映画『(LOVE SONG)』 初見の感想と考察
森崎ウィンさん、向井康二さんW主演の、映画『(LOVE SONG)』を鑑賞しました。
ネタバレ記事です。あらかじめご了承ください。
あらすじやキャストの役設定など、細かな説明は省いてますので、公式サイトでご確認くださいませ。
ジャンルを超え、この映画に感動した理由
私は普段、BL(ボーイズラブ)作品を積極的に見ることはありません。ですが、映画『(LOVE SONG)』は、その固定概念を良い意味で覆してくれました。
この映画は、同性愛の物語である以前に、「全員が片想いしている世界で、唯一叶った両想いの奇跡」の物語でした。
ソウタとカイの恋愛を通して「人は内面と外面が違う」と「愛の普遍性」を描いている、と思いました。
この物語がどのようにして奇跡的な「両想い」を成立させたのか、私なりの考察を残しておきたいと思います。
スクリーン上の「乙女ソウタ」をカイは見ていない?
この作品を語る上で、ソウタ(森崎ウィンさん)の描写は本当に重要です。
化学メーカー研究員のソウタは、仕事ではごく普通の男性社員として振る舞います。
しかし、初恋の相手カイと再会し、行動を共にするときだけ、彼の態度は劇的に変わります。
つぶらな瞳でカイを見つめ、子犬のようにかわいく甘える
女性といるカイを見て嫉妬する
感情が抑えきれず人前でも泣きそうになる
恋する乙女のような、可愛らしい姿がスクリーンに映し出されます。
清潔感と透明感
森崎ウィンさんの恋する乙女の可愛らしい姿の表現力は、自然すぎてすごかったです。
素人が申し訳ないですが、言葉を選ばす単刀直入に言うと、男性が女性を演じているような感覚を受けず、居心地の悪さがない。逆に、この映画に清潔感と美しさを与え、サラッとした恋愛映画にまとめ上げていました。
そして、ソウタは映画の最大の見どころ「胸キュンポイント」を担っています。10代の私なら「ピュア!かわいい!」と浸って、目が♡になって病みつきになっていたと思います。
(少女漫画や宝塚歌劇にハマるという、それらしい思春期を過ごしましたので)
ですが、結構な大人の私は、この描写を見て、ふと疑問に思いました。
カイの目には、この「超かわいいソウタ」が本当に見えていたのか?
現実世界でソウタは、カイの恋愛対象が女性だと決めつけているので、自分の気持ちをカイに悟られないよう隠します。あくまで学生時代の男友達。
カイへの恋心を隠すと同時に、同性が好きだということもカイに知られたくない、という気持ちも垣間見えました。
私の解釈では、あのスクリーンに映る「乙女ソウタ」は、ソウタ自身の「脳内で大爆発している恋愛感情」を表現しているのではないか。
ソウタの内面は「好き!」という感情でいっぱいだけど、外面では「久しぶりに会った男友達」として振る舞っていて、カイの目に「乙女ソウタ」は見えていないのではないか。
「乙女ソウタ」が見えているのは観客だけかもしれない。
この「内面の恋心爆発」と「外面の普通」の差が、カイもソウタも相手の気持ちが掴めず、なかなか結ばれない「両片想い」という物語のベースになっていると感じました。
愛ゆえのカイの無口さ
ソウタの「脳内恋心爆発」が表に出ない一方で、カイ(向井康二さん)の愛もまた、言葉ではなく「行動」と「沈黙」によって表現されていました。
そして、この「無口すぎる愛」が二人のすれ違いを決定づけていた、と映画の後半で明かされていきます。
沈黙が優しさ
カイが、大学時代にソウタの前から黙って姿を消したのは、ソウタの母親に「付き合いをやめてほしい」的なことを遠回しに言われたためです。
カイは、ソウタを想うからこそ、この事実をソウタに話すことができない。話し合いをすれば、ソウタは当然理由を聞いてくる。カイは、ソウタの親子関係を壊すような真実を伝えるわけにはいかない。
