていたのはオムツではなく、物置きスペースの床にされていた人間の ウ◯コ だった。
ウ◯コの上にはいつも拭き掃除に使っているスカイブルーのマイクロファイバーの布巾がそっと掛けられていた。
茶色にスカイブルーの布団。その色のコントラストが滑稽すぎる。
午前の診療が終わると2階のクリニックの鍵は閉めるが1階の自動ドアは開いたままになっている。昼休憩の間に何者かが上がってきて、ブツを落としていったのだ。
手袋をはめた精鋭達。
AとBがトイレのお掃除シートでブツを取り、拭き始めた。
私は急いで着替え手袋を装着して参戦する。
Cが消臭スプレーを持ち待機。
私は消臭袋を取りに行き、匂いの取れない床の上にマイペットをふりかけた。
それをAとBがスポンジで擦り、また拭き取る。
DとEが「ゴミ捨て行きます!」とブツが飛び散っているかもしれない周辺のゴミ袋を台車に乗せビルのゴミ置き場へ向かう。
Cと私がスマホのライトで床を照らす。
ABC私で目を凝らしブツの残骸がないか隅々までチェック。
私は片付け終わったゴミを持ちゴミ置き場へダッシュする。
DとEはブツがついているかもしれない台車を駐車場で洗っていた。
Cはクリニックや階段にくまなく消臭スプレーを撒いて歩く。
なんだ、この一体感は。
皆んながこれ程までに一致団結した出来事があっただろうか。
みんな出来ることを探し、ササっと動いている。
大迷惑な珍事件だが私は皆んなの姿を見て、ひとり嬉しくなっていた。
こんな風に普段の業務でも協力できれば働きやすいクリニックに戻るのになぁ。
毎日ウ◯コが落ちていれば、皆んな仲良くなるんじゃないか?などど不謹慎な妄想をしていた。
Cの消臭スプレー作戦も虚しく、クリニック内は汚物の臭いが充満しその日の午後はずっと臭かった。鼻粘膜についた匂いの粒子が取れていなかっただけかもしれないが、口コミに「クリニックが臭いです」などど書かれていないか心配だ。
やはり、毎日ウ◯コが落ちていては困る。私達は息ができないし、鼻がもげてしまう。
誰が何の目的でそこに排泄をしたのだろう。
クリニックに恨みのあるものが困らせようとしたのか。
トイレを借りようと2階に上がってきたらクリニックが閉まっていて間に合わずにしてしまったのか。
患者さんが犯人だとしたら…
怪しそうな人物を見るとこの人が犯人かもしれないなどど言う目で見てしまいそうだ。
いやいや。そんな疑いの目で患者さんを見てはいけない。
翌朝出勤すると受付の20代女子がこんな事を言っていた。
「あそこに 『NO ウ◯コ』って看板立てときましょか」
ダメだ、笑いが止まらない。
あれ以来、出勤する度に異臭がしないか、ウ◯コが落ちていやしないか、とヒヤヒヤしている。
これって犯罪にならないのだろうか。
他人の敷地に勝手に入り、排泄をする。
何罪かは分からないが器物損壊のような気がしてきた。
