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【活動報告】第1回TFC×TEL×RMC協働プロジェクト Sustainable Open Innovation Seminar― 社会と知のフロンティアを拓くAI for Science―(2026/05/21)

ChatGPTをはじめとする生成AIが登場してから、私たちの生活や仕事の中でAIに触れる機会は一気に増えました。文章をつくる、翻訳する、要約する、アイデアを出す、画像を生成する。少し前までは専門的な技術のように感じられていたAIが、いまでは日常の中で使える身近な道具になりつつあります。こうしたAIは、社会課題を解決するための手段にとどまらず、学術研究そのものの在り方を変える基盤技術としても注目されています。AIが研究現場に浸透したとき、どんな可能性が見えてくるのでしょうか。また、どんな課題が立ちはだかるのでしょうか。こうした問いについての議論を深める場として、知の創出センターでは、Sustainable Open Innovation Seminar「社会と知のフロンティアを拓く AI for Science」を継続的に実施していきます。
第1回目のセミナーは、5月21日に、東北大学片平キャンパス 知の館にて実施しました。本セミナーでは、坂口慶祐先生(東北大学 大学院情報科学研究科)、徳田英幸先生(国立研究開発法人情報通信研究機構)をお招きし、AIの基本的な仕組みから、研究開発の最前線や社会実装の実例、そしてAIの安全な活用に向けた課題まで、幅広くお話しいただきました。本記事では、講演の内容や当日の様子について、ご紹介していきます。
※イベントの詳細はこちらをご参照ください。

AIの仕組みとこれからの展望

坂口先生は、ChatGPTやClaude、Geminiなどに代表される生成AIが急速に広がる中で、その基盤となる大規模言語モデルがどのような仕組みで動いているのかを、専門外の参加者にも分かりやすく解説されました。

坂口先生はオンラインにて、ご講演いただきました。

私たちがAIに質問をすると、AIはすぐに自然な文章で答えてくれます。そのため、まるでAIが「意味を理解して考えている」ように感じることがあります。しかし、坂口先生の説明によると、言語モデルの基本は、ある言葉や文脈が与えられたときに、「次にどのような言葉が続きやすいか」を予測することにあります。例えば、「仙台市」と入力されたとき、その後に「青葉区」や「泉区」などの言葉が続きやすいと予測する。あるいは、「今日はとても」と来たら、「暑い」「寒い」「良い天気」など、次に来そうな言葉の候補を計算する。このような予測を積み重ねることで、AIは文章を生成していきます。もちろん、現在の生成AIは、単純に次の単語を一つずつ選んでいるだけではありません。膨大な文章データをもとに、言葉と言葉の関係、文脈、表現のパターンを学習しています。人間にとっても、文脈から次に続く言葉を予測することは簡単ではありません。それを大量のデータと計算によって実現しているところに、現在のAI技術のすごさがあります。
一方で、生成AIの利用が広がる中で、フェイクニュース、セキュリティリスク、エネルギー消費、雇用環境の急激な変化など、社会的な課題も見えてきています。AIは文章や画像を自然につくることができるため、偽情報の作成や拡散にも使われる可能性があります。また、AIを大規模に動かすためには、計算資源や電力も必要です。AIの性能向上は、技術的な進歩であると同時に、社会や環境への影響も含めて考える必要があると、坂口先生はお話されていました。
同時に、AIが大きな可能性を秘めていることも、坂口先生の講演から伝わってきました。特に近年、注目されているのが、「AI for Science」という考え方です。これは、AIを活用して科学研究を加速し、新しい発見や技術開発につなげていくものです。たとえば、膨大なデータの中からパターンを見つける、新しい物質や薬の候補を探索する、複雑なシミュレーションや解析を効率化する、といった使い方が考えられます。これまで研究者が時間をかけて調べていたことを、AIが補助することで、研究が大きく進むかもしれません。ただし現状では、AIが研究者の代わりにすべてを行うわけではありません。AIが示した結果をどう解釈するのか、そこからどのような問いを立てるのか、社会にとってどのような意味を持つのかを考えるのは、やはり人間の役割です。だからこそ、坂口先生からは、「常に好奇心をもって、さまざまな人とかかわりながら、創造性をもつことが大切である」と強調されていました。


