第50話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『ひかるの橋』
語りかけ
リクちゃん、今日で50話めじゃよ。
ようここまで、いっしょに歩いてきてくれたねぇ。
今日はね、「なんのために生まれてきたのか?」――そんなふうに、
自分の存在に悩む人に聞いてほしい話じゃ。
むかし話
むかーしむかしのことじゃった。
町のはずれに、ひかるという男の子が生まれた。
ひかるは、重い知的障害をもっておって、ことばもほとんど話せなかった。
おむつもなかなか外れず、感情のコントロールも難しくて、突然泣き叫んだり、物を投げたりすることもあった。
おかあさんは、毎日が戦いじゃったが、
「この子の笑顔が、わたしの生きる力」と言って、涙をふいて立ち上がっていた。
でもな――おとうさんは、ちがった。
ひかるが2歳を過ぎたころから、心の中で少しずつ何かがこわばっていった。
仕事で疲れて帰ってきても、家の中は泣き声と混乱。
妻の笑顔はどこか遠くなり、会話は「今日はどんな様子だった?」だけ。
抱き上げようとしても、ひかるはおとうさんを叩いた。
夜中に何度も起こされ、会社では居眠りして上司に怒鳴られた。
ふと、心の中にこんな声がささやいた。
――「なんで、うちだけがこんな運命なんだ…?」
――「自分の人生って、なんだったんだろう…?」
おとうさんは、知らず知らず、家で笑わなくなっていた。
会社にいる時間の方が、ずっと楽に感じるようになっていた。
ある夜のことじゃった。
ひかるが熱を出して苦しそうにしていた。
おかあさんが看病でつきっきりになっている横で、おとうさんは、
一人ソファに座りながら、声もなく泣いておった。
「どうして俺が…
ちゃんと働いてきたのに…
なんでこんなにも、報われないんだ…」
そのときじゃ。
ふと、布団の中から、小さな手がのびてきて――
ひかるが、おとうさんの手をぎゅっとにぎったんじゃ。
「あ…と…」
それは、はじめて聞いた言葉だった。
――ありがとう。
何もできないと、何も与えられてないと、そう思っていたわしに、
ひかるは、たったひと言で“救い”をくれたんじゃ。
その夜、おとうさんはひかるの寝顔を見ながら、こうつぶやいた。
「おまえは、“わしの人生を壊した存在”なんかじゃない。
わしに、“ほんとうの愛ってなんか”を教えてくれた、魂の先生やったんやな…」
それからじゃ。
おとうさんは毎朝、「行ってきます」と笑い、
帰ってきたら、「ただいま」とひかるを抱きしめるようになった。
だれかの評価や、結果じゃない。
“ただそこにいる”だけの命が、こんなにも人を変える力を持っていることを、
おとうさんは、骨の髄まで知ったんじゃ。
子供たちへ
リクちゃん、ひかるくんは、何も話せなくても、何もできなくても、
おとうさんの心に“橋”をかけたんよ。
わしらはつい、「何ができるか」で人をはかってしまうけど、
ほんとは、「そこにある命」だけで、だれかの人生を救うこともあるんじゃ。
だからね、自分の存在を「意味がない」なんて思わんでええよ。
君が生まれてきたこと、それ自体が、きっとだれかへのプレゼントなんじゃけん。
リクちゃん「……ぼく、なんだか泣きそうになったよ。
生まれてきただけでも、いいんだね……」
ウメばあちゃん「うん、リクちゃんの涙も、きっと誰かの橋になるんよ。
そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。」
(終)
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