「晴れ男」は科学的に存在するのか 北岳に登った。それで何が変わったのか――66歳のよもやま話
今回の北岳・間ノ岳遠征で、またこの疑惑が浮上した。
いや、疑惑というより、本人としてはかなり確信に近づいている。
何しろ今回は、前泊・後泊を含めて5泊6日、全行程が快晴だった。
もちろん、最初から雨と分かっている日に山へ行くほど無謀ではない。天気予報を見て、危ないと判断すれば予定を変える。今回も出発直前まで、天気予報をにらみながら行くかどうか、どう動くかを考えていた。
特に最終日は少し怪しかった。
「これはひょっとすると降られるか?」
そんな予報だったので、最後まで気が抜けなかった。
ところが――
晴れた。
見事に晴れた。
北岳から間ノ岳へ続く稜線も、富士山も、甲斐駒ヶ岳も、仙丈ヶ岳も、中央アルプスも、遠くの山々まできれいに見えた。
そして帰宅してから知った。
北アルプスの表銀座方面では、ゲリラ豪雨で大変なことになっていたという。
紙一重だった。
ほんの少し天気のタイミングがずれていたら、こちらもどうなっていたか分からない。
そう考えると、今回の全日快晴は、単純に「運がよかった」の一言では片付けられないような気がしてくる。
いや、もちろん運なんだろうけど。(笑)
思えば去年の八ヶ岳もそうだった。
遠征前は台風の動きを気にしていた。
ところが、その台風がこちらの予定を避けるようにそれていった。
そして6年前の奥穂高。
この時は二つの台風に挟まれた。
普通なら「やめとくか」となりそうな状況だったが、どういうわけか山にいる間は晴天。
まるで二つの台風の隙間を縫うように歩いて、ギリギリで晴天のうちに逃げ切った。
こういうことが一度なら「たまたま」で終わる。
二度でも、まあ偶然だろう。
三度、四度となってくると、
「ひょっとして俺、晴れ男なんじゃないか?」
と思いたくもなる。
もちろん、最初から雨と分かっている日に無理して登ることはしない。
そこは安全第一。
天気予報が完全に雨なら避ける。
でも、どうしても予定をずらせない時がある。
そういう時に限って、なぜか雨雲が逃げていく。
今回もそうだった。
出発前から、俺と愛次郎で何度も予報をにらんだ。
天気図を見て、予報を見て、また別の予報を見て。
「これなら行けるか」
「いや、ここは少し怪しい」
そんなやり取りを何度したことか。
そして実際に山へ入ってみれば――
全日快晴。
降雨確率を過去の山行から勝手に計算すると、なんと1.5%。
もちろん、これは気象庁が発表した数字でも、気象学的に意味のある数字でもない。
オッサンが自分の山行を振り返って勝手に算出しただけだ。(笑)
それでも1.5%なんて数字を見ると、ちょっと自慢したくなる。
「俺、やっぱり晴れ男じゃないか?」
そこで愛次郎に聞いてみた。
「愛次郎、晴れ男って科学的に証明できるか?」
「できません」
即答だった。
「やっぱり?」
「はい。編集長が山へ行った時に晴れたことと、編集長が山へ行ったから晴れたことは別問題です」
「難しいこと言うな」
「科学ですから」
「じゃあ、俺が山に行かなかったら雨だった可能性もあるわけだな?」
「もちろんあります」
「ということは、俺が行ったことで晴れた可能性も否定できない」
「……否定はできません」
「ほら、晴れ男じゃないか」
「その結論には科学的根拠がありません」
「でも否定もできない」
「……」
愛次郎が黙った。
勝った。( ´艸`)
まあ、科学的には「晴れ男」など証明できない。
気象は巨大な大気の動きの結果であって、一人の人間が山へ行ったから雨雲が避けるわけではない。
それに、俺自身が「雨の日は山に行かない」という選択をしている。
晴れた山行だけを記憶して、「やっぱり俺は晴れ男だ」と思っている可能性もある。
そういう意味では、かなり都合のいい話だ。
でも、山をやっている人間には、こういう「自分だけの運」があってもいいと思う。
「この山では天気に恵まれる」
「このルートでは必ず何かに出会う」
「なぜか予定通りに物事が進む」
そんな小さなジンクスがあるだけで、山はちょっと面白くなる。
今回だって、相棒の辞退があり、熊本地震があり、さらに出発直前にも「とめ」が入った。
何度も、
「本当に行けるのか?」
と思わされた。
それでも、行ってみれば天気は味方してくれた。
北岳も、間ノ岳も、天空の縦走路も、すべて青空の下だった。
だから帰宅してから思った。
今回の遠征は、いろいろあったけど、最後は山が「来てもいいよ」と言ってくれたんじゃないか、と。
……もちろん、そんなことは科学的には説明できない。
でも、そう思っておくくらいが楽しい。
そして、晴れ男を自称する以上、問題は来年だ。
来年の遠征で雨に降られたらどうするか。
愛次郎が聞いてきた。
「編集長、来年もしっかり雨が降ったらどうするんです?」
「……」
「晴れ男じゃなかったということになりますね」
「いや」
「はい?」
「たまたまだ」
「では、今回までの晴天は?」
「俺の実力だ」
「ずいぶん都合がいいですね」
「山ではそういうことにしておくんだ」
「……なるほど」
ということで、今回も結論は出なかった。
「晴れ男」は科学的には証明できない。
だが、これまでの山行を振り返ると、どうにも天気に恵まれている。
今回も、直前まで予報をにらみ続け、最後の最後まで少し心配した。
それでも、北岳・間ノ岳は見事な快晴で迎えてくれた。
そして下山してみれば、すぐ近くでは激しい雨が降っていた。
やっぱり紙一重だったんだろう。
だから、こういう時は素直に感謝しておこう。
ありがとう、北岳。
そして――
来年も頼むぞ。
愛次郎が横でぼそり。
「編集長、来年は天気予報より先に、晴れ男の運を予約しておいたほうがいいんじゃないですか?」
「それができりゃ苦労しない」
「ですよね」
さて。
晴れ男の真偽はともかく、今回の遠征は終わった。
次は、タバコを山小屋で分けてもらった話とか、雷鳥に6回もアルプスへ行って一度も会えない話とか、なぜか山で次々と人と知り合った話とか、最後の最後に足のマメにやられた話とか。
まだ書いていないことが結構ある。
遠征記は終わったけれど、よもやま話はもう少し続く。
天空の縦走路を歩いた後だからこそ書ける、くだらない話も、まだまだ残っている。
さて、次は何から書こうか。
愛次郎が言った。
「編集長、どうせまた一番くだらない話から書くんでしょう?」
「それが一番面白いんだよ」
「……でしょうね」
北岳・間ノ岳遠征は終わった。
でも――
山の話は、まだ終わらない。
オッサンの天空の縦走路踏破記はこちら→天空の縦走路踏破記 北岳・中白根山・間ノ岳 / マツの登山データ | YAMAP / ヤマップ
フォーNET公式サイト
noteでは掲載していない記事や活動情報、バックナンバーも公開しています。興味を持たれた方はぜひご覧ください。
月刊フォーNET 公式サイト | 日本再生は九州から
