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赤福の、ヘラ

もっさりは 出張に行くと、よくお土産を買って来てくれる。

4月のある土曜日 うちに着くや否や、もっさりがリュックの中からなにやら取り出してこう言った。
「2人やから小さい方でいいかと思ったけど、この間 足りひんかったから大きい方買ってきたで」それは赤福だった。

子供の頃、赤福のテレビコマーシャルがよく流れていた。

♪ 伊勢の名物 赤福餅はええじゃないか

もっさりにこの歌を歌ったが知らないという。そっか。埼玉ではそんなCMは流れないか。
京都駅や大阪駅にも売っているので、大阪人は時々口にして慣れ親しんでいる。そして一定の周期で無性に食べたくなる。

テープがなかなか剥がれず、手こずりながら蓋を開けたもっさりは、縦3列、横4行 に行儀良く整列している赤福を見て
「うわー。きれいに並んでるわ。さすがですねー」
と感嘆の声を上げた。

そんなに感動しなくとも、赤福はいつもきれいに並んでいる。何を今更そんなに感動しているのだろう。
と思ったら、堰を切ったように喋り出した。

「これな、新大阪に帰ってくるまで偏ったらあかんと思って、ずっと袋に入れて水平を保ってたんや。
それがやな、帰りに散髪屋さんに寄ったんや。
散髪屋さんではな席の斜め前に荷物を置くんやけど、置けるスペースがこれくらい(リュック1個分くらい)しかなくて、リュックの上に赤福置いたら、『出張ですか?』って話しかけられるかもしれへんやろ。
俺はな、いつも同じ人 指名してるんやけど、年末の『今年もありがとうございました』と年始の『今年もよろしくお願いします』以外は喋らへんようにしてるんや。
『出張ですか』って話しかけられたら、ややこしいことになるねん。『出身は?』なんて聞かれたら『新潟です』って嘘ついてしまうやろ。
せやからリュックの中に赤福を入れることにしたんや。
せやけどな、荷物が多くて水平のままでは入らへんねん。仕方がないから、立てて入れたんや。」

名古屋から新大阪まで、赤福の水平を慎重に保ちながら移動していたのに、散髪屋さんで今までの努力も虚しく赤福を泣く泣く縦にしてリュックに押し込むもっさりの表情がまざまざと目に浮かぶ。

縦にしても全く崩れない赤福。
さすがは伊勢の名物。

付属の餅を掬うためのヘラで赤福を取り、お皿に乗せてくれるもっさり。
横になったり縦にされたりしながらやって来て、お皿の上にちょこんと座った赤福を、お箸でつまみ温かいお茶と共にありがたく頂く。
うん。柔らかくてモチモチ。いつ食べてもこのお餅の柔らかさは絶妙。

でも ヘラから掬い取った赤福を、ヘラのままパクりと口へ放り込んだらもっと美味しいのにな、と想像する。
それはお好み焼きを鉄板から直接コテで食べるのと似ている。

ああ、ヘラのまま赤福を食べたい。

入っている個数に合わせて、6個入りならヘラを2個、12個入りならヘラを4個とつけてくれればいいのに。

その付属のヘラが、少し前に木から紙へと変わってしまった。白い厚紙のヘラを初めて見た時、私はとても寂しい気持ちになった。赤福のヘラにはずっと木でいて欲しかった。

木から紙へと変えるにあたって、社内ではどんな議論が交わされたのだろう。
ヘラは木のままで値上げをする派と、値段はそのままで紙のヘラにする派が激しくぶつかり睨み合い、なんてこともあったのだろうか。
はたまた社長の鶴の一声で変わったのか。

翌日、もっさりが残した赤福を、私はひとりっきりのキッチンでヘラのまま食べた。そしてヘラにくっついた餅を歯でこそげ取った。あーこれこれ、と幸せな気分で満たされる。
ヘラについた餅ってなんでこんなに美味しいのだろう。

でも、赤福に紙の匂いが移って風味が損なわれている気がする。
いや、そもそも赤福ってヘラのまま食べるものじゃないのか。

今のご時世、仕方がないのかもしれないけれど、やっぱり木のヘラに戻ってくれることを切望している。

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