【理想と現実のあいだ⑨】相談会は練習の場ではない。では、若手はどこで育つのか。
「相談会は、練習の場ではありません」
そう言われた中堅会員は言葉に詰まりました。
でも彼には、こんな疑問も浮かんでいたはずです。
だったら、相談スキルのない若手は、いったいどこで育てばいいのだろう….
数年前まで製薬企業で働いていた私は、現在16人で構成するボランティア団体の代表をしています。
製薬企業時代は、若手を育てるOJT(On the Job Training)がありました。
新入社員や若手社員には育成を担当する中堅社員がつき、日々の業務に同行させ知識・技術・勘どころを教える。
その上で自ら業務を行わせ、フィードバックを与え時には厳しく指導する。
OJTは細かくプログラム化されており、「中堅が若手を育てる」という仕組みは、組織の中で当たり前に機能していました。
ところが現在、私が代表を務めるボランティア団体には、OJTの仕組みがありません。
製薬会社とボランティア団体….
代表である私は若手育成のギャップに戸惑い、いまだ模索している….
今回はそんなお話です。
私たちの団体は、近々生活者向けの相談会を予定しています。
相談会はメイン担当とサブ担当の2名体制で相談に当たるのがルールとされています。
相談会の企画を練る中で、ある中堅会員からこんな提案がありました。
「サブ担当は若手会員とし、相談スキルを上げてもらってはどうでしょうか」
発言の背景には、複数の若手会員からの声がありました。
「相談スキルを上げたい。でも、自信がない…」
その声を聞いた中堅会員が、若手育成の方法として提案したのです。
しかし私はすぐには賛成することができませんでした。
複数のベテラン会員からは次のような声も上がっていたからです。
「相談会は練習の場ではありません」
相談に来られる生活者にとって、相談会は悩みに対するヒントを得る場であり、人生が大きく転換する場かもしれません。
ベテラン会員の言葉はもっともであり、実は私自身もこれまで強く意識していたことだったのです。
現に、これまでメイン・サブともに相談慣れした会員が担当するのが慣例であり、相談者からは高い評価を得られていました。
その一方で、製薬企業からの転籍組である自分自身が、この仕事に就き始めた頃が頭をよぎりました。
他の人からすると私に十分な資格があるように見えても、私自身は知識や実務経験が足りないように感じ、相談業務に自信がなかったのです。
それでも、相談を重ねる中で少しずつ経験を積み、現在の私があります。
だからこそ、若手会員の「自信がない」という気持ちもよく分かります。
相談者の満足度は高めたい。ただ若手も育てたい。
この二つをどう両立させるのか…とても難しい問題です。
相談会の議論が進むうちに、私はその場がベテラン会員に押し切られそうになっているように感じました。
このままでは、冷静な話し合いにならない。
私は一旦議論を棚上げし、会議のあとの懇親の場で改めて話し合うことを提案しました。
時間の制約がない居酒屋では、お酒を交えながら、皆、思うところを話し始めました。
ベテラン会員達からは、
「ボランティア団体の相談の質が落ちたと思われたくない」
「相談スキルは自ら上げるべきだ」という意見。
一方、中堅会員達からは、
「スキルを上げるための場がない会員も多い」
「若手の育成は、ボランティア団体の責務ではないか」という意見。
どちらも間違っておらず、話しは堂々巡りになっていました。
そんなとき、一人のベテラン会員から、こんな提案が出ました。
「相談員2名体制はそのままとし、書記役に若手をつけてはどうだろうか」
書記をつけてはならない、とのルールは無いことに目をつけた提案です。
相談員は、あくまでメインとサブの2名。
若手会員は、書記として相談の現場に入る。
私は、思わず「なるほど!」と思いました。
もちろん、相談者に圧迫感を感じさせないなど一定の配慮は必要です。
それでも、これは一つの答えになるかもしれないと感じたのです。
これまでの議論を踏まえ、今回の相談会では、この「書記をつける」という提案を取り入れることにし、書記係を募集してみました。
すると、複数の若手会員から応募があり、そのうち1名はこう話してくれました。
「相談を受けるのは自信がない。でも、現場を見たいと思っていました」
この言葉を聞き、私は最近のイベントに若手会員の参加が減っていた理由が分かった気がしました。
若手会員は「参加したくない」のではなく、自分の能力に見合った場所が見つからず、イベント参加のきっかけがつかめなかっただけなのではないか…
また今回のベテラン会員の発言は私の中にも変化をもたらしています。
新しい取り組みを提案すると、ベテラン会員は反対意見しか唱えない…..
そう感じていた私に、今回の提案はベテランならではの組織貢献を感じさせたのです。
相談会の質を守りながら、若手の育成にもつながる代替案。
そんな提案をくれたベテラン会員を、私は今更ながら見直しているのです。
今回の議論を通じて、私たち16名の存在意義を改めて考えました。
生活者の満足度を高めることでボランティア団体を啓蒙していく。
それとともに、OJTの場をつくり若手会員を育成する。
その結果、ボランティア団体の持続的な啓発と基盤強化が進んでいく。
生活者とともに会員にも目を向ける活動が、私たち16名の果たすべき役割なのだと思います。
今回の結論は、私が主導して導き出したものではありません。
中堅会員の問題提起と、ベテラン会員の経験。
その二つが折り合って出した結論であり、私はそれを嬉しく思っています。
相談会では従来と同じく、相談者に満足感を与えることができるのか、そして書記として参加する若手会員に、どのような気づきが生まれるのか。
一つだけ間違いないのは、今回の取り組みは、参加する若手会員の成長につながるということです。
もしかすると相談者からは「圧迫感があった」などのコメントが寄せられるかもしれません。
それでも、ベテランと中堅が導き出した結果として受け止めるつもりです。
今回の相談会を通じ、ボランティア団体16名の結束が高まっていけば…
そんなことを考えながら、私は相談会の当日を楽しみに待っているのです。

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