箱根駅伝2025 選手の足元に何が起きていたのか?
□優勝した青山学院大学の足元にはアディダス
箱根駅伝2025は下馬評通り、青山学院大学が5区で逆転、そのまま総合優勝した。さて、その足元は、5区の若林選手を除いて全員がアディダスを着用、それが象徴しているように、大方の予想通り、アディダスが着用シューズトップシェアになった。
2016年から箱根駅伝のブランド別シューズシェアをカウントしてきたが、アディダスは今まで最高の足数、最高のシェアパーセンテージとなった。

青山学院大学の学生に象徴されるように、アディダスのシューズは、ブラックアンドホワイトカラーのAdizero Adios Pro Evo 1と真っ赤なスリーストライプのAdios Pro 4の最新モデル2足でほぼそれを独占した。
一方、ナイキは2021年をピークに年々シェアを落とす傾向となり、ついに今年の箱根駅伝ではアシックスにも後塵をきしてシェア3位となった。これは結局、数字的には、2017年あたりのあの“ NIKE BREAKING 2 “前に戻ってしまったカタチだ。
かつては、アシックスとミズノで7割弱のシェアがあった時代から、NIKE BREAKING 2以来、時代の流れは厚底スーパーシューズになった。ナイキが数年間大きなアドバンテージでリードして、そして、2025年ではAdidasがシェアトップになった。
いわば箱根駅伝に押し寄せるこの”黒船2ブランド”、では、これらのブランドはどのようにして現在のような状況作ってきたのか、それを振り返りたい。
□NIKE BREAKING 2で全てが変わった
アディダスは2015年の青山学院大学の箱根駅伝初制覇以降、Adizero Takumi Sen シリーズがランナーの間に定着、まさに”薄底”レーシング最盛期の時代に靴の名工元アシックスの三村仁司氏とタッグを組んでシェアを伸ばした。
その後、時代が大きく変わる。いわゆるNIKEによる“速く走る発明“が起きたのだ。
ナイキは、NIKE BREAKING 2にて2017年5月、それまでの固定概念を覆す。それは、接地感覚を重視した薄底スタイルではなくて、分厚いクッションを搭載した厚底スタイルにカーボンファイバープレートのセット、今では定番化したこのスタイルのシューズをセンセーショナルに登場させたのだ。
イタリアのモンツァのサーキットを貸し切って、開催日程も未定、風よけのペーサーが交代で登場するなど記録達成のための仕掛けが随所にあった異例づくめの未公認レース、そして、そのシューズもそのピースの1つであった。
Nike Zoom Vapor Fly Eliteを履いたE・キプチョゲ選手が当日の世界最高記録を大幅に破る2時間00分25秒で走ってしまったのだ。その後、彼は同じく未公認レースながらもINEOS159でついに人類初の2時間ギリを達成してしまう。
その実績を背景に発売モデルである、Vapor Fly 4%がその後世界を席巻する。とにかく各地のフルマラソンレースで上位をNIKEアスリートが独占したのだ。それは結局、平等性が問題視されて、のちに世界陸連がシューズルールを作り規制を作ることになった。
日本での反応は少し遅れたが、この箱根駅伝では2021年NIKEシェア95.7%とほぼ全てのランナーが着用するような現象が起き、箱根駅伝2025でほぼ全員がアディダスを着用した青山学院大学も当時は全員ナイキを着用したぐらいだった。
□Evo 1はまさにVapor Flyが重なる
話を今回の箱根駅伝に戻すと、シューズシェアトップのアディダスの中で、いちばん多く履かれたモデルはEvo 1、このシューズの着用者は41人、実に約20%を占めた。

