「やっちまった」としかいいようがない。
#20250127-508
2025年1月27日(月)
私は毎朝ヨガをし、定期的にスロージョギングもしている。
むーくん(夫)と出会ったのもロードバイクの走行会でだ。
スポーツ好きだと思われそうだが、運動神経はすこぶる悪い。
体を動かすことが気持ちいいと感じるようになったのは、大人になってだいぶ経ってからだ。
右橈骨遠位端骨折。
ひらたくいえば、右手首の骨を折った。
ノコ(娘小5)がローラースケートをやってみたいというので、今日は家族3人都内にあるローラースケート場へ行った。
ローラースケートは、小学生の頃にちょっとだけかじったことがある。当時は、靴に着脱する4輪タイプのものだった。
ローラースケート場のWebサイトを覗くと、レンタルのローラースケートには様々な種類があり、憧れのインラインスケートもあった。
ノコにねだられたていを装ったが、実は私自身かなりワクワクしていた。
生まれてはじめてのローラースケートにノコはおっかなびっくり慎重だったが、私は思いのほか滑れたため調子に乗ってしまった。
そうなのだ。
インラインスケートは私もはじめてだったのだから、ほどほどにしておけばよかったものを図に乗ったのだ。
あっと思ったときにはバランスを崩し、斜め後ろに倒れ、手をついてしまった。
その瞬間、これはダメなつきかただと思った。
息が止まり、世界はフイルム写真のネガのように反転した。
音が遠く、気持ちが悪い。
痛い、痛い、痛い。
身を起こすこともできない。
以前、ロードバイクで左手首を骨折したことがある。
その時は手首がぷらんと垂れ、持ち上げられなかったが、痛みはたいしたことはなかった。
今回はその時の痛みと全然違う。
とりあえず冷やして家に帰り、様子を見るという状態ではない。
すぐ病院へ行かねばならない。
幸いなことにかかりつけの大学病院が近くにあった。
すぐそこの救急外来にタクシーで向かった。
ノコは自分がローラースケートをやりたいとねだったからだと何度もいった。
その度に私は「あなたのせいではない」と何度も返した。ママが調子に乗ったのだ、と。
ローラースケートを終えたら、おやつにする約束をしていた。
「おやつはもう少し待ってね」
私がいうと、ノコは「いやだけど、待つ」といった。
こういうところは、笑っちゃうほど正直だ。
救急外来に着いたものの、なかなか呼ばれない。
あまりにも痛いので、現実逃避に眠りたいのに痛くて眠れもしない。
「痛い。痛くて寝れない」
むーくんが困ったように眉根を寄せる。
ノコには院内の売店のお菓子で我慢してもらった。
レントゲン撮影をした結果、橈骨が折れた上、ずれている。
これを引っ張って正しい位置に戻してから固定すると医師が説明した。整復というらしい。
横たわったまま右肩にエコーをあて、神経の位置を確認しつつ麻酔の注射を打たれた。
「麻酔があまり効かない体質の人がいるんですが、そのときは一緒に頑張りましょう」
医師がいった。
「頑張りたくないです」
思わず本音がこぼれた。
しばらくすると、右腕全体がしびれだし、自分の腕がどこにあるかわからなくなった。
腕が持ち上がっている気がするのだが、視界にない。頭をもたげて探すと、体の脇にだらんと横たわっていた。
救急外来の裏方は慌ただしく、次から次へと急患が運び込まれてくる。
――弁当が届きました、食べられる人は食べちゃって、あと少しでまた来るよ!
なんていう声がカーテンの向こうで飛び交っている。
「どうですか?」
医師が顔を出した。
「しびれて、腕の位置がわかりません」
「それはよかった、麻酔が効いてますね」
笑顔を残して、カーテンが閉じた。
整復はレントゲン撮影をしながらだった。
整復する医師の手も骨だ。痛みがないことをいいことに、私はじっと画面の中の自分の骨を見つめた。医師が思いっきり引っ張る。
「麻酔が効かなかったら絶叫ものですよ」
そういわれ、思わず苦笑いしてしまう。
レントゲンのもとギプスを施された。
薄いメリヤス編みの筒状の生地に腕を通す。ギプスの下地包帯らしい。その上から包帯状の綿をぐるぐると腕に巻き、さきほどの下地包帯を折り返す。さらに目の粗い包帯のようなもので巻く。これを水で濡らすと樹脂が固まってそのままギプスになるらしい。
骨折したのは手首だが、肘の手前から指の根本までガッツリ覆われてしまった。
骨折したのは15時。
病院を出たのは20時。
すっかり街は夜になっていた。
「お腹すいたぁ」
ドーナツと菓子パンとヨーグルトを食べたノコがいった。
麻酔は朝までもつといわれたが、右腕全体が痛い。
それでも腹は満たさねばならぬ。
むーくんが通りに並ぶ店の看板を見上げた。
「ママが食べられるものでないとなぁ」
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