【非常識な集合知入門】①:バラバラに考え「ない」ことでパワーアップする!
バラバラに考えることは、たしかに大事
集合知というと、まず思い浮かぶのは「たくさんの人が、それぞれバラバラに考える」場面かもしれません。
一人ひとりが自分の頭で考える。
他人の答えに引っ張られない。
そのうえで、多数の判断を平均したり、多数決を取ったりする。
すると、個人の誤差が互いに打ち消し合い、集団全体としてはかなり正確な判断が得られる。これが、いわゆる集合知の基本的なイメージです。
研究の言葉で言えば、ここで重要なのは独立性です。
人々の判断が互いに独立しているほど、それぞれの誤差は相殺されやすくなる。逆に、他人の意見を見てみんなが同じ方向に寄ってしまうと、集団全体が同じ方向に間違える危険が高まります。
ルソーや東浩紀にも通じる「バラバラ」の直感
この「バラバラに考えることが大事」という直感は、推定課題だけの話でもありません。今度あらためて論じるように、ルソーの一般意志論や、東浩紀の『一般意志2.0』にも、似た問題意識があります。
たとえば『一般意志2.0』は、民主主義が熟議を前提とすることを問い直し、「空気」を技術的に可視化して合意形成の基礎に据えられないかを構想した本として読むことができます。
つまり、人々が互いに空気を読み、党派を作り、特殊な利害に引っ張られると、集団全体の判断は歪む。だから、まずは個々人の判断や欲望を、できるだけバラバラに取り出す必要がある。そう考えたくなるのは、かなり自然なことです。
研究①:社会的影響は、集合知を壊すことがある
実際、この直感を支持する研究もあります。
ローレンツら(2011)は、数量推定課題で、他人の推定値を見ることが集合知にどのような影響を与えるかを調べました。参加者は、まず自分だけで推定します。その後、他の参加者の推定値を見たうえで、同じ問題に再び答える、ということを繰り返します。
結果として、他人の推定値を見ると、人々の答えはしだいに互いに近づいていきました。一見すると、他人の情報を参考にして学習しているように見えます。しかし問題は、答えが似てくることで、集団内の多様性が失われることです。
集合知が強いのは、みんなが少しずつ違う方向に間違えるからです。
ところが、他人の答えを見ると、間違い方まで似てくる。
その結果、誤差が打ち消されにくくなる。
だから、「集合知には独立性が必要だ」という主張は正しい。
しかし、「バラバラだけ」が答えではない
しかし、ここで止まると、別の誤解が生まれます。
人はバラバラに考えないと、集合知は生まれない。
これは、半分だけ正しい。
独立性は重要です。けれど、独立に考えた人々の意見をただ集めることが、常に最善とは限りません。近年の研究が示しているのは、むしろその先です。
独立した群衆よりも、うまくデザインされた集団の知恵の方が、よい判断を生む場合がある。
研究②:集団を2層構造にする
その代表例が、ナバハスら(2018)の研究です。
どんな構造でしょうか。
ポイントは、集団を2層構造にすることです。
第一層では、参加者をいくつかの小さなサブグループに分けます。各サブグループの中では、メンバー同士が話し合い、一つの合意回答を作ります。
第二層では、それぞれのサブグループが出した合意回答を集約します。ここでは、サブグループ同士が直接話し合うのではなく、各グループの結論をさらに平均する。
つまり、流れはこうです。
個人の独立判断
→ サブグループ内の討議
→ サブグループごとの合意
→ 合意回答の集約
ここで面白いのは、全員を一つの大きな会議室に入れて話し合わせたわけではないことです。まず個人が独立に考える。その後、小さなサブグループで議論する。そして、サブグループごとの合意をさらに集約する。
つまり、独立性を完全に捨てたのではありません。
集団を階層化したのです。
2層構造がなぜ効くのか
この2層構造には利点があります。
サブグループの中では、個人の極端な推定や勘違いが修正されることがあります。誰かが明らかに大きすぎる値を出していれば、他の人が「それはさすがに高すぎない?」と言える。逆に、一人では思いつかなかった手がかりを、別の人が出すこともあります。
しかし、一つのサブグループだけに頼ると、そのグループ固有の偏りが残ります。
そこで、複数のサブグループの合意をさらに平均する。すると、グループ内の議論によって個人の誤差を減らしつつ、グループ間の違いによって誤差を打ち消すことができる。
これは、かなり重要な発想です。
集合知に必要なのは、単に「話し合わないこと」ではありません。
むしろ、いつ独立に考え、いつ話し合い、どの単位で合意を作り、どう集約するかなのです。
研究③:誰の意見が誰に届くか?〜ネットワークを組み替える〜
集団をつなぐネットワークがどのような構造をしているかも重要です。
ベッカーら(2017)は、人々がネットワーク上で他人の推定を見ながら判断を更新する状況を調べました。ここで問題になるのは、誰の意見が誰に届くかです。
もし、影響力が一部の中心人物に集中しているなら(中心的)、その人物が正しい場合には集団全体がよい方向へ動くかもしれません。しかし、その人物が間違っていれば、集団全体がその誤りに引っ張られます。
一方、分散的(脱中心的)なネットワークでは、影響が一部の人に集中しにくい。局所的に情報が交換され、極端な意見がならされ、全体として推定が改善されることがあります。
ここでも結論は同じです。
相互作用が悪いのではない。 悪い相互作用の構造が、集合知を壊す。
研究④:適切な社会情報がバイアスを補正する
ジェイルズら(2017)の研究も、この点を補強します。
人間には、過大推定や過小推定のような系統的なバイアスがあります。そのとき、「適切な社会情報が入る」と、そのバイアスが補正されることがある。
実験では、参加者には知らされない形で、正答に近い推定をする「仮想的な参加者」を混ぜました。
その結果、個人の推定が改善され、集団全体の精度も向上しうることが示されました。
もちろん、社会情報を入れすぎれば同調が起きます。
しかし、まったく入れなければ、個人が持つ誤りもそのまま残る。
大事なのは、社会情報の量、質、タイミングです。
薬と同じで、効くかどうかは用量と使い方で変わる。
好みの集合知でも、見せ方が問題になる
この話は、レビューやランキングのような「好みの集合知」の話にもつながります。
サルガニクら(2006)の音楽市場実験では、楽曲のダウンロード数が見えると、人気が人気を呼び、ヒットの不平等性(人気な曲と不人気な曲の差が大きい)と予測不能性(どの曲が人気になるか事前に予測しにく)が高まりました。
ムチニク、アラル、テイラー(2013)の研究でも、オンラインコメントに最初の高評価がつくだけで、後続の評価が過剰に押し上げられてしまうことが示されています。
