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#533_モノローグ_未来の方向を変える強さ

──彼女と初めて会った夜のことを、
たぶん俺は、一生忘れない。

なにか特別なことを言われたわけじゃない。
ただ、俺の話を黙って聞いてくれただけだ。

ただ、俺が「しんどいっすね」とか
「このままでいいのかなって思うんですよね」って
よくある愚痴みたいなことをこぼしたとき。

彼女は、すぐに答えを返してこなかった。

グラスの氷が、小さく音を立てて溶けていく間。

俺の言葉を、ちゃんと最後まで聞いてから、
指先で髪を耳にかけて、
目線をそっとグラスの底に落とした。
氷がひとつ、かすかに鳴る。

それから、ハイボールを一口だけ飲んで、
独り言みたいな声で言った。

「このままでいいのかなって思えるうちは、
まだ、ちゃんと自分を諦めてないってことじゃない?」

その一言で、胸の奥が、ぐらっと揺れた。

慰めでもなく、
励ましでもなく、
否定でもない。

俺の弱さを
「ダメだ」とも「大丈夫だ」とも言わないで、  

ただ、
「まだ終わってないよ」
って、静かに告げられた気がした。

その瞬間、俺が「もうこんなもんでいいか」と
どこかで決めかけていた未来が、  

少しだけ、軌道をずらされた。

気づかないふりをしていた
「本当はこうなりたい」が、  

まだどこかに残っていることを、
見透かされたみたいで、悔しくて。

でも、ありがたかった。

彼女の強さは、押してこないところにある。

「こうしたほうがいいよ」とか
「若いうちに頑張りなよ」とか、
そういう “正しさ” を一切ぶつけてこない。

代わりに、
俺の言葉の「奥」だけを、
そっと指先で触るみたいに拾っていく。

「それ、本当は嫌なんだよね?」 
「それ、やめたいんだよね?」 
「それ、続けたいんだよね?」

そうやって、
俺が自分で見ないようにしていた感情を、  

「ここに落ちてたよ」って返してくる。

拾って、
返して、
選ばせる。

そのやり方が、
ずるいくらい優しい。

たぶん俺は、
誰かに未来を決めてほしかったんだと思う。

うまくいかなかったら
「だってあの人が言ったから」って
責任を外に置いておけるから。

でも彼女は、絶対に “決めて” くれない。

「大翔くんは、どうしたいの?」
って、最後は必ずそこに戻される。

逃げ場がない。
それが苦しくて、
でも同時に、救いでもある。

俺の人生のハンドルを、
俺の手に戻してくる人。

それが、彼女だ。

未来の方向が変わるって、
大きな事件が起きることじゃないのかもしれない。

転職するとか、
夢を見つけるとか、  

海外に行くとか、
そういう「わかりやすい変化」じゃなくて。

「本当は、こうなりたかった自分」を
もう一度、
ちゃんと見つめ直すこと。

その視線の向きが、
少しだけ変わること。

彼女と話していると、
俺の視線が、  

今のしんどさから
これからどう在りたいかのほうに
ゆっくり向き直っていくのがわかる。

それはたぶん、
恋とか憧れとかよりも、
もっと根っこのところで──

「この人の前でだけは、自分をごまかしたくない」

そう思ってしまうからだ。

もし、また会えるとしたら。

俺はきっと、いつもより少しだけ
まっすぐ立とうとする。

ちゃんと話したい。
ちゃんと聞きたい。 
ちゃんと選びたい。

そう思わせてくる人がいること自体が、
もうすでに、
俺の未来の方向を変えてしまっている。

彼女は、
俺の人生を代わりに生きてくれる人じゃない。

でも、
俺が自分の人生をちゃんと引き受けるための
「角度」を変えてしまう人だ。

その強さを、
俺はまだうまく言葉にできないけれど──

きっといつか振り返ったとき、  

「あの夜から、少しずつ変わり始めていた」  

って、思うんだろうな──

<了, 約 1,400 字>


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、(本稿)

140字の作品を書き続けていた延長シリーズです。
今夜はどうぞ、温かい夜をお過ごしくださいね🌙
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左右のビルは白い光にするつもりが💦
むずかしいものです
今日もありがとうございます
最近すっかりこの時間ですみません


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久藤 あかり | はじめまして! スキ、コメントが1番うれしいです。私の記事を元にあなたの記事を書いてもらうのも大歓迎!心が動く言葉はありましたか?ご感想お待ちしています😊