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サラ金のATM係、100円をめぐる完全犯罪(未遂)


#創作大賞2026
#お仕事小説部門

サラ金のATMって、意外といろんな場所にあります。

銀行のように支店併設のもの、ロードサイドで自動受付機とセットのもの、パチンコ屋の近く……などなど。生活動線のあちこちに、静かに佇んでいます。

支払日が近くなると、ATMの中身は返済金でパンパンに膨れ上がります。警備会社の定期輸送を待っていられないので、社員が直接現金を回収しに行くこともしばしば。

あと、ATMって、けっこう詰まります。

くしゃくしゃのお札、輪ゴムやレシートをお札と一緒に突っ込んで入金処理する猛者……そういう「事故」が起きるたびに、社員が現場へ走ります。

その日、木本さんから指令が飛びました。

木本さん「佐藤君、駅前のATMもうパンパンやから、現金抜いて銀行預けといてくれるか」

僕「はい、わかりました!」

というわけで、奈良の小西通り――少し道幅の狭い、風情のある商店街をてくてく歩いてATMへ向かいます。

鍵を開け、ATMを解錠し、お札の詰まったBoxから現金を抜き取ります。その額、およそ500万円。

小銭は大丈夫そう。

最後に、残高合わせです。

支店に電話して帳簿上の残高を確認し、ATMに表示された金額と突き合わせる――

……100円、合わない。

銀行と同じで、この業界は1円でも金額が合わないと基本的に大ごとです。冷や汗をかきながら、木本さんに電話しました。

僕「木本さん、100円がどうしても合わないんです。一応くまなく探してるんですが……」

すると木本さん、少しめんどくさそうに、

木本さん「ん〜、100円足りないんやろ。もう佐藤君、自分の100円入れとき

木本さん、こういうところがけっこういい加減です。

そして――僕も、いい加減です。

僕「はい、わかりました!」

財布から100円玉を1枚取り出し、そっとATMへ投入。帳尻はぴたりと合い、僕は何食わぬ顔で帰社しました。

一件落着。めでたし、めでたし。

……いい加減なことをすると、いつかバレます。

その数日後のことでした。

警備会社から一本の電話。対応したのは、元ヤンキーで筋の通った「東(ひがし)の姉さん」。用件はこうでした。

「ATM機の内部に100円玉が1枚落ちていた。ただし、勘定は合っている。どう処理しますか?」

……勘のいい方は、もうお気づきでしょう。

そう。あの日どうしても合わなかった100円は、ATMの内側にコロンと落ちていたのです。つまり機械の中の現金は最初から正しく、足りていなかったのは帳簿を睨んでいた僕の計算だけ。

そして、僕が「埋め合わせ」に入れたあの100円玉は――完全に、余っている。

事実上、あれは僕の100円です。

ここで、事情を何も知らない前田支店長が動きます。

支店長「佐藤君、ちょっとATM行って、その100円受け取ってきて」

僕「はい」

支店長「ほんでから……それ、交番に届けといて」

僕「え? 交番、ですか?」

そう。支店長は知らないのです。僕が木本さんと共謀し、自分の財布から100円をATMに投入した、あの完全犯罪(未遂)を。

支店長「まあ、金額も合ってるし、警備会社が見つけたもんやし、ルール上しゃあないな。落とし物として届けなあかん」

僕はそっと木本さんの方を見ました。

見事に、目を合わせてくれません。

というわけで、僕は再び小西通りを小走りで抜け、ATMへ。重装備の警備員のおじさんから、恭しく100円玉を受け取りました。かつて僕の財布にいた、あの100円玉を。

そして、すぐ近くの交番へ。

お巡りさんは一応対応してくれましたが、終始、怪訝な表情。「なんでこんな少額を、わざわざ企業がまとめて……」という顔です。深い事情は、もちろん語れません。

油取り紙みたいなペラペラの用紙に、自分の住所と名前を記入して、手続き終了。

こうして僕は、絶対に落とし主が現れない落とし物を、正式に世に送り出したのでした。

自分の100円を、自分で拾って、自分で交番に届ける。

奈良の朝は、今日も平和です。


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