相対フォント感の鍛え方─「あの文字、何のフォント?」聞かれたときの考え方や答え方(和文フォント)
はじめに
はじめまして。フォント好きのグラフィックデザイナー、まつばと申します。
日頃から「フォントが好きです」と公言していると、時折「このフォント、何かわかる?」と尋ねられることがあります。そんな経験をふまえて、今回のnoteではフォントの見分け方について、私なりの視点からお話しできればと思います。
あくまで個人的な観察や体感に基づく内容のため、一概には言えない部分もあるかもしれませんが、ひとつの例として気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
■相対フォント感とは
日常の中で、ふと目にした文字について、「これって何のフォントだろう?」と思ったことはありませんか?
あるいは、クライアントから届いたデザインデータがアウトライン化されていて、フォント名がわからず困ったことがある人も多いでしょう。
「君の名は。」と聞いた時、「〈A1明朝〉です」と即答できたら、ちょっとかっこいいですよね。

とはいえ、そうした知識や感覚は一朝一夕で身につくものではありません。
それでも、「これは企業開発のフォントっぽいな」「ゴシック体の◯◯系だな」「広告でよく見る書体だな」といった具合に、おおまかな“当たり”をつける力があれば、絶対フォント感に一歩近づくことができるでしょう。
本記事では、そんな「相対フォント感」を鍛えるための観察ポイントや、実践的なヒントをまとめます。
■見分ける時の注意点
ロゴやタイトル文字などは、そもそもフォントをベースにしていないことも多々あります。
文字それぞれが独立しているのか、隣り合う文字同士に一貫したルールがあるのかなどを確認してみましょう。
また、手書き風の文字についても注意が必要です。同じ文字が完全に同じ形であればフォントの可能性が高いのですが、整った字でも手で書かれていることもあります。
最近は「異なる字形を含むフォント」「バリアブルフォントで字形を調整できる書体」も登場しており、一見ランダムに見せる工夫がされている場合もあります。また、デザイナー側で、同じ文字を異なる手書きフォントに置き換えることもあるでしょう。最終的には、字形のクセの見極めが重要な判断材料になります。
■フォントを見分けるときの基本視点
その文字が「誰が」「何のために」「どの場面で」「いつ、どれくらいの期間」使われるものかを考えることも重要です。
和文・欧文で見方も変わるのですが、今回は和文フォントを主軸にお話しします。
たとえば、書籍などの長文で可読性重視なら〈游明朝〉、〈秀英明朝〉、〈筑紫明朝〉など、視認性重視なら各社のUDフォント(〈イワタUD〉、〈UD新ゴ〉など)が選ばれる傾向があります。エンタメ性を重視する場合は、ディスプレイ書体が好まれます。

游明朝体/モリサワ(字游工房)・秀英明朝/DNP・筑紫明朝/Monotype(フォントワークス)
大企業や広告系の大規模案件、文字数を必要とされる媒体、長期的に使用されるデザインでは、漢字が揃っている企業開発の有料書体が使われることが多く、一方で、短期のキャンペーンや、SNS類、文字数の少ない媒体や、個人制作や小規模チームの案件では、Google Fonts や Adobe Fonts、フリーフォントなど比較的安価なライセンス書体が選ばれやすくなります。
媒体が作られた時期によって、使われているフォントの傾向にも違いがあります。ざっくりとした傾向ですが、時期ごとに見られるフォントの流行には次のような流れがあると感じています。
1900年代〜 活字書体中心
1950年代〜 写研書体
写真植字が広まる。1980年代〜 モリサワ、ダイナフォント
DTPが広まる。2010年代〜 フォントワークス(現:Monotype)、UDフォントの普及
映像、デジタル媒体が広まる。2020年代〜 Adobe Fonts、Google Fontsの普及
SNS、プライベートでフォントを選ぶ時代に
このように、「何のために」「誰が」「どんな場面で」「どれくらい使うのか」を観察することで、フォント名がわからなくてもおおよその見当をつけることができるようになります。
■確認の基本ルート
Adobe Fonts/Google Fonts/他主要フリーフォント
Web・SNS・アプリ内告知など、デジタル寄りのものはここから確認しても良いでしょう。バンドルフォント(OS/Officeなど)
公共施設や行政資料などはすぐに使えるフォントを使用する傾向にあります。主要国産ベンダー
上記で見つからない場合は、他主要ベンダーを検討します。
DynaFont、Type Project、モトヤ、イワタ、タイプバンクなどさらに見つからない場合
個人制作書体などにも視野を広げて探していきます。
■書籍・資料で確認
ひらがな・カタカナを含む場合は下記2冊で調査しています。

『もじのみほん 2.0 仮名で見分けるフォントガイド』(誠文堂新光社、アイデア編集部)
ひらがなの文字ごとにフォントを比較検討できます。『絶対フォント感を身につけるためのフォント見本帳』(『MdN EXTRA Vol. 5 絶対フォント感を身につける。』付録冊子)
ジャンル別にフォントの比較ができます。
あたりがついたら各社の公式テスターやIllustratorでタイピング比較します。
■使用ジャンル別フォント傾向(ざっくり)
公共施設や製品関係 バンドル・UD・独自開発系が多い
広告 モリサワ、フォントワークス(現:Monotype)が多い
書籍 〈筑紫〉、〈秀英〉の明朝、丸ゴシックが多い
飲食店 筆書体、個人店はフリーフォントが多い
アニメクレジット フォントワークス(現:Monotype)が多い
TVテロップ 視認性重視で太さを持つ書体が多い
映画クレジット 多くの人名に対応できるベーシック書体が多い
ゲーム 昔:ダイナ・ニィス/最近:FW、タイプラボなどが多い
漫画写植 モリサワ、FW/過去写研が多かったため改めて使われることも
少女誌記事 デザインシグナル、フリーフォントが多い
SNS画像・アプリ告知 Adobe Fonts、Google Fontsが多い
ガチャガチャ 仮名のみで成立することも多くフリーフォントが多い
絵本 多様、自由度高め
YouTube 〈ラノベポップ〉などポップ系フリーフォントが多い
■最近使用例が増えているフォント



広告・エンタメなど、新しいイメージを売り出したい媒体の場合は新しい書体を積極的に使うことも多いです。主要企業では年に1度程度で新書体を発表します。
こちらも確認してみましょう。
■おわりに
フォントの数は日々増え続け、AIの発展とともに、すべてを見分けることはますます難しくなっています。
それでも、まずは気になるフォントをひとつ見つけてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
そのフォントがどんな場所で使われているのか、なぜそのときにそのフォントが選ばれたのか、どうやって作られたのか──さまざまな視点で観察していくと、文字の世界がぐっと奥深く感じられてくるはずです。
打ち込みやウロコの形など、細かな違いを覚えられなくても、楽しめるポイントはたくさんあります。
「知ること」で、きっとフォントのことがもっと好きになると思います。
ぜひ、形や価格の違いだけでなく、さまざまな視点からフォントを見てみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
執筆者Profile
まつばなつみ
エンタメ関係のグラフィックデザイナー。
和文ディスプレイ書体が好き。制作書体に〈あおぼし〉など。
X(Twitter): @723moji
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