第15話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『かげろうの市と消えた言葉』
語りかけ
リクちゃん、今日も元気にしとるねぇ。
ねぇリクちゃん、ひとは嘘をついたこと、あるかい? うっかりついた小さな嘘も、何度も重なるとね、ほんとのことが見えんなってくるとよ。
今日は、そんな「言葉のちから」について話そうかね。
むかーしむかしの、不思議な市の話じゃよ…。
むかし話
むかーしむかしのことじゃった…
人々が「言葉」を商品みたいにやりとりする、不思議な市があったんじゃ。
その名も、「かげろうの市」。
朝も昼もなく、もやもやとゆらめく空気の中にだけ現れる、不思議な市じゃった。
この市には、いろんな言葉が並んどった。
「ありがとう」や「ごめんなさい」、「大丈夫」や「だいすき」…
それぞれに重さがあり、ぴったりの心がこもったときだけ、キラリと光るっちゃ。
あるとき、「カナエ」という少女がこの市を訪れたんじゃ。
カナエはちょっぴり寂しがり屋で、注目されたいばっかりに、つい嘘をついてしまう子じゃった。
「昨日、有名人と会ったとよ!」
「ほんとはわたし、すごいこと知っとるっちゃ!」
そう言えば、みんなが振り向いてくれるけんね。
でも、市の中では少し違った。
カナエの声は、市に入るたびにどんどん薄く、透けていったんじゃ。
はじめは誰かが「聞こえたよ」と笑ってくれたのに、
ある日、市の番人である白髪の老婆が、こうつぶやいたとよ。
「その言葉、もう軽うなりすぎて、風に流されてしもうたね。」
そのときカナエは初めて気づいたんじゃ。
声が出とるのに、誰にも届いてない。
大切な言葉まで、誰も受け取ってくれんようになったことに――。
泣きながら市をさまようカナエに、老婆はこう言ったんじゃ。
「言葉はね、心とつながっとるとよ。嘘ばかりで心から離れた言葉は、音だけになってしまうんよ。」
老婆は、カナエの胸に手を当ててささやいた。
「ほんとうに伝えたいことがあるなら、心から出さんね。」
カナエは、それから少しずつ、自分の言葉を見つめ直した。
「ありがとう」「ごめんね」「ほんとは寂しかった」
そのひとつひとつに、ちゃんと重さをのせて――。
…そうそう、リクちゃんはちゃんと心のこもった「ありがとう」が言える子じゃもんね。ばあちゃん、いつも感心しとるとよ。えらかねぇ。
子供たちへ
ほらね、リクちゃん、「言葉っちゅうのはな、心の鏡みたいなもん」なんよ。
軽い言葉ばっかり使っとったら、だんだん心も軽うなって、
最後には誰にも届かんごとなってしまうと。
でも、ちゃんと心から話せば、どんなに小さな声でも、ちゃんと誰かに届く。
それが、言葉の力じゃね。
そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。
(終)
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