金子勇とWinnyの夢を見た 第12話 裁判 その4 控訴審
※この記事は、Advent Calendar 2023 『金子勇とWinnyの夢を見た』の十三日目の記事です。
控訴審
一審判決からなんと2年後、2009年1月19日、控訴審第1回公判が大阪高等裁判所(小倉正三裁判長)で行われ、双方の主張を述べました。
2009年6月11日には証人尋問が行われました。(※1)
検察側の証人は、京都府警でWinny事件捜査の中心人物、木村公也警部です。提出されていた証拠に矛盾点があり、その弁明です。その点については、地裁でも取り上げられたのですが、結果OKになってしまったところなのです。そこは流石の高裁です。裁判官もITを勉強しています。反対尋問では、正犯逮捕の際あやふやにしてしまったIPアドレスやポート番号の相違などの問題点を指摘していきました。
続いて、ACCSの担当者の証人尋問では、アンケート調査の手法について質問されます。ACCSでは、2007年からアンケート調査に加えて実際のネットワークを巡回(クローリング)して分析する「クローリング調査」を行っていました。そして、2007年のクローリング調査では、著作権侵害の割合が50%だったことが証言されます。つまり、アンケート調査の結果は不正確であったことを自ら認めたような結果になります。
ただ、ACCS担当者当人は、そのことを理解していなかったらしいです。
弁護側の証人は、2008年1月1日に発行された『P2Pの教科書』で「第7章 Winnyをベースに商用化されたコンテンツ配信システム「SkeedCast」を担当された、インターネットイニシアティブ (IIJ)の木村和人さんです。2023年現在はネットワーク本部コンテンツ配信サービス部長です。
SkeedCastは、2006年8月二発表されたWinnyの技術を応用したコンテンツ配信システムで、IIJは2006年10月からそのサービスを展開させていました。(※2)
木村さんは、ACCSのファイル共有利用実態調査の結果から、それまでテレビ局が手を付けていなかった見逃し番組の配信にニーズがあり、Winnyの開発を続ければ、権利者の同意を得たコンテンツを流通させることができると答えました。
続いて、経済学者の田中辰雄先生です。2005年6月15日にコンピュータ産業研究会で『ファイル交換は被害を与えているか?―Winny の社会的是非とネット配信への示唆―』(※3)(※4)と題して報告が行われています。
まず、ACCSが行ったアンケート調査で、ダウンロードしたファイル名を3つ書かせるという手法の間違いを指摘します。回答者は、実際にダウンロードしたものから「ハウルの動く城」や「ハリーポッター」など、一番記憶に残りやすものを答えてしまいます。
また、Winnyの著作権侵害による損害額の計算について答えます。どのようなコンテンツでも、次第に人気が下がって販売量は減ってくるはずなのに、当初の小売価格のまま計算を行っていることや、コピーがなくなった場合でもダウンロードした人全てがコンテンツを購入する訳では無いなど、損害額が過大に推定されていることを指摘しました。
また、Winnyによって正規品の売上が減るという効果はなく、宣伝効果によって逆に少し増えていたと言います。
弁護側の答弁はとても理路整然と行われたと思います。地裁でのハンディキャップマッチ感とは大違いです。特に、田中辰雄先生の論文が取り上げられたのは、とても素晴らしいと思います。
※1 『Winny開発者の控訴審、検察側・弁護側双方が証人尋問』, 三柳 英樹, INTERNET Watch, 2009-06-12
※2 『IIJ、Winnyを応用したP2P型コンテンツ配信「SkeedCast」を本格展開へ 』, 三柳英樹, INTERNET Watch, 2006-08-29
※3 『WinnyはCD売上を減らさず~慶應助教授の研究に迫る』, 杉浦正武, ITmedia Mobile, 2005-03-29
※4 『ファイル交換は被害を与えているか?―Winny の社会的是非とネット配信への示唆―』, 慶應義塾大学経済学部 田中辰雄, 赤門マネジメント・レビュー 4 巻 8 号 (2005年 8 月), https://www.jstage.jst.go.jp/article/amr/4/8/4_040802/_pdf/-char/ja
