第23話:昭和の暮らしを支えた 名もなき仕事図鑑『井戸さらえ屋さん──水をよみがえらせる仕事』(repost)
昔は、どこに どんなふうに おられたんですか?
井戸はな、どこの家にも当たり前にあったんや。
でも長く使ううちに、底には泥や落ち葉がたまって、水が濁ってまう。
そんなとき頼りにされたのが「井戸さらえ屋さん」やった。
町の井戸端でも、村の集落でも、年に一度か二度は声をかけて、
「井戸さらえお願いしまっせ」と呼ぶんや。
夏の夕立のあとなんかは特に、水が濁って飲めんようになってな。
どんなことをしてはったんですか?
井戸さらえ屋さんは、まず縄をきゅっと体に巻いて、桶とともに井戸の中へ降りていく。
暗くて湿った底に降りると、ひやっとした空気に包まれて、ランプひとつで作業をするんよ。
泥をかき出し、落ち葉や小石をすくい上げ、腐った木片や時には蛇の抜け殻なんかも出てくる。
上では仲間が滑車を使って桶を引き上げる。
「おーい、あげてくれ!」という声が地上に響くと、周りの子どもらが興味津々でのぞき込んどったわ。
どんな人たちが その仕事を?
多くは井戸掘りを生業にしとる職人衆やった。
水のこと、土のことをよう知っとって、危険な仕事やから熟練の腕が要ったんやね。
背はひょろりとしていても、井戸に潜る胆力があって、どっか誇らしげな雰囲気をまとっとったよ。
井戸の底から上がってきたときは、泥まみれの顔に笑みを浮かべて、
「ほら、これで水が澄んでくるで」と言うてくれる。
ほんま、命の水を守ってくれる人やった。
その仕事、どうして 見かけんようになったんですか?
水道が町にも村にも通うようになってからは、
生活の水を井戸に頼る家はぐっと減ったんよ。
やがて井戸は庭の片隅で「昔の名残」になっていって、
井戸さらえ屋さんの仕事も、気づけばなくなってしもうた。
今は井戸を残している家もあるけど、
たいていは観賞用か非常用の水としてだけやね。
最後にひと言、もらえますか?
井戸さらえいうのは、ただ掃除するだけやない。
人の暮らしを支える「水の命」をよみがえらせる、尊い仕事やった。
澄んだ井戸水を汲み上げて、茶を沸かす、その一杯の味。
あれは井戸さらえ屋さんのおかげやと、今も心に残っとるんよ。
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