分解というもの 「エルフの耳はなぜ長い? それは赤ずきんの声をよく聞くためではない」
注意:この話は「日本のエルフは間違っている」という主張に対し、正誤ではなく文化がどう変質してきたかという視点でファンタジー設定を分解するものです。
ある日、ある話題を見た。日本のエルフは間違っている、と海外のドワーフ(に見える人物)が動画で語っていた、という動画だ。彼はおそらく若く、また日本で何が起こったのかを知らず、現状だけを見てそういったのだと思う。認識違いというか「何を言っているんだ?」と感じた。
また同類のことで、ワイバーン問題というものもある。
物事には全て成り立ちがあるのだ。
ワイバーン問題については、わたしも究極まではつめていないのでここで騙ることはできないが、エルフについてならある程度騙れる (誤字ではない。証明できない知識なので信じるかどうかは読み手が決めるものだから場合によってはそうなるからだ)。
なぜ騙ろうかと思ったのかと言えば、こういった伝承がもはや機能していないと常々感じていたからだ。オタクを名乗るものが陳腐化したというか一般化したというか、ただの趣味嗜好の問題とされ、その知識の深さは不要と判断されたため、情報の断絶が起こっているためでもある。
もはや世間の潮流に逆らう気はないし、異議を唱えるつもりもないが、間違った歴史認識で難癖つけられるのは気に食わないので、騙るものである。
もともとエルフというのは、日本語に訳せば「妖精」としていい、世にある不思議なものの現象を表すものの一つに過ぎなかった。日本で言えば怪異の多くが「妖怪」によるものだとされるのと等しい感じだ。エルフは主にヨーロッパで妖精のことを指すものだった。
だから日本に海外の作品が入ってきた時、エルフの挿絵として、今で言うゴブリンのような醜く耳が尖った子鬼が描かれていたことがあった。私が記憶している最古のエルフはそれだった。
そんな日本に入ってきている海外作品の中に、金字塔である「指輪物語」もあった。「指輪物語」ではエルフは人間と同様の一種族であった。「指輪物語」ではエルフは人間にそっくりではあるが耳が尖っており、美しく、不老不死 (ただし外傷などで死ぬことはある)であるとされた。
「指輪物語」はハイファンタジーというジャンルの始祖となったため、エルフも「指輪物語」にそったものばかりになっていった。
そのうちの一つ、「ダンジョンズ&ドラゴンズ( D&D)」は指輪物語を雛形とした TRPGであり、 TRPGというジャンルにおいて始祖的な存在である。その設定がコンピュータゲームとしてほぼ流用されたのが「ウィザードリィ」だと言える。
「ウィザードリィ」は海外の作品であるが、日本のファミコン版でモンスターデザインをされた末弥純という方がエルフも絵として描いた、がそれが表に出てくるのはずいぶんと後の話。それよりも前にエルフが日本で描写されることになったものがあった。
それが当時コンピュータ雑誌として売り出していた「コンプティーク」という雑誌で連載が開始された「ロードス島戦記」という「 D&D」のリプレイという形式の作品だった。
なぜコンピュター雑誌にコンピュータと関係のない TRPGのリプレイという当時 (商業作品としては)新しい表現方法で「ロードス島戦記」が連載されたのかは残念ながら知らない (少なくとも覚えていない)のだが、その物語の中でディードリットという女性エルフが主人公パーティーの一員として出てきていたのだ。そこで初めて挿絵で美しい女性エルフがデザインされ公開された、と記憶している。
デザインしたのは他でもいろいろと有名な出渕裕氏であり、彼の功績と言っていいと思う。ただし確かその連載の中でディードリットの耳はロバのように長い、と描写されていたので今日本でよく知られるあの長い耳のエルフがデザインされたのだ。ロバのように長いと描写したのは「ロードス島戦記」の著者である水野良氏であるが、絵として表現したのは出渕裕氏である。
そのリプレイ連載であった「ロードス島戦記」は受けに受け、水野良氏がそれを小説化し、それも人気となり、日本におけるハイファンタジーの始祖となったのだ。なのでもちろんその「ロードス島戦記」で使われていた設定の数々はパブリックなものとして日本における一般的なファンタジーとして日本に浸透していった。
ディードリットは「 D&D」のプレイヤーキャラとして「エルフ」という役割であった。「 D&D」でおいてはエルフは種族であるが、戦士とか僧侶などと同じクラスでもあったのだ。ドワーフやハーフリングもそうなので戦士や僧侶などは人間だけのクラスであった。
なのでディードリットは剣も扱え、魔法も使える、いわば魔法戦士のようなものだった (初期の「 D&D」には人間のクラスで魔法戦士はなかった)。ただし成長は著しく遅かった。
だからエルフは剣も扱え(物理戦闘も出来)、魔法も使える種族として認知されることになった。また「指輪物語」での描写を受け継いだ「 D&D」のキャラクターであったディードリットもそんな感じとなった。この時原点と違うのは、ロバのようなと言われる長い耳と精霊使いというジャンルの魔法使いであるとされたところである (ルール上は同じ扱いだが)。
ちなみに当時も今も海外のエルフは耳は長くなく尖っているだけである。一部のオールドファンなら分かるかもだが、いわゆる「バルカン耳」である。「指輪物語」の実写映画「ロードオブザリング」でも尖っただけで長くない耳であった。
そんな「ロードス島戦記」の設定がパブリックなものとして扱われるようになって、様々なエルフが生み出されていったが、その中におそらくディードリットとの差別化であろう、元々のスレンダーだったエルフが巨乳になったバージョンも多くなっていき、エルフは巨乳、というイメージまで現れ始めた。今はどちらかといえば豊満な方が主流であろうか? しかし原点はスレンダーであるということは覚えておいていいと思う。
精霊使いというのもパブリックであるが、もともとの魔法を得意としているというものもパブリックとして存在している。これはエルフという存在を使う時、精霊使いというものがいるかどうかの問題だと思われる。いない世界では魔法使いの一種となるのだろう。
今の日本では長く尖った耳のエルフがより一般的だと思われる。近年大きく受けた「葬送のフリーレン」という作品のエルフもこのタイプだ。ちなみにスレンダーだというのも受け継がれている。
また豊満なタイプのエルフは、 (正確にはハーフの、であるが)ダークエルフだけど「バスタード」という漫画作品に出てくる「アーシェス・ネイ」がもっとも有名で早かったと思われる。同タイプで「ロードス島戦記」に出てきたダークエルフ「ピロテース」よりも先であった。おそらくダークエルフなので特徴も反転させたのだろうと推察できる。が、今ではダークであるかハーフであるかは関係なくエルフの特徴として捉えられているところがある気がする。
こういった経緯が日本であったのだ。おそらく海外のそのドワーフはそれを知らないのだろう。伝統からずれている、うんそれはそう、だから? である。間違ってはいない。日本特有の魔改造というものである。
ナポリタンをイタリアにはない! そんなものは邪道だ! といって怒るイタリア人と同じようなものである。シランガナ。日本にはあるんだよ。同じようにエルフももはやエルフという名前だけ使っているという感じで日本では魔改造されたのだ、そもそも海外のエルフも元々は民話伝承であり、これが正しい、という姿特徴はない。トールキン氏が書いた「指輪物語」のエルフではない、というのなら、そうだね、としか言えない。
