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GPUをロケットで打ち上げる時代へ。Starcloudが証明した「軌道上の計算資源」と、VCマネーが動き始めた理由


「人類が宇宙でAIを訓練した」初日の話

2025年12月10日、ある衛星から地球に、こんな短いメッセージが送信されました。

「Greetings, Earthlings!(やあ、地球人のみなさん!)」

このメッセージを発信したのは、地球の上空325kmを秒速約7.6kmで飛んでいる「Starcloud-1」という小型衛星です。冷蔵庫くらいの大きさで重さは60kg。中に積まれていたのは、NVIDIAのH100というデータセンター級のGPU(画像処理装置、AI計算の主役となる半導体)でした。

そしてこの衛星の中で、人類史上初めて「宇宙空間でLLM(大規模言語モデル、ChatGPTなどの基礎技術)が訓練された」のです。

訓練に使われたのは、元OpenAI創業メンバーのアンドレイ・カルパシー氏が公開しているNanoGPTという小規模なAIモデル。これにシェイクスピアの戯曲全集を学習させ、シェイクスピア風の英語でテキストを生成できるようになりました。さらにGoogleが公開しているGemmaという別のAIモデルも、同じ衛星の上で動作させることに成功しています。

これがなぜ歴史的事件なのかというと、これまで宇宙にGPUを送り込んだ事例はあっても、地上のデータセンターと同じレベルの本格的なAI処理を宇宙で動かした実績はゼロだったからです。Starcloud-1は、これまで宇宙に送られたどのGPUよりも100倍強力なAI処理能力を持っていたとされ、「軌道上のデータセンター」というアイデアを、机上の空論からビジネスの実装段階へと一気に押し上げました。

私はIT業界で営業を10年やっていますが、こういう「不可能と言われていたことが、ある日突然できるようになる」瞬間に立ち会うのが、この仕事の一番面白いところだと思っています。今回のStarcloud-1は、まさにその瞬間でした。

Starcloudは何者か:Y Combinator史上最速のユニコーン

このStarcloudという会社、もう少し掘ってみるとなかなか面白い経歴を持っています。

2024年1月にカリフォルニア州エルセグンドで「Lumen Orbit」という名前で創業されました。同年2月にはワシントン州レドモンドへ移転。レドモンドは、Starlink(SpaceXの通信衛星部門)、Amazon Leo、AWS、Microsoft Azureといった宇宙とクラウドの人材が集まる場所です。創業3人のバックグラウンドも光っていて、CEOのフィリップ・ジョンストン氏はマッキンゼーで国家宇宙機関向けプロジェクトを手掛けた経歴の持ち主、Chief Engineerのアディ・オルテアン氏はSpaceXでStarlinkネットワーク、Microsoft AzureでLLM大規模GPUクラスターを担当、CTOのエズラ・フェイルデン氏はAirbus Defence and Spaceで衛星設計に従事してきたエンジニアです。

そして2024年夏、世界最強のスタートアップ育成機関であるY Combinatorに参加。そこから猛烈なスピードで資金調達と開発を進め、2025年11月にStarcloud-1を打ち上げ、わずか21ヶ月後にAI訓練の成功を発表。

その後、2026年3月には1億7,000万ドル(約250億円)のシリーズA資金調達を実施し、企業価値は11億ドル(約1,650億円)に到達。Y Combinatorのデモデイから17ヶ月でユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)入りした、Y Combinator史上最速の事例となりました。資金調達を主導したのはBenchmarkとEQT Ventures、過去にはNVIDIAも投資家として参加しています。

CEOのジョンストン氏は、創業当初は「不可能だ」「実現できない」と批判されていたと振り返っています。それがわずか2年で世界が認めるユニコーン企業になった。これは「アイデアを素早く実装で証明する力」がいかに資金を呼び込むかを示す、典型的な成功事例です。

鍵を握るのは「打ち上げコスト」の劇的な低下

なぜ今、こんな事業が成立する時代になったのか。理由はシンプルです。ロケットの打ち上げコストが、信じられないほど安くなっているからです。

ちょっと数字を並べてみますね。

スペースシャトル時代の打ち上げコストは、低軌道に1kgを送るのに約54,000ドル(約810万円)かかりました。2000年代の使い捨てロケットでも10,000〜20,000ドル(約150〜300万円)が相場でした。これがSpaceXのFalcon 9(再使用ロケット)の登場で、現在は3,000ドル/kgを下回る水準まで下がっています。

