文章だけで飯テロできるかな?
夜、ものすごく食欲をそそる動画を見た。
いわゆる「飯テロ」動画。
お腹が空いた。
でも、今はもう食べてはいけない時間。
そんな状況に限って、
たまたま「蕎麦」のことを考えてしまいました。
かけそばの「湯気」と「ネギ」
3月の終わり。空気はまだ少し冷たくて、
薄手の上着の前を合わせるくらいの昼下がり。
お店の暖簾をくぐると、
おだしの香りと一緒に店内の熱気に包まれる。
寒さで縮こまっていた肩の力が抜ける。
注文した蕎麦をカウンターで受け取る。
お盆越しに、ずっしりとした重みと温かさが
手に伝わってくる。
席に着いて、まずは割り箸を割る。
蕎麦に行く前に、上にのったネギを
箸でつついて熱いおだしの中に沈ませる。
シャキシャキのネギが、
おだしを吸って馴染むのを待つ時間が好き。
その間に七味唐辛子をパラリと振る。
おだしの香りが一気に立って、
お腹が減ったことを思い出す。
そしてようやく蕎麦を持ち上げる。
琥珀色のおだしをまとって、ツヤっとしている。
思い切りすする。
ズズッ、と音を立てた瞬間、
熱いおだしが舌に広がって、
遅れて蕎麦の香りが鼻に抜ける。
一拍遅れて、七味の刺激が追いかけてくる。
「うまい」と思った時には、もう次を持ち上げている。
お冷を飲むタイミングを見失っているうちに、
気づけば丼の底が見えていた。
ざるそばの「重み」と「わさび」
かけそばの余熱が残っているうちに、
ざるそばの話もしておきたい。
あれは、同じ「蕎麦」という名前なのに、
全く別の食べ物という気がする。
箸で持ち上げたときの、指に伝わる重みが違う。
冷水でギュッと締められた蕎麦は、
キリッとしていて、
箸先からたしかな手応えが伝わってくる。
鼻を近づけると、かけそばの時とは違う、
蕎麦そのものの瑞々しい香りがする。
つゆに、ほんの少しだけ浸す。
この「ちょっとだけ」が、すごく難しい。
どっぷり浸すとつゆの味に負けてしまうし、
浅すぎると蕎麦の味しかしない。
ちょうどいい深さを探り当てた一口は格別。
飲み込んだあとに、鼻から抜ける香りも最高。
わさびは、つゆには溶かさない派。
蕎麦の上に直接少しだけのせて、
そのまま口に運ぶ。
つゆの塩気と、蕎麦の甘み、
そしてわさびの刺激がバラバラにやってきて、
噛んでいるうちにちょうどいい味になる。
寒い日にはかけそばであたたまりたいし、
暑い日にざるそばの爽やかさが恋しくなる。
どちらも本当のことだから、困ってしまう。
蕎麦は、季節やこちらの体温に合わせて、
毎回「こっちがいい」と思わせてくる。
......さて、
食べてはいけない時間ほど、
こういうことを考えてしまう。
頭の中ではもう一杯すすっているのに、
現実の胃は、まだ空いたまま。