カイは、世間体や社会の偏見を理解しているからこそ、ソウタを守るため、すべてを一人で背負い沈黙を続けた、と思いました。
中盤で、やっと両想いになった!と観客が思った直後、またカイはソウタの前から姿を消します。
自分の気持ちを押し殺してソウタから離れ、その苦しい感情を一人で爆発させる雨のシーンでは、無口でポーカーフェイスだったカイの内面をやっと見た気がしました。
態度で示す愛もわかるけど、言葉が欲しい
これは単純に、自分の恋愛経験を思い出しキュンとしたポイントです。
ラストで、ソウタはカイに勇気を出して「好き」と言います。想いが通じた後も「好きって聞いてどう思った?」と確認します。
でも、カイはソウタに対し、行動と遠回しな表現で愛情を示し、最後まで言葉で「好き」とは言わないのです。
焦れったかったです笑
そこは言おうよ、と映画にツッコミました。
だけど言わないままだからこそ、あのラストシーンからエンドロール&主題歌がめっちゃ良いんです。
どんなに態度で愛情を示されても、「好き」という言葉を相手から直接聞きたいというソウタの気持ちは、恋する女子の素直な願望。いつかの恋愛を掘り起こされたようで、やられた、と思いました。
ソウタはセリフが多いです。考えや感情を言葉にして表に出すタイプ。
一方のカイは、マジでほんまに全然しゃべらへん笑。映画なので音楽で愛を伝える役柄ですが、一般的に置き換えると態度で示すタイプ。
その真逆の設定も、ありがちなカップルの組み合わせで、自分の過去がよみがえったりしました。
「全員片想い」の世界で生まれた運命の両想い
この映画で、ソウタとカイの物語が特別に際立つのは、周りの登場人物たちが、全員「片想い」だから。
この映画は、愛する人が自分を愛してくれるという「両想いの奇跡」が、いかに尊いかを描き出すため、あえて周囲を「全員片想い」として設計しているように見えました。
カイとソウタの二人はもちろん、他の登場人物にも共感する部分がたくさんありました。
ヒカリ(齊藤京子さん)
ソウタとカイの大学の同級生であるヒカリ。
彼女は、大学時代、カイに片想いをしていたのではないか?
そう思ったのは、大学時代、カイが出演するライブをソウタと一緒に見るシーン。カイがステージに上がる直前、ヒカリはソウタの隣でリップを塗り直します。リップを塗る姿をソウタには見られて良くて、カイには塗った後の自分を見せたい。
深読みしすぎ?
でも、
ヒカリがカイの居場所を知っていたのは、カイのことがずっと気になっていたから
ソウタの背中を押し続ける裏には、ソウタとカイが両想いになってくれることで、ヒカリ自身の失恋も昇華して前に進みたいという願望があったのではないか
ヒカリも自分の気持ちに蓋をして、ソウタに心の内を話さない
ソウタの前では、ただおせっかいな女友達モードを演じている
と私の中では辻褄が合ってしまいました。
ヒカリが見せるソウタへの友情もまた「愛」。
映画全体のテーマとして込められているメッセージを、ここでも反映していたと思いました。
ジン(及川光博さん)
ソウタの上司であるジンは、元妻と娘にはもう会えない。でも結婚指輪は外していない。
きっとまだ愛していて、愛を失った痛みを持ったままタイに来たことが伺えます。
ジンはソウタに、後悔しないよう行動しろと一貫して促します。
これは、「好きな人に好きと伝えられない辛さ」を知っているからこそ、ソウタにはそんな想いをして欲しくないという、ジンの愛だったと感じました。
ワタル(藤原大祐さん)
モデルのワタルは、同性愛者であることを隠さず、自分らしく解放的に積極的に愛情を示す人として描かれています。
そうなった経緯があるのか、元々そういう性格なのかは分かりませんでしたが、日本人キャストの中では唯一、今をありのまま生きようとしている前向きなキャラクターでした。
一方ソウタは、社会生活では異性愛に合わせて振る舞うなど、社会に合わせた自分を演じ、本来の自分を隠して生きています。
