片付かない【青ブラ文学部】
引っ越して来て半年、マンションの同じ階に親しい人ができた。80歳くらいの老人でいつもにこにこと穏やかだ。矍鑠とした言動、身体は筋肉質で、若いころはスポーツマンだったのだろう。
最初に会ったのはエレベーターのなかで
「最近引っ越してこられたんですね」と話しかけられた。
「ひと月前ほどですが、なかなか片付かなくて・・・」
わたしが答えると
「ほう、片付かない・・・そうですなぁ、片付けは大変だ」
と、ひどく同情してくれた。
数日前、マンション裏を流れる川に沿った遊歩道を歩いていると、ベンチに座って新聞を読んでいるその老人と出会った。
「やぁ、貴方も散歩ですか?」
いつも通り人懐こい笑顔で声をかけてきた。
「イヌノフグリが咲き始めているので見に来たんですよ」
「なるほど、ここらあたりにも家が増えて自然が減りましたからね」
「新聞読んでいらっしゃるんですか?」
「毎日閑ですからね、隅から隅まで読んでいますよ。きな臭いことが増えてやな世の中になったもんです」
昨日大きな音がするので廊下に出てみると、なんと彼の部屋から荷物が運び出されていた。青いユニホーム姿の作業員たち…つい最近私が頼んだ引っ越し業者だ。ちょうど運ばれていた段ボールには赤い文字で「割れ物注意」と書かれている。食器だろうか?それが最後の荷物らしく作業員たちがエレベーターに姿を消すとあたりはシン!と静まった。ドアが開いたままの部屋にそうっと入ってみた。うちと同じ間取りのがらんとした部屋の隅にくちゃくちゃに丸めた紙が落ちている。片付けなくちゃ、と拾って読んでみると
【 IED トランプ プーチン 立花 】
え?人の名前?
IEDって?
いけないものを見たようでわたしはその紙を破り捨てたが、どうも気になり調べてみた。
IED 即席爆発装置 (そくせきばくはつそうち、 英語: Improvised Explosive Device)とは、あり合せの 爆発物 と 起爆装置 から作られた規格化されて製造されているものではない簡易手製 爆弾 の総称である
え?爆弾?割れ物注意の箱の中身は爆弾製造のための薬品?
あの三人の名前はターゲット?
老人のあの時の妙に実感のこもった声が蘇って来た。
「片付けは大変だ」
おわり
「世の中に片付くなんてものはほとんどありゃしない。いっぺん起こったことはいつまでも続くのさ。ただ色々な形に変わるからほかにも自分にも解らなくなるだけのことさ」をテーマにした作品ということで
山根あきらさんの企画に参加させてください。
山根あきらさんお世話をおかけしますがよろしくお願いいたします。
#青ブラ文学部
#世の中に片付くなんてものはほとんどありゃしない
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