そして、いま稼働を始めつつあるのがSpaceXのStarship(スターシップ)です。これは全段再使用が前提の超巨大ロケットで、通称「人類最大の乗り物」。このStarshipが本格運用に入れば、打ち上げコストは100ドル/kg程度(つまり1kgを宇宙に届けるのにわずか1万5千円程度)まで下がる、というのがSpaceX側の目標です。

実際の動きとしては、2025年8月にStarshipの第10回試験飛行が成功し、ダミーの次世代Starlink衛星の軌道展開も達成されました。コンサルティング会社のBain & Companyは、Starshipが軌道投入コストを50〜80分の1にまで下げる可能性があると分析しています。商用契約も始まっていて、Voyager Spaceという宇宙ステーション開発企業は、SECへの10-K提出書類のなかで、Starshipの1回の打ち上げに9,000万ドル(約135億円)を支払う契約を開示しています。

これは何を意味するか。「衛星を量産して大量に打ち上げ続ける」というビジネスモデルが、初めて経済合理性を持ち始めた、ということです。Starcloudが現実的な事業として成立したのも、Falcon 9で安く打ち上げて、近い将来Starshipでさらに安く打ち上げられる見込みが立ったから、という側面が極めて大きいんです。

雪崩を打って参入する競合たち

Starcloudが成功事例として注目を集めたことで、一気に追随する動きが加速しています。私が現時点で追っているプレイヤーを、整理してみますね。

Starcloud本体は、2026年10月に予定されているStarcloud-2の打ち上げで、NVIDIAの最新世代Blackwell搭載GPUクラスター、AWSサーバーブレード、ビットコイン採掘用コンピューターなどを宇宙で稼働させる計画を発表しています。さらに2026年2月には、最大88,000機の衛星による軌道上データセンター・コンステレーション計画をFCC(米連邦通信委員会)に申請。クラウドインフラ企業のCrusoeとも提携し、2027年初頭から「Crusoe Cloud」という形で軌道上のGPUを商用提供する計画です。

Orbitalは、ロサンゼルス拠点のスタートアップで、a16z(Andreessen Horowitz、世界最大級のベンチャーキャピタル)のアクセラレータプログラムから出資を受けました。2027年4月に最初の試験衛星打ち上げを予定しています。

Google「Project Suncatcher」は、衛星画像企業のPlanet Labsと組んで、2027年初頭にGoogle独自開発のTPU(Tensor Processing Unit、AI専用チップ)を搭載した試験衛星2機を打ち上げる計画です。CEOのスンダー・ピチャイ氏は、これを「ムーンショット(壮大な挑戦)」と表現しています。

Blue Originも、ジェフ・ベゾスが率いる宇宙企業として、TeraWave(テラウェーブ)という光通信ネットワーク構想と、51,600機規模のデータセンター衛星のFCC申請を進めています。

Aethero(エアセロ)は、2025年に世界初の宇宙搭載NVIDIA Jetson GPUを打ち上げています。

K2 Spaceは、より大型の宇宙構造物を実現する宇宙インフラ企業で、2億5,000万ドルの資金調達に成功しています。

Aetherflux(エーテルフラックス)は、もともと宇宙太陽光発電のスタートアップでしたが、2025年12月に宇宙データセンター事業へ軸足を移しました。

そしてもちろん、SpaceX本体も最大100万機の軌道上データセンター衛星のFCC申請を出していて、これは前回の記事でも触れた通りです。

業界用語で言うと、これは典型的な「ゴールドラッシュ」状態です。一つの実証成功(Starcloud-1)が、堰を切ったように資金と人材を呼び込み始めています。

ここからが本題:金融視点での「計算資源の資産化」

さて、IT業界の話を散々してきましたが、私が一番興味を持っているのは、ここから先の金融の話です。

軌道上GPUは、新しい「資産クラス(資産の種類)」になる可能性があります。

これまでGPUは、データセンターの中に置かれた「設備」でした。会計上は固定資産として計上され、減価償却の対象でした。それ以上の意味は、特になかった。

ところが、軌道上GPUはちょっと様子が違います。理由を3つ挙げます。

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