ワタルの存在は、ソウタにとって「もし自分も隠さずにいられたら」というひとつの刺激になった気がします。
東南アジアの文化や明るさが反映されている
日タイ共同制作であるこの映画は、舞台となるバンコクの持つ多様性や、南国特有の明るさによって、「愛は誰もに共通する感情」、つまり愛の普遍性がストレートにポップに描写されています。
私は現在、タイと同じ東南アジアの、フィリピン人講師が在籍するオンライン英会話を受講しています。フィリピン人の男性講師の中には、ゲイであることを公にしている先生が多くいます。プロフェッショナルで優しく楽しいレッスンを提供してくれますが、中には生徒から心ない批判を受けた先生もいました。
最初の頃は、「実は生きづらさを抱えていて、それを見せないよう明るく振る舞っているのだな」と切なさを感じたりもしました。でも同情の余地を与えない先生たちの明るさに、上辺の知ったかぶりを反省しました。今では特に意識することもなく、どの先生とも普通に話します。
こんな経験も相まって、この映画の舞台が東南アジアのタイ、バンコクだからこそ、ソウタとカイの愛を包み込む寛容な空気が、スクリーンから伝わったのだと思いました。
周囲の登場人物が二人の関係を温かく見守る様子は、「愛は性別や国境を超えて存在する」というメッセージを力強く伝えているように感じました。
「両想いは運命」と改めて感じた
私はソウタとカイを通して、両想いがどれほど運命的なことなのか、改めて気付くことができました。
ソウタの「内面の恋心爆発」と「外面の普通」の差
カイの愛ゆえの沈黙
周囲の叶わない「片想い」との対比
これらの要素があったからこそ、より深く、より切実に、自分ごととして感情移入しました。
大事な人だからこそ「これだけは言わないでおこう」と黙ってて、後になって実はお互いそうだったと分かり、ちゃんと向き合って話してみたら仲がより深くなったとか、
逆に、言わないままで終わってしまい、あの時言っていたらどうなってたかな、とたまに思い出す、みたいな経験が私にはあります。
恋愛、友情、家族に関わらず、大切な人と心を通わせること、そして「好き」と言葉に出して言えることの尊さを、この映画から受け取りました。
以上が、映画『(LOVE SONG)』を鑑賞した私の、勝手な考察と感想でした。
考察とか全く関係なく、個人的なお気に入りシーンは、失恋した(と勝手に思い込んだ)ソウタが、ヤケ酒飲んで泥酔して、街中のベンチでスマホを見ていると、ワタルからお誘いチャットが届き、一瞬固まってからの「ダメダメ、ややこしくなる、ややこしくなる」の酔っ払い口調です。
最後に
この映画は、説明セリフが少なく、会話の中から状況を把握していくストーリーテリングが見事です。キャストの表現力はもちろん、バンコクの景色、セット、小物に至るまで、メッセージを感じる余白がたくさんあり、本当に音楽のように、観る人によって受け取り方が変わる作品だと思いました。
ノベライズ本には、その余白を埋めるような物語が書かれているそうです。映画を観て、ノベライズを読んで、自分の想いや考察を検証して、また映画を観る、そんな味わい方ができる中毒性のある映画です。
とか言ってる私もまだノベライズを読んでいないので、これからこの考察を検証します。さて、結果はどうなんでしょうかねぇ。
映画のレビューなんて書いたことないのですが、長々と語ってしまいました。そうさせてしまう映画でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
おまけ
ちなみに、ソウタがタイに出張する理由は、男性用コスメの新商品開発です。
実際にタイでは、医療・ヘルスケア・コスメの分野に力を入れています。
ということを、大阪関西万博2025のタイパビリオンで見てきました。
おわり

