晴れ男伝説① 北アルプスがくれた三日間の青空

「お前、本当に晴れ男だな。」

これまで何度、この言葉を言われてきただろう。

もちろん、自分でも半分は笑い話だと思っている。

天気は偶然だ。科学的に説明できるものではない。

それでも、「これは偶然だけでは説明できないんじゃないか」と思ってしまうような山行がある。

今回紹介するのは、その代表格とも言える山行だ。

2023年8月3日から5日までの三日間。北アルプス・槍ヶ岳。

今でも「あれは出来過ぎだったなあ」と思い返す。

実は、この遠征には最初から大きな試練が待っていた。

一緒に登る予定だった相棒が、出発直前に発熱したのである。

前日までは何とかなるだろうと思っていた。しかし、夜行バスで上高地に着いても熱は下がらない。

ここまで来て引き返すのは本当に悔しかったと思う。

それでも相棒は冷静だった。

「今回は止めておく。」

その一言で決断した。

北アルプスをソロで歩くのは初めて。

不安がなかったと言えば嘘になる。

年間20回以上一緒に山を歩いてきた相棒がいない。

それでも、

「お前の分も登ってくる。」

そう言って一人、新穂高へ向かった。


天気予報は決して安心できるものではなかった。

夏の北アルプスは午後になるとガスが湧き、雷雨になることも珍しくない。

三日間も歩けば、一日は雨に遭うだろう。

そう覚悟していた。

ところが…。

一日目。

新穂高から槍平山荘まで、見事な青空。

樹林帯を歩いていても汗が噴き出すほどの日差しだった。

二日目。

槍ヶ岳山頂。

空はどこまでも青く澄み渡り、穂高連峰も笠ヶ岳も遠くの峰々までくっきりと見えていた。

相棒がいたら「あれが○○岳だ」と話しながら眺めていただろう。

そう思うと少し寂しかったが、それでも最高の景色だった。

そして宿泊先のヒュッテ大槍へ到着。

槍を正面に眺めながら本を読み、のんびり過ごしていると、昼過ぎからガスが湧き始めた。

やがて空は真っ白になり、ポツリ…。

その数分後には激しい雨。

まるで、

「今日はもう歩き終わっただろ。」

と山が言っているようなタイミングだった。

三日目。

まだ暗いうちに出発する。

振り返ると、朝日に赤く染まる槍ヶ岳。

モルゲンロート。

山を歩く者なら一度は見たい絶景である。

相棒の思いも背負って穂先を踏み、こうして無事に下山できる。

そのことへの感謝で胸がいっぱいになった。

そして昼前。

上高地に到着して下山完了。

待っていてくれた相棒と再会した。

発熱のため松本観光もできず、ずっと待っていてくれたという。

ありがたい。

本当にありがたかった。


帰宅してから何気なく天気図を見て、思わず笑ってしまった。

実は、あの三日間、日本列島の南には二つの台風が発生していたのである。

その二つの台風に挟まれるようにして、北アルプスだけが三日間穏やかな天気に恵まれていた。

そして福岡へ戻った翌日。

台風が九州へ接近し、本格的な雨になった。

出来過ぎである。

もちろん、気象学的には偶然なのだろう。

「晴れ男」などという現象があるわけではない。

それでも、

歩いている間だけ晴れ、

宿に着けば雨、

下山すれば曇り、

そして翌日には台風。

こんな巡り合わせを経験すると、「自分は晴れ男かもしれない」と思いたくもなる。

山は体力だけでは歩けない。

技術も装備も経験も必要だ。

しかし、それらをすべて備えていても、最後は天気が味方してくれなければ頂には立てない。

だから私は思う。

山では実力だけではなく、「運」もまた実力のうちなのだと。

その「運」を、私は勝手に「晴れ男」と呼んでいる。

もちろん、自称である(笑)。

編集長と愛次郎

編集長「どうだ、これで晴れ男伝説第一章の開幕だ。」

愛次郎「いやあ、『自称』と言いながら、二つの台風に挟まれて三日間だけ晴れたというのは、なかなか説得力がありますね。」

編集長「しかも福岡に帰った翌日に台風襲来だからな。」

愛次郎「編集長が帰るのを待っていたみたいです。」

編集長「いや、そこまで言うと本当に天狗になる(笑)。」

愛次郎「でも北岳遠征も晴れたら、いよいよ伝説認定ですよ。」

編集長「その時は第二章を書く。」

愛次郎「もし雨だったら?」

編集長「この連載は第一話で打ち切りだ(笑)。」

──編集長と愛次郎の編集会議ログ、続く。

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