このシューズ、女子マラソンで2時間11分台にはじめて突入(現在は9分台に)、パリオリンピックマラソンでは男女トップ10人中5名が着用、その5名は全員5位以内、2024年のワールドメジャーズマラソン6大大会では、男女優勝のうち半分の5名(アディダスシューズは6名)、銀メダルが1名、銅メダルが2名とセンセーショナルな結果を次々に出している。
実はこのシューズかなり手法が面白い。
500ドル、82500円で限定発売されるも、これはルール上平等性を確保、購入機会を均等する義務がメーカーにはあるために“積極的ではない“販売だったと言っていい。発売されていればOKというイメージであったはず。
ただ、512足限定発売×82500円は4000万円近くの販売額になり、これはもしかするとこの商品の開発費? 結局、全て売れれば、リスクの少ない形で開発ができたことになり、ある種購入者がアスリートを支えるようなクラウドファンディングの形になっている。偶然なのかもしれないが、なかなかのアイディアだ。
そして、もう一点、このシューズ、Evo 1がたどってきた道はまるでVapor Flyがたどってきた流れを同じだ。このシューズを着用した選手が活躍して、そして、活躍する選手が目立ってきて、他の選手にも「それを履かなければ自分も勝てない」と言った心理が生まれていく。
今回、こういった現象が、多くの箱根駅伝の選手にも差し迫った購入意欲をもたらし(提供を受けたランナーもいるはずだが)、それが今回のブランドシェア1位にもつながったと言っていいだろう。
□スタンダードNIKEに対する評価は厳しい
首位の座を渡し、3位となったナイキだが、逆に、まさかこんなに大胆に未発売モデルを着用させるとは思わなかった。選手にあまり評判が良くないVaporFly 3に変わって未発売モデルであるVapor Fly 4を提案してきたのだ(Streak Fly 2のランナーもいた)。
そのVapoir Fly 4を履いた1区の中央大学吉居選手の区間賞はインパクトあったし、青山学院大学山登りの若林選手の区間新もこのシューズが支えた。
はっきり言って、ナイキに対してアスリートの評価は厳しい。何せこの新しいカテゴリー作った元祖のブランド、新モデルに求められることは、単純に過去モデルを機能性で超えてくるだけではなくて、彼らの大きな期待も超えてこないといけない。
結局、Vapor Fly3は良いシューズであるが、アスリートの期待値を超えられなかったのだろう。前回100回大会にはそれが見えてしまって、メーカーが意図しない旧モデルを着用するランナーが散見できた。

今回のVapor Fly4投入により、着用品番が絞れて、Alpha Fly3にもかえってフォーカスすることができた。
そして、この商品は“うるさい“ナイキアスリートの期待値をしっかり超えたモデルのようで、それはかなりプラス要因だ。
Vapor Fly4を着用できた学生は特別扱いではあるが、だからと言って、人生で一度きりかもしれない箱根駅伝の大舞台で履くハレの日のシューズ、何でもかんでも履いてくれるわけではないからだ。
つまり、履きたいから履いてくれた、選んでくれたということであろう。ナイキは足数、シェアでは落としたものの、マーケティングでは勝った、そう感じた。
□アシックスはプロトタイプを投入
同じアシックスもほとんどの学生にプロトタイプを着用させた。これは昨年も同じであった。
こちらも開発中(発売前)の商品3品番と現行商品2品番、そして、1人だけ旧モデルを履いて計6種類の着用があったのだが、視聴者の目にはほぼ1種類しかないように写ったことであろう。
白地のアッパーにソールには左右でピンクと黄色の派手な着色が施されたシューズは、カラーリングは現行で発売されているモデルと同じだが、実は、開発中のモデルも同じカラーリングを施してあり、つまり、同じように見える1足は、現行品とプロトで全部で4種類あったのだ。

そのうち、ヒール部にTOKYOと書いてあったのが次期発売モデルで、ミッドソールの踵あたりが四角くボリュームがあるソールで見分けることができた。
そして、もう一つ、MetaSpeed SkyでもEdgeでもないMZ- TYPE 1と登録されているモデルは、Evo 1を目指してテストされているシューズのようだ。今回、アシックスはそれらを含めて次を見据えた野心的な活動をしているように感じた。

