週刊 ことば山 2026年6月16日号
缶詰
よもぎ茜(よもぎ・あかね)
1月のその日の朝、始発から山の手線が停電のため運転見合わせのニュースが流れた。午前中から友人と銀座で書道展を見に行くことにしていた。
わが家の最寄りの北浦和駅は京浜東北線だから、目的地の有楽町までは行くことができる。だが、きっと混雑するだろう。早目に出発しようと思っていると、京浜東北線も運転見合わせになってしまった。
しかたがない。一駅先の浦和駅まで自転車で行き、東海道線か宇都宮線で東京駅まで乗り、そこから銀座まで歩くとしよう。路線図や道順を頭にひろげながら自転車をこぐ。
浦和駅に近づくと、ぞろぞろと駅に向かって人が歩いていた。1月にしては暖かく、風もなかったが、いきなり朝から1駅歩くのは……ね。
浦和駅に到着。上野行きの東海道線に乗ることができた。上野までしか行かないとなると……ええと、そうだ、上野から東京メトロ銀座線に乗り換えよう。
座ることはできなかったが、幸いなことにスマホを操作できるほどの混み具合だった。
ダイヤは乱れていたが、電車は動いているのだな、よかった。ところが、赤羽駅に着くと前の電車が詰まっているとアナウンスがあり、駅で停車。電車のドアは開いたまま、いつまでも電車は動かない。
いったいこの電車、いつ動くのだろう。銀座で待ち合わせしている友人に、この状態をLINEする。
「電車の中で缶詰です」
缶詰といっても、コンビーフのようにぎゅうぎゅう詰めではないけれど、みかんの缶詰くらいの気分だった。友人は「みかんのシロップがよどんで、すっぱくなるかもね。私は銀座を楽しんでいるから大丈夫」と返信してくれた。
結局赤羽駅で40分停車した。駅で停止していたため、電車のドアが開いていて換気もできていた。体調不良の人もいなかった。不思議なことに、停車中の電車内の乗客はとても冷静で、みんな無言だった。電車内のアナウンスもほとんどなかったから、不安も不満もあったろうけれど、スマホから情報を探し、不満はSNSに発信していたのかもしれない。
赤羽駅を出発すると、上野止まりの行先が東京になり、めでたく東京駅までたどり着いた。
東京駅八重洲口を地上に出る。ここは今、再開発中で以前とずいぶん変わっていたが、線路と平行に有楽町方面に歩く。右手奥に国際フォーラムが見える。そろそろ左に曲がって銀座方面に行こう。背筋をピンとして早歩きで、待ち合わせの銀座三越ライオン前には、約束の20分遅れで到着。お待たせしました。
よもぎ・あかね 東京都豊島区生まれの自称江戸っ子。結婚後、荒川を渡り
埼玉県民となる。介護ヘルパーの資格を取得し、母親を自宅で看取る。お習字とフラを修業中。
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