純喫茶「ガス燈」 〜和歌山、ふたたび〜
煉瓦造りのファサードに半円系の入り口。その入り口の天井にはステンドグラス風の装飾が施され、昔ながらの食品サンプルが並ぶ大きなショーウィンドウが出迎えてくれる。


ステンドグラス風の天井

定食や食事


さらに足を踏み入れると、程よい明るさの店内。純喫茶はちょっと薄暗いくらいが雰囲気があっていい。
吊り下げ式のシャンデリアと各テーブルにステンドグラスのペンダントライトがぶら下がり、流れるBGMはテレサ・テン。
気分は一瞬にして昭和にタイムスリップ。
内装に見とれていると、学生らしき若い店員さんが
「お好きな席にどうぞ」
と声をかけてくれる。
「お好きな席にどうぞ」
これぞ純喫茶の正しい案内方法。座りたい席があるのに、勝手に案内されたりするとかなり残念な気分になる。
純喫茶マニアの人が前に言っていた。店内が見渡せる席がお勧めだと。
その言葉を思い出し、店内右手、柱が邪魔をしない窓際の席に腰を下ろした。


「いいですね〜」
もっさり(彼)も、なかなか気に入ってくれたようだ。
純喫茶は好きだけど、わざわざ探して出かけたり、巡ったりするようなマニアではない。でも、あれば入りたいし、入るとテンションが上がる。
夜は宿で鱧のフルコース。ならばお昼は純喫茶でどうだろう。そうして見つけたのが、この「ガス燈」だった。
もっさりは日替わり定食(この日はハンバーグ定食)、私は昔ながらのオムライスを注文した。
食事が運ばれてくる前にマウスピースを外しに行くと、お手洗いの手前には扉付きの 「Telephon Box」、その向かいには漫画がぎっしり詰まった本棚。
Telephon Box の中に入ってみたかったけれど、電話をかける用事もなく、何となく入れなかった。
旅の恥はかき捨て。入ってみればよかった。
中には上が薄いピンク、下が白色の10円を入れるタイプの公衆電話が置いてあったのだろうか。
トイレから戻ると、テーブルにはハンバーグとオムライスが湯気を立てていた。割り箸やスプーンの先に被せてある袋には「ガス燈」の文字が印刷されている。キャー!素敵。三角に折ったナプキンもいいけれど、お店の名前がちゃんと印刷されている袋は萌える。


2人して記念撮影を終えると、実食。オムライスのケチャップライスはほんのりとバターの香りがする。卵はふわトロではなく、昔ながらの卵でしっかり巻くタイプ。上にかかるのはデミグラスソースではなく、たっぷりのケチャップ。これこれ。このオムライスが一番落ち着く。横にはコンソメスープが付いている。
もっさりのハンバーグは具の中にキノコが入っているような味がする(炒めた玉ねぎだったのかもしれないが、私は何となくキノコの旨みを感じた)。
そして ふと見るとお味噌汁の横には私と同じコンソメスープが置かれている。
「お味噌汁あるのに、コンソメスープもついてるん?」
そう尋ねると
「定食やからドリンクついててんけど、コーヒーは朝からずっと飲んでるからスープにしてん。注文の時に「お味噌汁もついてますけどいいですか?」って聞かれたわ」
なぬ? 定食のドリンクは、コーヒー、紅茶、ウーロン茶と書かれていたはず。紅茶かウーロン茶にして、私にも分けてくれればよかったんじゃないか? と思ったりする。
もっさりを理解することは永遠にできない。と実感する。
夜の鱧のフルコースに備え、ランチは控えめにしたいところだけれど、デザートの自家製プリンがどうしても気になる。私は実のところプリンは好きではない。食べろと言われれば食べるが、好んでは食べたい。
でもここのプリンは、硬めの自家製焼きプリンらしく、見た目も昭和。是非とも味わってみたい。
1つ注文して、もっさりと半分ずつ食べることにする。

硬めの懐かしい感じの手作りプリン。子供の頃、家でよく母がゼリーやプリンを作ってくれていたな、と思い出す。
そして生クリームが美味しすぎないのがいい。
ケーキ屋さんの味の濃い生クリームの方が断然美味しいけれど、あの生クリームは純喫茶には似合わない。純喫茶には純喫茶っぽい、ちょっと味の薄い生クリームが合う。
上に載っている缶詰のチェリーの味がしないのも、一口食べて、「あー、これこれ」と懐かしくなる。
純喫茶。
そこは、ただ何かを食べに行く場所ではない。
内装、音楽、雰囲気、空気、匂い。その空間や時間を楽しんだり、くつろぐ場所であって、お料理やデザートは普通で十分だと思う。
勿論、ご飯もデザートも美味しいに越したことはない。でもあまり美味しすぎると、「純喫茶感」がなくなってしまうような気がする(ここが美味しくないと言っているわけではない。あくまで全体的な話)。ポケットが便利だからと言って、服に5つも6つもつけたって、カッコ悪くなるように、純喫茶には純喫茶らしい味、みたいなものがある。
ああ、この喫茶店が、家の近くにあったらなあ。
そう思いながら、お店を後にした。
