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第80話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『未来をのぞく井戸』

語りかけ

リクちゃん、
もし「10年後の自分」が見える井戸があったら、どうする?

のぞいてみたい?
それとも……知らん方がよかった、って思うやろか?

今日は、未来を知ることの重さについての話じゃよ。

むかし話

むかーしむかしのことじゃった。

ある山あいの村に、「未来をのぞく井戸」があったそうな。

誰が掘ったのかもわからん。
けれど井戸の水面をのぞきこむと、
10年後の自分の姿が、ひとときだけ現れるというんじゃ。

ただし――
「見えるのは、一度きり」
「見たものは、誰にも語ってはならぬ」

そう言い伝えられとった。

最初は誰も信じとらんかったが、
ある若者がのぞいてみたら、立派な医者になっとる姿が見えた。

すると村じゅうに噂が広まり、
井戸は“希望の窓”として人々に求められるようになった。

「どんな未来が待っとるか」
「わたしは、幸せになれとるか」

見た者の中には、
努力してその未来を“手に入れた”者もおれば、
「どうせこうなる」と怠けて、道をはずれた者もおった。

――ある日、ひとりの少女がやってきた。
名前はつゆ

村一番の勉強家で、まじめで、でもちょっぴり怖がり。

「未来を見て安心したい。
でも、見たら逆にこわくなるかもしれん……」

つゆは井戸の前で、何度も何度も立ち止まり、
とうとう水面をのぞかずに帰っていった。

そのあとも、毎年井戸を見に来たが、
彼女は一度も中をのぞかんかった。

ある年、井戸の前で泣いている子を見つけて声をかけた。

「なにが見えたん?」と尋ねると、子は震えながら言うた。
「……誰も、わたしのそばにおらんかった」

それを聞いたつゆは、ふと思った。

――未来を見るってことは、
うれしいことも悲しいことも、ぜんぶ“先取り”してしまうことなんやな。

ほんとうは、
その場その場で悩んで、選んで、失敗して、
それで少しずつ、自分を作っていくもんなんや。

つゆは、そっと子の手をにぎって言うた。

「だいじょうぶ。今ここに、あんたの手をにぎっとる人がおるよ。
未来は、“今”の積み重ねやけんね」

それからじゃ。
井戸に訪れる人がだんだん減っていったのは。

つゆは村の先生になり、
子どもたちと、泣いたり笑ったりしながら生きていった。

――未来がどうなるか知らんかったけど、
それがいちばん、幸せな道やったんかもしれんね。

子供たちへ

ほらね、リクちゃん、
未来ちゅうのは、“知る”もんやなくて、“育てていく”もんなんよ。

答えば先に見えたら楽やけど、
それじゃ、きみのドキドキも、ワクワクも、全部“おまけ”になってまう。

「……未来がわからんからこそ、頑張れるんかもね」って?

おお、ええこと言うたねぇ、リクちゃん。
その“わからなさ”を楽しめる心が、大事なんよ。

そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。

(終)


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