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金子勇とWinnyの夢を見た 第20話 ICT研究と開発への影響

※この記事は、Advent Calendar 2023 『金子勇とWinnyの夢を見た』の二十一日目の記事です。


 一般に、Winny事件によってP2P技術の研究にブレーキがかかり、諸外国に後れを取ってしまったという説があります。

 確かに、P2Pファイル共有ソフトKazaaを制作したNiklas Zennströmは、Skypeを制作して大成功しました。また、BitTorrentは、著作権団体と和解し、今では様々なメディアにとって重要なインフラとなっています。

 しかし、産業技術総合研究所の首藤一幸氏は、「私個人に関して言えば、研究という観点でブレーキがかかったという事実はない¹」と話していますし、実際はどうだったのか、調べてみます。

P2Pに関する論文

 CiNiiリサーチを利用して、2002年以降にタイトルにP2Pと付けられた日本語で書かれた論文を検索、集計してみました。

CiNiiリサーチからP2Pを含む論文を検索

 確かに、2003年以降の増加率が鈍っているようですが、2005年~2008年では、それほど影響を受けたように見えません。しかし、段々人気のないテーマになってしまったように見えます。Winny事件の無罪判決が出た後も減少傾向になっています。

 ちなみに、2018年に若干増えたのは、ビットコイン人気の絶頂期だったのが影響しています。

 しかし、Google Scholarで論文を検索してみると、世界の論文数は以下のように、年々論文の数が増えていく傾向が見えます。

Google ScholarからP2Pを含む論文を検索

 NTTサービスインテグレーション基盤研究所の亀井聡氏によると、「聞いた話だが、昨年まで科研費の申請で題名に『P2P』とついていた研究の多くが、今年の申請では『Overlay Network』とか『グリッド』とかに題名が変わっているらしい¹」とのことなので、「P2P」または「グリッド」が含まれる論文を検索してみました。

CiNiiからP2Pまたはグリッドを含む論文を検索

 先ほどよりは、減少傾向が抑えられていますが、検索結果のタイトルを眺めてみると、「P2P」を敢えて「グリッド」と言い換えているように見えませんでした。2011年に増えているのは、東日本大震災の関係で、電力の「スマートグリッド」についての論文が増えているためで、以降も電力取引の文脈でP2Pを語る論文が少なくありません。

 データの取得元がCiNiiとGoogle Scholarと異なっているため、確実な比較となりませんが、Winny事件との関連性はないと言えます。

P2Pに関する特許

 Google Patentsを使用して、日本語の特許数とすべての言語の特許数を集計してみました。

Google Patentsで検索

 世界では特許数が綺麗に上昇していますが、日本語の特許は2014年以降、停滞気味です。しかし、両方とも2020年以降は大きく伸びています。

 従って、日本語の特許数がWinny事件との関連性は見られません。

まとめ

 京都大学・上原哲太郎教授は、以下のように言っています。

研究をすることに対する制御というのは、ゲノムとか原子力分野とは違って、まだ全然かかっていません。ただ、世に出したときにどういった影響を与えるかを考えてくださいというレベルなわけです。これは別に昨今始まったことではありません。極端な話,研究者は論文だけ書いて、実装は世に出さなくてもいいわけです。

『パネル討論「今後のP2Pソフトウエア」』¹より

 研究のレベルにおいて、圧力や制限はなかったようです。

 Winnyについては、ほとんどの研究者が、その技術の高さと重要性を認めていました。そして、P2Pの研究についても有意性があると思われていたので、研究を続けることに対しての障害はなかったのでしょう。

 一方、金子さんの逮捕に関しては、不当であるという意見が大半だったようですが、一部では表立って言えないという雰囲気はあったようです。

 ただ、「もしも金子さんが論文を書いていたら」、技術を公にするための理論武装ができていたのに。あるいは、「もしも金子さんが特許を取っていたら」、日本の社会はWinnyの見方が違ったのではないか。また、「もしも金子さんが起業していたら」、起訴のされ方も違ったのではないか。そして、「もしもWinnyが多言語対応で外国で起訴されてたら」、海外の企業がビジネス展開させてたかも。などなど、「もしも」は尽きません。

 とはいえ、そのような事が言えるのは、社会を器用に生き抜く能力を身につけた人たち、あるいは偶然に助けられた人たちです。金子さんはそんな器用な事はできません。そんなずば抜けた能力を持つ人達が、自分のやりたいことに情熱を注ぎ込んで生きられる社会を、そして、それを助け、支えられる社会が我々の未来であることを期待します。


¹『パネル討論「今後のP2Pソフトウエア」』, 首藤一幸 阿部洋丈 亀井聡 塩澤一洋 高木浩光, チュートリアル「P2P コンピューティング—基盤技術と社会的側面—」, 2004-09-14, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssst/22/3/22_3_3_1/_pdf


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