読書感想文⑩
『いま、希望を語ろう』
ポール・カラニシ著
田中文 和訳
2016年11月 初版
2026年5月30日読了
あらすじ
全米100万部突破。AMAZON.COM/《ニューヨーク・タイムズ》1位の世界的ベストセラー、待望の邦訳。 ポール・カラニシ、36歳、脳神経外科医。 2013年5月、末期がんと診断される。 妻との新生活、夢の仕事の実現という未来が目の前から消えた。 でも、希望は捨てない。 医療現場への復帰をめざし、夫妻の子供を望み、死の直前まで書いた。限りなく前向きな生の記録を。
本書が全米でベストセラーになった理由
私が本書を読み終えて最初に思ったのは「この本は肺がんで亡くなられた著者であり脳外科医ポール氏からその夫を看取った妻であり医師のルーシー氏へのリレーで共同制作された秀逸な一冊」ということ。もともとはポール氏だけで完成させる本書だったが執筆途中で亡くなられたため妻ルーシー氏がポール氏の執筆を引き継ぐ形となった。
本書は3部構成からなる。
プロローグ
現役の36歳脳外科医がまさかの肺がんに侵され治療生活の開始点である2013年5月の時期から本書がスタート。
1 ポール氏の幼少期から医大生、研修医になり激務に追われながらも脳外科医の仕事を通じて生と死を探求する自分史の紹介。文学が好きで哲学にも精通。そんなポール氏が父と同じ医師の道を歩むべく医科大学に入学し研修医として激務に奮闘。腕がよいうえに脳外科医の視点で人の生と死を探求する。
2 自分史からプロローグの続きに戻る。
肺がんステージ4の闘病生活。治療の過程で一度は降りた脳外科医の手術室に再び戻ろうとリハビリに励みそして抗がん剤治療が続く中、体調がよい時、脳外科医として手術の場に復帰。しかし、がんはポール氏の身体を蝕み医師としての仕事はすぐに降板。
そして夫婦葛藤を経て子どもが誕生、がんの再発。ポール氏は自身の本の執筆を目指し仕事道具をメスからノートパソコンに移行して亡くなる直前まで本の制作に励んだ。
3 エピローグ。ポール氏は2013年5月に肺がんを診断されてから2年の闘病を経て2015年3月に旅立った。その横にずっと寄り添っていたのが医学生時代からの恋人であり妻となったルーシー。そのルーシーがポール氏の闘病した時期の回想をする。
秀逸すぎるエピローグ
妻ルーシーによるエピローグがこの作品を全米ベストセラーへ昇華させたと私は思う。ルーシーは夫ポールのつらかった闘病生活の記録だけでなく彼の人となりにもたくさん触れておりポール氏の書いた難しい前半部分(脳科学者、脳外科医の視点からややお固くて回りくどい表現や素人にはたくさんの理解しづらい専門用語など)が意味のあるものとして私のような素人の読者に教えてくれている。
そしてルーシーも難しい表現の多い本書をよく理解しておりエピローグではポールの最期の1年における治療過程や副作用を簡単な表現で読者へ伝えてくれている。また治療にとどまらずお出かけしたり子どもと遊んだりの束の間の楽しい思い出やポールはユーモアあふれる面白い人、子どもが大好きで自分の赤ちゃんをひざに乗せて最期まで執筆活動していたこと、家族、親戚に囲まれ旅立たれたことなどにも触れておりポールの家庭での顔というものが伝わってくる。そして2人の愛の深さも。医大生の時に愛したポール、現役医師として大好きだったポールより闘病生活をしながらも目標を持ち集中力を切らさなかったポールはもっと愛しい。
このあたりのくだりになると涙腺崩壊してしまう自分がいた。
本書の感想
人の生と死。一生懸命に真っすぐにやりたい勉強や仕事と向き合った現役時代。まさかの末期がん告知から希望を捨てずに抗がん剤治療の間に手術室の執刀医としてわずかな時間の復帰、妻と悩んだ末にもうけた新しい命、そして抗がん剤治療中に居間の椅子で本の執筆に励んだ最期の数カ月。
腕も確かなエリート脳外科医であり大学教授の地位も確約された37歳の男性は最期までその威厳を失わずに私たち生きる者に「生と死とはこういうことなのだ」というひとつの道をしるしてくれた。
その横には妻ルーシー、そして2人の愛の結晶ケイディがいた。ルーシーも現役医師だっただけに検査で腫瘍の憎悪が確認されていく度に先が少しずつ見えてしまう部分もあったことだろうし一般的な夫の闘病に寄り添う妻とはまた違うつらさや感情があったと思う。ポール氏が旅立たれてから10年以上の月日が流れた今、ルーシーとその子どもは元気に日々を送っているとよいな。
ポール氏から本書を通じて教わったことは
「今という時間を大切に生きなさい」
「状況が変われば今までのアイデンティティは卒業して新たなアイデンティティを作ればよいんだよ」
ということになる。
私は3年前にがんにかかり手術後のつらい治療過程で「食の大切さ」「仕事はこんつめないでほどほどがよい」を学び実践中だ。
ポール氏の学びからさらにアップデートできることがあればしていきたいと思えた。

