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【ショートショート】自警団

 引っ越しが終わったばかりなのに玄関のチャイムが鳴った。
 ドアを開けると、ヒキガエルのような顔をした小柄な男が私を睨め上げるようにして立っていた。
「ウチヤマさん?」
「はい、そうですが。あなたは」
「この地区の責任者のハヤシだ」
「地区……」
「あんた、奥さんは?」
「おりません。単身赴任なので」
「ふーん。ま、上がらせてもらうよ」
「あ、ちょっと待って」
 ハヤシは私の制止も聞かず、部屋に入ってきた。
 床には組み立て中のベッドの部品が散らばって、足の踏み場もない。
「お話ならここではなく喫茶店かどこか」
「喫茶店? そんなものねえ」
 大変なところへ来てしまった。
「なんのご用ですか」
「自警団に入れ」
「え?」
「住民が自分で自分の身を守る組織。警察は当てになんねーからな」
「そうなんですか」
「あとで交番に行ってみるといい。もう何年も前から誰もいない」
 ハヤシはバッグから書類を取りだした。「ハヤシ自警団入団書」。
「自警団に入るとよ、いろいろ困ったことの相談にも乗るべ。あんた田舎暮らしははじめてじゃろ」
「そいつは口先だけだ」
 玄関にごつい毛皮のコートを着た男が立っていた。
「団員なんて誰もいねえ」
「くっ」
「入るならこっちにしな」
 男はヤマガミ自警団のヤマガミと名乗った。こいつも同類ではないのか。ヤマガミの後ろから真っ赤な髪の女が顔を見せ、
「入るならアケミ自警団。飲み放題がついてるよ!」
 と叫んだ。次から次へと勧誘者がやってきた。
「みなさん、帰ってください。まだどこにも入りません」
 アパートの隣人に引っ越しの挨拶をするついでにどこの自警団に入っているか聞いてみた。
 ミナミさんはミナミ自警団、ツダさんはツダ自警団、ウキョウさんはウキョウ自警団だった。
「他人に任せちゃダメだ。カモにされるだけだよ」
 私は玄関の表にウチヤマ自警団の団員募集チラシを貼った。

(了)

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