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第1話                複数店経営は本当に成功なのか

——店舗数を増やす前に、契約書を読んだ方がいい

コンビニオーナーの世界では、複数店経営が一つの成功の形のように語られることがあります。

1店舗より2店舗。
2店舗より3店舗。
店舗数が多いオーナーはすごい。
本部から追加店舗を任されるオーナーは優秀。
家族も手伝っているなら将来も安心。
子どもが入っているなら、そのまま継げるだろう。

そういう空気があります。

私もその空気はよく知っています。

本部の担当者や管理職も、複数店経営の話になると、かなり前向きな雰囲気で話をしてきます。

「ご家族でやっておられるなら安心ですね」
「息子さんが入ってくれたら将来も見えますね」
「これだけ実績があるなら、もう1店舗どうですか」
「複数店を任せられるオーナーは限られています」

こう言われると、悪い気はしません。

むしろ、オーナーとして認められているような気持ちになります。

自分は本部に評価されている。
自分は普通のオーナーとは違う。
自分の店は家族に残せる。
社員を育てれば会社として続けられる。
店舗数を増やせば、将来の資産になる。

そう思いたくなります。

しかし、私はここに強い違和感があります。

なぜなら、複数店経営を考えるうえで、あまりにも大事な前提が抜け落ちているように感じるからです。

それは、

その店舗は、本当に自分の資産なのか。
その契約は、本当に家族に残せる契約なのか。
その複数店経営は、本当に会社として継続できる仕組みになっているのか。

ということです。


複数店経営は、甘い足し算で語られやすい

複数店経営は、非常に甘い足し算で語られやすいです。

1店舗でこれだけ利益が出る。
ならば2店舗なら倍になる。
3店舗ならもっと大きくなる。

そう考えたくなります。

しかし、実際の複数店経営は、そんな単純な足し算ではありません。

店舗数が増えれば、管理コストが増えます。
移動時間が増えます。
人間関係の問題も増えます。
店長や責任者の質に左右されます。
従業員教育のブレも出ます。
労務管理も複雑になります。
緊急対応も増えます。
オーナー本人が見えない部分も増えていきます。

1店舗なら、自分の目で見えていたことが、2店舗目から見えにくくなる。

3店舗、4店舗と増えれば、さらに見えなくなる。

そして、見えなくなった部分を埋めるために、多くのオーナーは「人」に頼ります。

優秀な店長。
右腕。
家族。
社員。
長年勤めているパートさん。

しかし、それは本当に仕組みでしょうか。

人に頼ることと、仕組みで管理することは違います。

複数店経営の怖さは、店舗数が増えることそのものではありません。

見えないものが増えているのに、それを見える化する仕組みを持たないまま、店舗だけが増えていくことです。


本部が複数店を勧める理由

本部が複数店経営を勧めることには、本部側の合理性があります。

優秀なオーナーに任せたい。
新規オーナーを探すより、既存オーナーに増やしてもらう方が早い。
店舗網を維持したい。
地域の空白を埋めたい。
本部としても信頼できる人に任せたい。

これは理解できます。

本部が悪意で複数店を勧めていると言いたいわけではありません。

むしろ、本部の現場担当者の中には、本当に加盟店のことを考えている人もいます。

私自身、20年以上この業界でやってきて、本部社員の中に使命感を持って動いている人が多いことも知っています。

ただし、ここで忘れてはいけないことがあります。

本部にとって都合がいいことと、加盟店オーナーにとって幸せなことは、必ずしも一致しない。

ここです。

本部は店舗網を見ます。
本部は売上を見ます。
本部は既存オーナーの運営力を見ます。
本部は追加店舗を任せられるかを見ます。

しかし、オーナーが見るべきものは、それだけではありません。

会社にいくら残るのか。
自分の時間は残るのか。
家族は巻き込まれすぎていないか。
社員の人生を預かれるのか。
労務リスクに耐えられるのか。
契約上、その事業は本当に継続できるのか。

