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目をつぶる【シロクマ文芸部】

 目をつぶる。目蓋越しに昼の明るさを感じながら。ぼんやりと輪郭のない光・・・ござの上に寝転んでいるから庭の土が固い。息を吸って声を上げる。
 「コケッコッコウ!夜が明けた!」
 ままごとでは、これが朝の合図。お母さん役の私の声に、よっちゃんとゆうこちゃんとみきちゃんが一斉に起き上がる。さぁ忙しい!椿の葉っぱのお皿に松葉ボタンの花びらの朝ごはん。お父さん役のよっちゃんは、皆の「行ってらっしゃい!」の声に送られて仕事に出かける。

 よっちゃんは義彦という名でメンバー中たった一人の男の子だったから、いつもお父さん役。近所に住みいかにもいたずらっ子という面構えだった。ある日よっちゃんの家の納屋でお医者さんごっこをしよう、ということになり女の子たちは「さぁお尻をむけてパンツを下ろして」と命令された。なんの疑いもなく従うと、よっちゃんがイタドリの葉っぱで順番にお尻を撫でて終わりになった。なんてことない、と思ったのだがその話を祖母にすると大問題になり、よっちゃんとの遊びはおしまいになった。

 中学生になるとよっちゃんは野球部のピッチャーになった。といっても田舎の小さな学校だったから野球部なんてあったの?程度だったが。試合を見に行くと、よっちゃんは生意気にもガムをかみながら、照れたように笑ってキャッチャーのサインに首を振った。打たれたボールは凡ゴロだったのに一塁手がエラーをしてヒットになり「チキショー!」と帽子を叩きつけた。昔とおんなじ逆スペード型の坊主頭が揺れた。

 大学生になって夏休みに帰省中、バスで偶然よっちゃんと会った。近所に唯一ある鋳物工場に就職したという話は聞いていたので「仕事どう?」と聞いてみると「班長になった」と自慢げだった。内容は忘れてしまったが、久しぶりの出会いに話がはずみ、よっちゃんの降りるはずの停留所を通り越してしまった。照れたように笑って次のバス停で降りたよっちゃん、今度会ったら「わたしのお尻見たでしょ?」なんて言ってみようか。

 目をつぶって幼かった日々を思いおこす。目蓋越しに見える光のように朧気で、でもなにか幸せの芽を抱えていたようなあのころ、その芽は育ったもののすっかり枯れてしまった日々もあった。でも再び芽生えさせることだってできるはず。その方法をじっくりと探し出そう。

        おわり


小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお手間をおかけしますがよろしくお願いいたします。


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