マニアックな偏愛がアカデミックな肩書に変わった日
自分とは違う世界線の住民に興味がわいた話。
ものすごく話を盛るなら、私は社長令嬢だ。
まあ実際は、威勢のいいオッチャンたちがひしめく市場の片隅で、父が営むちっこい野菜の仲卸業の娘だ。(いちおう従業員さんから「しゃちょー」とは言われてるから嘘はついてない)
三男坊のくせに実家の家業を継いだ父は、商才があったのだろう。
いや、商才というより、とにかく人が好きで、その周りにはいつも人が集まっていた、という方が正しいかな。
残念ながら商才は遺伝しなかったようだけど、その「人好き」のDNAは、どうやら私も色濃く受け継いでいるみたいで。
そんな私が、先日ふとしたきっかけでコーチングなるものを受けてみた。
友人が「半年20万円で契約した」と、まるで高級ブランドのバッグでも買ったかのように息巻いていたから。
20万円だと!?
それは一体どんな魔法なんだ。
社会福祉士として私が使う相談技術とは明らかに違う、そのポジティブでリッチな金の動きの正体を暴きたい。暴いてやりたい。
これまで私がやってきた仕事は、いわば「マイナスの状態をゼロに戻す」作業。
だけど、ゼロからプラスを生み出す世界線の住人は、一体どんな思考回路をしているのか。
半分はそんな下世話な好奇心で、知り合いのコーチにオンラインでお願いしてみた。いやはや、便利な世の中だわ。
黒子ときどき先生、ところにより崖っぷち。
新卒から10年以上、私は社会福祉協議会という「地域のよろず相談所」的なところで働いていた。
認知症になりかけのおじいちゃんの通帳を一緒に管理したり、心の病を抱えた人のために月250件の相談を受け続け、ストレスで片耳が聞こえなくなったり(まじで)。
まさにマイナスをゼロに戻す地道な仕事。
とはいえ、まんざら嫌いじゃないあたり、我ながらM気質は否定できない。
中でも特に心が躍ったのが「福祉教育」と「まちづくり」の仕事だ。
福祉教育では、多様なチームで「かわいそうな人」のイメージを覆す授業を企画し、子どもたちのキラキラした目にご褒美をもらう。
まちづくりでは、徹底的に黒子に徹する。「主役は住民」を合言葉に、化学反応の火種をそっと投げ込むのが、たまらなく楽しかった。
でも、まあ色々あって(大人の事情ってやつ)私はその場所を離れた。
そして今、フリーランスという大海原で、羅針盤も持たずに漂っている。「私って、結局“何屋さん”なんだっけ?」と。

発覚、私のマニアックな性癖。
コーチング当日、穏やかな口調のコーチに「やりがいは?」と尋ねられ、私は過去の仕事などの話を辿々しく語っていた。
いろんな角度からの質問を受けるうちに、本当にポロリと、自分でも意識していなかったマニアックな性癖を告白してしていた。
「あの…実家からどっさりもらった野菜を、野菜室に入れる前にぜんぶ並べて、その形を愛でる時間が、好きなんです」
言った瞬間コーチの目がキラリと光った、気がした。
やばい、変な奴だと思われたか。
でももう遅い。
そう、何を隠そう私は無類の野菜フェチなのだ。
ナスはナスでも、ぷっくりとグラマラスなやつに、シュっといきってる感じのやつもいる。すらりと美人なキュウリもいれば、土偶のような愛嬌のあるやつもいる。
それぞれが持つ唯一無二のフォルム。
愛おしい。愛おしすぎる。
誰にも言ったことのない、実家からの袋を開けるたびに始まる、私だけの秘密の夜会。
するとコーチは、引くどころか身を乗り出して言った。
「それって、一つひとつの『個性』を見出すのが好きってことですよね」
…なんと。
私のマニアックな偏愛が、そんなアカデミックでリッパな言葉に翻訳される日が来るとは。
雷に打たれた衝撃だった。
確かに、そうだ。私は「違い」を見つけるのが、たまらなく好きだ。
心を閉ざしている子と話すのは、心という名のミカンの白い筋を、ちまちまと剥がしていく作業に似ている。
そうして現れる「つるんとした本来の輝き」―その子の“個性”に触れた瞬間が、たまらなく嬉しいのだ。
この私の変態的比喩を、彼はちゃんと受け止めて、言葉にしてくれる。
この瞬間に、私は20万円の価値を少し理解した気がした。

私という人間(の、トリセツ)。
コーチングは続き、もろもろまとめると私の本質は「状況や様子を捉え、個別化して変化を起こす企画屋」らしい。
なんだかすごい肩書きを手に入れてしまったぞ。
でもそれは、たしかに私という人間を説明するのにしっくりきた。
福祉教育で、子どもの顔色を「捉え」てアドリブを入れ、まちづくりでは住民一人ひとりの性格を「個別化」して、「この人にはこの役をお願いしよう」と静かに采配する。そうして場がポジティブに「変化」していくのを、黒子として「企画」する。
あ、全部繋がった。
前職でも今でも、私はただ変化のプロセスが見たいのだ。
人が変わる、場が育つ、その瞬間に立ち会いたいんだ。
社長令嬢(仮)、未来を企画する。
自分のトリセツとやらを手に入れたことで、羅針盤を持たずに漂っていた大海原が、ちょっぴり輝いて見える。……気がする。
もちろん不安がゼロになったわけじゃないけど、「私ってこんな奴です!」と言える肩書きができたことは、思った以上に背中をシャンとしてくれるというか。
八百屋の社長令嬢である私は、今日も今日とて、キッチンカウンターで野菜たちと密会をしている。
このゴツゴツしたロックTシャツを着たかのような薩摩芋は、どうすれば最高の焼き芋になるポテンシャルを発揮してくれるんだろう。
子どもの心も、野菜も、きっと同じ。
その個性を愛し、信じて、最高の変化が生まれるきっかけを企画する。
それが、私の仕事。
うん。私の人生、案外、ここからが本番なのかもしれない。
*・・・*・・・*・・・*・・・*
ここまで読んでくださって、ありがとうございます🌱スキ・フォロー・コメントで、あなたの想いをぽつりと教えてもらえたらとってもうれしいです!
いいなと思ったら応援しよう!
わーい!PCとうんうん向き合うカフェタイムのミルクレープ代にさせてもらいます✨しごとがんばれるー!