ここまで見なければいけません。


複数店経営は、家族に残せる資産なのか

ここで、私は一つ大きな疑問を持っています。

複数店経営は、本当に家族に残せる資産なのでしょうか。

店舗数が増えると、一見すると資産が増えているように見えます。

3店舗ある。
5店舗ある。
売上規模が大きい。
従業員も多い。
社員もいる。
家族も関わっている。
本部からも評価されている。

外から見れば、立派な事業に見えるかもしれません。

しかし、その根っこにある契約はどうなっているのでしょうか。

少なくとも、私が知っているセブン-イレブンの契約においては、契約の相手方は、セブン-イレブン・ジャパンとオーナー個人です。

もちろん、他チェーンの契約内容まで私は断定できません。

ただ、少なくともセブン-イレブンについて言うならば、ここは非常に大事です。

店舗を運営している。
従業員を雇っている。
家族が手伝っている。
社員が育っている。
複数店舗を持っている。
売上規模が大きい。

それでも、その根っこにあるのは、あくまで本部との契約です。

そして、その契約がオーナー個人に強く紐づいているのであれば、複数店経営は「積み上がる資産」とは言い切れません。

不動産のように相続できるものでもない。
株式のように自由に譲渡できるものでもない。
普通の会社のように、当然に事業承継できるものでもない。

ここを見落としているオーナーは、意外と多いのではないかと思います。


「家族なら継げる」は、本当に契約書に書いてあるのか

コンビニオーナーの世界では、まことしやかに語られている話があります。

「家族なら引き継げる」
「子どもなら大丈夫」
「何親等以内なら承継できる」
「奥さんや息子さんが入っていれば安心」
「親族が店に関わっていれば、将来も何とかなる」

こういう話です。

私も、そういう空気を何度も感じてきました。

現場の担当社員や管理職も、まるで普通に引き継げるかのような顔で話をすることがあります。

しかし、ここで絶対に確認しなければいけないことがあります。

契約書に、本当にそう書いてあるのか。

ここです。

担当者がそう言った。
周りのオーナーがそう言っている。
昔からそう聞いている。
親族なら大丈夫らしい。
何親等以内なら承継できるらしい。

これらは、契約ではありません。

契約書に書かれていないものは、少なくともオーナー側が当然の権利として主張できるものではありません。

ここを勘違いしてはいけないと思っています。


店舗数を増やす前に、契約書を読め

複数店経営を勧められた時、オーナーはどうしても前向きになります。

本部に認められている。
自分は評価されている。
もう1店舗やれば、もっと大きくなれる。
家族に残せるかもしれない。
社員を育てれば会社化できるかもしれない。

その気持ちは分かります。

しかし、その前にやるべきことがあります。

契約書を読むことです。

契約当事者は誰なのか。
契約上の地位は譲渡できるのか。
相続や承継について何が書かれているのか。
本部の承諾が必要なのか。
承諾の条件は明記されているのか。
家族や親族に当然に引き継げると書かれているのか。
何親等以内なら承継できると本当に書かれているのか。

もし契約書に明確に書かれていないのであれば、それは少なくとも「当然の権利」ではありません。

ここを曖昧にしたまま、

「うちは息子がいるから大丈夫」
「家族でやっているから安心」
「複数店を持っているから本部も簡単には切らない」
「担当者も大丈夫そうに言っていた」

と考えるのは危ない。

本部担当者の言葉は、契約書ではありません。
現場の空気も、契約書ではありません。
オーナー同士の噂話も、契約書ではありません。

最後に残るのは、契約書です。


次回につなげます

今回は、複数店経営を考えるなら、まず契約書を読むべきだという話を書きました。

では、担当者が「大丈夫です」と言った場合はどうなのか。

「息子さんが継げばいいですね」
「家族が入っているなら安心ですね」
「何親等以内なら承継できると思います」

こういう言葉は、どこまで信用できるのでしょうか。

そして、契約期間中にオーナーが突然亡くなった場合、家族や従業員はどうなるのでしょうか。

次回は、ここをもう少し踏み込んで書きます。

タイトルは、

「あの人が言った」は本部には通用しない

です。


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