「静寂」は、まったく音がないわけではない。
#20250727-569
2025年7月27日(日)
娘、夏季休業日9/44日目。
夫、出勤日。
今、16時50分。
5時半出勤と早朝勤務だったむーくん(夫)は、退社も早く、15時前に帰宅した。この酷暑でも自転車通勤をしているため、汗だくで玄関に立つ。いや、汗っかきのむーくんは冬でも汗をかいての帰宅だが、もう今夏は汗がしたたり、玄関の三和土に、廊下に、彼が立つところに汗がぽたぽたと落ちる。
玄関から風呂場へ直行してもらわないと、あちこちに汗だまりができる。
一刻でもはやく汗を流したいだろうに、むーくんは浴槽の残り湯をバケツに汲んで、玄関先に撒く。
少しでも家のまわりを涼しくしたいという。
連日の厳しい暑さにアスファルトの路面は熱を帯び、撒いた水はすぐ乾いてしまう。それでも、敏感に水の気配を感じて、どこからともなく蝶たち——アオスジアゲハやキアゲハが吸水にくる。
ひとしきり水を撒くと、昨晩の残り湯にむーくんは身を沈めて、火照った身体を冷やす。
夏休み中のノコ(娘小6)がいそいそと浴室に冷えた緑茶のグラスを運ぶ。
予定通り宿題が進んでいないことをむーくんに指摘されたくないのか、ノコは塩タブレットを捧げるのも忘れない。
朝からずっと「ママママ、ママママ、ママママ」連発で、時折「Alexa」とAmazon製の音声アシスタントへの呼びかけが混じったが、大半が「ママ」で占めていたノコの呼びかけが、むーくんの帰宅でようやく「パパパパ、パパパパ」も加わり、分散される。
早朝出勤のむーくんは汗を流すと、居間のソファーに横たわる。
扇風機の風を直接身に受けながら(私にはできない!)静かに寝息を立てている。
声がしないと思ったら、ノコもいつのまにかテーブルに宿題を広げたまま、その上に顔を伏せてうたた寝している。
時折、ふごっと少女らしからぬ音を立てて鼻を鳴らすので笑ってしまう。
冷房が効いた居間は窓を閉め切っているが、それでも蝉の声が聞こえる。
今夏は暑さのあまり、蝉が地上に出てこられず蝉の声がしないとニュースで報じていたが、我が家の周辺では例年通り蝉が合唱している。
上空を飛行機が過ぎていく。
5年前から羽田空港からの飛行経路が変更になり、飛行機が低く行き交う空が日常になった。
夕飯は豚の角煮だ。
ホットクックにまかせてあるので、仕上がりを告げるアナウンスを待つだけで火の調節などは不要だ。時計の針の進みとともに、角煮の匂いが居間に広がっていく。
扇風機の羽が空気をかきまわす唸り。
重なり合う蝉の声。
飛行機が近づき、遠ざかっていく音。
シェードを通して届く陽射しがゆっくりとやわらぎ、夕暮れが進行していく。
私は音がない空間が好きだ。
音がないといっても、無音室ではないので小さな音があちこちから上がる。
こうやって記事を書いている今はPCのキーを打つ音もそこに加わる。
だれひとり言葉を発しなくとも、賑やかなのだ。
ほら、今もまた手首につけたFitbitがスマホと連動しているため、何かの着信を知らせようとブブと震えた。
ああ、気付けば17時22分になった。
我が家の夕飯は18時だ。
副食の豚の角煮は調理器具まかせだが、サラダは作らねばならない。
汁物は、インターネットのレシピ検索で見つけた酸辣湯もどきにしよう。味付けもずくを使うのだが、手軽でおいしい。酸味がノコには不評だが、夏の疲れによい。
ノコ好みの料理ばかりを作ってはいられないのだ。
あと少し——あとちょっとだけ、と2人を起こす時刻を先延ばししたくなる。
だって、2人が起きたら、いっきに居間は音であふれかえるのだ。
ノコは「ママママ、ママママ」「パパパパ、パパパパ」と本日の分の宿題が終わらなくてもTVを観たいと騒ぐだろう。むーくんはそんなノコに日中「なにをしていたのだ」と問うだろう。
TVが無理ならせめて音楽でもとノコがAlexaに曲を流すよういいそうだ。
——でえでえ、ぽっぽぉ。
キジバトが屋根の上でさえずりだした。
17時32分。
さて、この記事を上書き保存し、台所に向かおうか。
私の愛しき静寂よ、さらばなり。
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