この結果は、他人の評価を見ること、つまり一種の相互作用が集合知を歪めたケースとして捉えることができます。
しかし、ここでも「他人の評価を見せるな」で終わるべきではありません。
研究⑤:集団の意見を見せるアルゴリズムを変える
ラーマンら(2014)は、表示順のデザインによって、人気による歪みを軽減できる可能性を示しました。
人気順に並べると、すでに評価されているものがますます見られ、さらに評価されやすくなる。つまり、「みんなの意見」が歪みやすい。
そこで彼らは、総評価数の多いものを上に出すのではなく、直近で評価されたものを上位に表示する方法を検討しました。
これは、人気情報を消すのではなく、人気が固定化しすぎないように表示をデザインする発想です。
同じ社会的影響でも、見せ方を変えれば、集団の探索のされ方は変わる。
結論:問題は「バラバラに考えるか否か」ではない
結局、問題は「バラバラに考えるか、そうしないか」ではありません。
バラバラに考えることは重要です。
しかし、バラバラに考えるだけでは拾えない情報もあります。
一人では気づけない手がかりもあります。
個人のバイアスを、他者の情報が補正することもあります。
だから、集合知の新しい展開は、こう言えます。
独立した群衆は強い。 しかし、うまくデザインされた集合知は、それを超えることがある。
集合知とは、必ずしもみんなをバラバラにしておくことがベストではありません。
かといって、ただ話し合わせることでもありません。
ここまでの議論から得られた示唆は、以下のようなものです。
まず独立に考える。
次に、小さく相互作用する。
集団を2層構造にする。
ネットワークの形を考える。
どの情報を見せるかをデザインする。
そして、最後にうまく集約する。
つまり、より良い集合知とは、単なる沈黙でも、無節操な雑談でもない。
それは、集団をデザインすることなのです。
引用文献
Lorenz, J., Rauhut, H., Schweitzer, F., & Helbing, D. (2011). How social influence can undermine the wisdom of crowd effect. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108, 9020–9025.
Navajas, J., Niella, T., Garbulsky, G., Bahrami, B., & Sigman, M. (2018). Aggregated knowledge from a small number of debates outperforms the wisdom of large crowds. Nature Human Behaviour, 2, 126–132.
Becker, J., Brackbill, D., & Centola, D. (2017). Network dynamics of social influence in the wisdom of crowds. Proceedings of the National Academy of Sciences, 114, E5070–E5076.
Jayles, B., et al. (2017). How social information can improve estimation accuracy in human groups. Proceedings of the National Academy of Sciences, 114, 12620–12625.
Salganik, M. J., Dodds, P. S., & Watts, D. J. (2006). Experimental study of inequality and unpredictability in an artificial cultural market. Science, 311, 854–856.
Muchnik, L., Aral, S., & Taylor, S. J. (2013). Social influence bias: A randomized experiment. Science, 341, 647–651.
Lerman, K., & Hogg, T. (2014). Leveraging position bias to improve peer recommendation. PLOS ONE, 9, e98914.
東浩紀(2011/2015)『一般意志2.0——ルソー、フロイト、グーグル』講談社/講談社文庫。
最新研究
Almaatouq, A., Noriega-Campero, A., Alotaibi, A., Krafft, P. M., Moussaïd, M., & Pentland, A. (2020). Adaptive social networks promote the wisdom of crowds. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117, 11379–11386.
固定されたネットワークではなく、人々が適応的につながりを変えられるネットワークを扱った研究。フィードバックとネットワークの可塑性があると、集団は情報環境に適応し、最良の個人よりも正確な集合推定を生みうることを示しています。Almaatouq, A., Rahimian, M. A., Burton, J. W., & Alhajri, A. (2022). The distribution of initial estimates moderates the effect of social influence on the wisdom of the crowd. Scientific Reports, 12, 16546.
社会的影響が集合知を助けるか壊すかは、実はネットワーク構造だけでは決まらないことを示した研究。重要なのは、人々の最初の推定値の分布であるという報告がなされています。Burton, J. W., Almaatouq, A., Rahimian, M. A., & Hahn, U. (2024). Algorithmically mediating communication to enhance collective decision-making in online social networks. Collective Intelligence, 3(2).
オンライン社会ネットワーク上で、誰と誰がコミュニケーションするかをアルゴリズムで組み替える研究。相互作用を自然発生に任せず、コミュニケーション構造をデザインする方向の研究です。
