第2話: ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『海の向こうの約束 〜改心の波〜』
「むかーしむかしのことじゃった…」
海辺の村に、一人の漁師が住んでおった。名を与吉 といった。
与吉は腕のいい漁師じゃったが、決して欲をかかず、海の恵みに感謝しながら、必要なぶんだけ魚を獲る男じゃった。
けれど、その村にはもう一人、名の知れた漁師がおった。名を勝次郎 という。
勝次郎は豪快な男で、村でも一番の漁師じゃった。しかし彼は、「海の恵みは多ければ多いほどええ。獲れるもんは全部獲って、売ればええんじゃ」 という考えを持っておった。
勝次郎は力もあるし、口も達者やから、村の漁師たちも次第に彼に従うようになった。与吉が「取りすぎはよくない」と言うても、誰も聞く耳を持たんかった。
龍神との出会い
ある年のことじゃった。
与吉が漁に出たある日、急に嵐が吹き荒れ、舟がひっくり返りそうになった。やっとのことで沖の岩場にたどり着くと、そこには大きな龍がうずくまっておった。
龍は傷だらけで、網が絡まり、苦しそうにしておった。
「お、お前さん、大丈夫か…?」
恐る恐る近づいた与吉は、龍の網をほどき、潮水で傷を洗い、舟の魚を少し分けてやった。
龍はしばらくじっと与吉を見つめておったが、やがてすぅっと海に沈んでいった。
その夜のこと。
与吉の家の前の海が、青白く光り始めた。驚いて出てみると、どこからともなく声が聞こえた。
「与吉よ、おぬしの情けに感謝する。礼に、一つだけ願いを叶えよう。」
与吉はしばらく考えた後、こう言った。
「村のみんなが困らんよう、海の恵みが絶えぬようにしてくれんか。」
すると、声は静かに言うた。
「よかろう。ただし、一つだけ約束をせねばならぬ。
決して、海の恵みに欲をかくな。必要なぶんだけ獲るのじゃ。
もしこの約束を破れば、海は怒り、すべてを奪うじゃろう。」
与吉は深く頷いた。
約束を破った村
龍神の約束から数年、村は豊漁が続いた。どんなに天候が荒れても、魚はたくさん獲れ、村人たちは穏やかに暮らしておった。
しかし、勝次郎だけは違った。
「ほれ見てみい!やっぱり海は獲ったもん勝ちや!こんだけ獲れるんじゃ、もっと大きな網を作って、もっとたくさん売れば村はもっと豊かになる!」
勝次郎はそう言って、村人たちをそそのかした。与吉が「約束を忘れるな」と言うても、誰も聞く耳を持たんかった。
ある年のこと、ついに村は、海に巨大な定置網を仕掛けた。魚はどっさり獲れ、村人たちは大喜びした。
じゃが、その夜。
ゴォォォォォ……!
海の向こうに龍神の影が現れた。
「……おぬしたちは約束を破ったな。」
その声は、海の底から響いてくるようじゃった。
「約束を破った者に、海の恵みは与えられぬ。」
そう言うと、龍神は荒波を起こし、大波が村を襲った。 舟はひっくり返り、網は破れ、漁師たちは震え上がった。
そして翌朝――海は、静まり返っておった。
しかし、魚は一匹もいなかった。
龍神の条件と勝次郎の頑固さ
村人たちは慌てた。どれだけ舟を出しても、どれだけ網を張っても、魚は一匹も獲れなかった。
そこへ再び声が聞こえた。
「おぬしたちが、海を敬い、もう一度感謝の心を取り戻したとき……再び海は恵みを与えるじゃろう。」
「そのためには、村人全員で龍神神社へお百度参りをするのじゃ。」
村人たちは震えながら頷いたが、勝次郎だけは違った。
「バカバカしい!魚が獲れんのはただの潮の流れのせいじゃ!ワシはそんなもんに頼らん!」
そう言って、勝次郎は参拝に行こうとせんかった。
与吉の祈りと奇跡
それから数日後。
勝次郎の愛娘・お千代が、急に重い病に倒れた。薬を飲ませても、何をしても熱は下がらず、村の医者も首を振るばかりじゃった。
「……助けてくれ……」
ついに勝次郎は涙ながらに訴えた。
それを見た与吉は、ひそかに海へ向かい、丸一日、一心不乱に龍神に祈った。
「どうか、この子だけは助けてやってくれんか…」
翌朝、不思議なことにお千代の熱はすぅっと引いていった。
勝次郎は、与吉がずっと海辺で祈っていたことを知り、はじめて膝をついた。
「……与吉、すまん……。」
そして、ついに勝次郎は村人たちを引き連れ、龍神神社へのお百度参りを始めた。
改心と海の恵み
一歩、また一歩と石段を踏みしめながら、勝次郎は心から詫びた。
「龍神さま…すまなかった…!」
村人たちも声をそろえて祈った。
すると、参拝を終えた帰り道、ふと海を見ると――
キラキラと光る魚たちが、海に戻ってきていた。
ウメばあちゃんの締めの語り
ウメばあちゃんは、海を眺めるように言うた。
「リクちゃん、ええかい? 自然はな、人のもんやなか。海も山も、ちゃんと大事にせな、そっぽ向かれるばい。」
「でもな、自然は優しか。人が間違いに気づいて、心から謝れば、また応えてくれるっちゃ。」
「リクちゃん、わかったね? 人間は時々間違うもんやけど、素直に謝って、改めれば道は開けるもんやとよ。」
リクは少し考えて、コクリと頷いた。
「……もし僕が間違えたら、ちゃんとごめんなさいする。」
ウメばあちゃんは、ニコッと笑った。
「そいぎ、今日はここまで。また明日な。」
(終)
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