3位に甘んじていられない、そういう気概を感じるものの、TVの報道によると、5区では、アシックスのプロトタイプシューズのソール傾斜をさらにいじった山登り専用カスタムシューズを着用したランナーがいたそうだ。
日本のローカル駅伝で世界陸連のルールがどうだとか、こうだとかということはないのだが、学生が今後世界で戦うことを想定した場合、ルールにのっとって既製品を着用することになり、こういった特別扱いは逆に選手のためにはならないように思う。
まあ、どっちにしてもプロタイプ、テスト中なので…だとしても、山登り専用シューズなんてニッチなシューズ開発コストをどこで回収するのか、この辺りも上述のように、アディダスのEvo 1の方がその点はしたたか、そして結果も出ている点でもアイディアとしても上だ。
シューズが作り出すロジックにランナーがある程度合わせることによって速く走れるのがスーパーシューズと言っていい。むしろアシックスも開発しているMZ-TYPE 1がまさに“これを履け!的“アシックス流のEvo 1、とんがったバージョンなわけだ。そんなシューズを企画する一方、昭和のような話“カスタム対応“とはこれはチグハグだ。
□Mizunoの復活はあるのか
さて、かつては70足以上シェアがあったミズノ。今大会は1名とかつて首位を争ったアシックスとは対照的な結果となっている。
ただこのブランドはなかなか面白い取り組みをしていることは確か。それが身を結ばない。
スムーズスピードアシストは、ふくらはぎの負の仕事量を軽減して、スピードを維持しやすくするというもの、この奇抜なミッドソールのいちばん厚い部分は60mm近いスタックハイトもある。まさに世界陸連のシューズルールの隙間をついたようなプロダクトとして、デザインとしても、機能性としても魅力が溢れるものだと言っていい。

ただ結果が出ていない。着用ランナーの目立った成績がない。
結局、それでは、当然であるが、この画期的なスタイル、機能性を一生に一度の機会であるかもしれない箱根駅伝本番で受け入れるのは難しいのかもしれない。
そして、マーケティング手法。
日本でお披露目されるのが最後で、アメリカやヨーロッパで先行して新商品モデルを公開する戦略は、SNSで情報は瞬時に行き交う時代、ここにも問題がある。シンプルに世界同時公開をした方がいいだろう。
ヨーロッパでの結果を引っさげて、満を持しての日本での発売という流れを期待しているのかもしれないが、どうせなら、夏合宿でのランナーとの開発プロセスからSNSで見せてしまって、消費者をワクワクさせる、そんな方法だってあるにはある。
まずはミズノ復活には、1にも2にも実績、それに尽きる。そして、それを引き立てるマーケティング手法だ。
□では、Evo1の次はあるのか?
はっきり言ってアディダスも安泰ではない。
このブランドの起爆剤Evo 1は模倣される運命だ。現状参入が難しい状況のブランドもEvo1を作れれば風向きは一気に変わるだろう。ミズノのプロダクトだってEvo 1化する可能性だってある。
ちなみに、このEvo 1というシューズ、現状できる技術やアイディアを全て出し尽くしたようなモデル。なかなかこれ以上先にテクノロジーを推し進めることは難しい。つまり、追われる身であることは間違いない。
実は、世界陸連のシューズリストに“Evo 2“がすでに登録されているが、リーク情報などはなく全くベールに包まれたモデルになっている。果たしてどうなんだろうか。
ただアディダスはこの機運を、アディゼロという成功体験にプラスして、さらにマラソン完走などボトム層にもハマる機会にしたい。ゆっくりペースをサポートするデイリートレーナーモデルもウルトラブーストのみから脱却した、実は2025年の時点でとても良いラインナップになっている。
スーパーノバシリーズ、アディスターは大幅に見直されて、全体的なセールスが伸びる土壌はできている。まずは、アディダスのランニングシューズが、アディゼロだけでないことを知ってもらうチャンス、今回の箱根駅伝での成果はまずここで見ることができるのではないだろうか。