AIが急速に進展する時代だからこそ、AIにはできない発想や着眼点をもつことが重要なのだと感じました。

NICTにおけるAI研究開発の最前線

続いて、徳田英幸先生からは、NICTにおけるAI研究開発の最前線についてご講演いただきました。

徳田先生がご講演されている様子

NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)は、情報通信分野を中心に研究開発を行う機関です。その役割は多岐にわたり、日本標準時の維持、宇宙天気予報、サイバーセキュリティ演習、研究開発支援など、社会を支えるさまざまな取り組みを担っています。AIに関しても、NICTでは多くの研究開発が進められています。講演では、AI研究開発推進ユニット、AIセキュリティ研究センター、国際的なAIのルールづくりに関わる専門家支援センターなど、組織横断的にAIの研究と社会実装に取り組んでいることが紹介されました。特に印象的だったのは、多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」と同時通訳システムのお話です。VoiceTraは、話した言葉を別の言語に翻訳するアプリです。音声をテキストに変換し、そのテキストを別の言語に翻訳し、さらに音声として出力することで、異なる言語を話す人同士のコミュニケーションを支援します。音声翻訳は、単に言葉を置き換えるだけではありません。たとえば、医療、観光、交通、行政、災害対応など、使われる場面によって必要な言葉や表現は異なります。製薬分野で使われる「study」は、単に「勉強」と訳せばよいわけではなく、文脈によっては「治験」と訳す必要があります。こうした専門分野ごとの言葉の使い方を学習させることで、より実用的な翻訳が可能になります。NICTでは、専門分野ごとの翻訳精度を高めるために、翻訳バンクのような仕組みも進めてきました。専門家が使ってきた日本語と英語のペアデータを活用し、特許、医療、金融、法務、工業技術など、さまざまな分野で使える翻訳技術の開発につなげています。
さらに、同時通訳システムの研究開発も進んでいます。従来の翻訳では、1文が終わってから翻訳することが一般的でした。しかし、人間の同時通訳者は、話の途中で意味のまとまりを見つけながら、少しずつ訳していきます。NICTの同時通訳システムも、できるだけ短い単位で意味を捉え、遅延を小さくしながら翻訳することを目指していると徳田先生はいいます。この日は、実際に同時通訳システムのデモも行われました。話した内容がすぐに別の言語へ変換される様子に、会場からは驚きの声があがっていました。

同時通訳システムのデモの様子

また徳田先生は、AIセキュリティについてもお話しされました。AIはサイバー攻撃を防ぐために使うこともできますが、反対にAI自体が攻撃の対象になることもあります。また、AIを使って脆弱性を見つけたり、攻撃の方法を組み立てたりすることも可能になりつつあります。これまでのセキュリティ対策では、見つかった脆弱性を一つずつ修正していくことが中心でした。しかし、AIが複数の弱点を組み合わせて攻撃の道筋を見つけるようになると、従来とは異なる考え方が必要になります。また、AIの出力が正しいかどうかを評価する仕組みも欠かせません。生成AIは便利ですが、間違った内容をもっともらしく出力することがあります。そのため、AIが出した答えの根拠を確認する、危険な使われ方を防ぐ、社会の中で安心して使えるようにルールを整える、といった取り組みが必要になります。AIを社会で使っていくためには、「つくる」だけでは不十分です。どのように評価するのか。どのように管理するのか。どのようなルールのもとで運用するのか。徳田先生の講演からは、AIを安全かつ信頼できる形で社会に生かしていくための課題が見えてきました。

AIとどう向き合うか

両講演を通じて、AIは単なる便利なツールにとどまらず、研究の進め方そのものを変え、社会の制度や価値観にも関わる重要な基盤技術であることが分かりました。AIを使うか、使わないか。そうした二択だけではなく、どのように理解し、どのように使い、どのように社会の中で生かしていくのかを考えることが、これからますます重要になると思います。本セミナーが、多くの方にとって、AIの可能性だけではなく、AIとの向き合い方についても考えるきっかけとなれば幸いです。 今後のセミナーにも、ぜひご注目ください。
文責:倉田祥徳(東北大学 知の創出センター プログラムコーディネータ)


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