三月は【シロクマ文芸部】
三月はやりきれない月だ。僕はとんでもないことを引き起こしてしまったから・・・
小学生のころだったから、もう四十年以上も昔のことだが……良太、そう小池良太という名前の同級生がいて、僕は彼とよく間違えられた。瓜二つというわけではないが、どこか似ていた。顔の長いところ、体に比べて手足が長くひょろりとした印象……うしろから見るとそっくりらしく、僕はよく、「良太!」と声をかけられた。
僕の生まれたのは横須賀だった。三浦半島の西側で、東京から近いわりに交通が不便な場所だった。父親は漁師で、毎日早くから海にでていた。二つ年上の兄と、その友達にいつもつきまとって、下校時間ギリギリまで校庭で遊んだ。小学校の裏は小高い丘になっていて、二年生の頃、そこを削ってグランドを広くする工事が始まった。毎日パワーシャベルが赤土をけずり、何人かの男たちが、スコップで、機械の手がいきとどかない部分をけずったり、整えたりしていた。土をすくうスペード型の上辺に足をかけ、ぐいと土につきさす。スコップが土をつかむと、ひょいと投げる。そのリズミカルな動きは楽しそうだった。綱がはられ、立ち入り禁止の看板がでていたが、子供達は大人の目をぬすんで、綱の中に入るという、ひそかなスリルを楽しんだ。
ある日、その小池良太が家に帰らない、ということで大騒ぎになった。担任の木下という若い女性教師が、たしかに校門からでて行く良太の姿を見た、と話したことから、良太は学校から家までの間で姿を消した、ということになった。消防団に入っていた僕の父親もかりだされ、近くの川、海、海岸につながれた舟の中など、夜遅くまで捜索が続いたがついにみつからなかった。翌日、学校にきた人夫の一人が自分のスコップがなくなっていることに気づいた。 土のくずれたあとを探してみると、そこにスコップを握ったままの、良太が埋まって いた……
その知らせを聞いたときの、木下の姿を僕は今でもハッキリと覚えている。フラフラと崩れるように、教壇わきの椅子に腰をおろし、机に突っ伏したまま、動かなくなってしまった姿を……。
良太が姿を消した日、僕はいつもどおり校庭で遊んでいた。下校時間の音楽、(たしか、アニーローリーだった……)が鳴っても、うんていに夢中だった。兄より早く向こう側に着くんだ、と、腕が痛くなってもぶらさがっていた。ふとグランドを見ると、誰もいない。兄とその友達は先に帰ってしまったのだ。あわてて昇降口を走り抜けようとしたとき、職員室の方から木下が歩いてきた。うす暗い廊下だった。
「あら、さようなら」
木下の声に、振り向きもしないで校門を走り出た。少し照れくさかった。 先生があの日「帰って行く良太を見た」と言ったのは、もしかして、あのときの僕を良太と見間違えたのではないだろうか。もし、僕が、振り返って先生に「さようなら」と答えていれば、帰ったのは僕で、良太は校内にいる、ということになり、もっと早く発見され死なずにすんだのかもしれない……
それに気付いたとき、僕は身体の震えが止まらなかった。
三月になるたびあの日を思い出す。良太を死なせたのは僕だったかもしれない、と心が疼くのだ。
おわり
小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお手間をおかけしますがよろしくお願いいたします。
小学二年生の時に起きた悲しい事件をもとに書いたフィクションです。
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