下書き1 野口さんと北里さん
薄い紙越しに彼を見つめている。
見ていることに気づいているのかな。
会ってみたいけど、恥ずかしい。
だからもう少しこのままでいよう。
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あっ、今日子さん、新しいお札もう見ましたか。
巽くんが言う。
くんは心の中だ。
まだなんです。
巡ってきたんで、後でみせます。
え〜、嬉しいです、まだ見た事なくって。
じゃあ、あげますよ。
" あ ・ げ ・ ま ・ す "
バイト先の先輩後輩で。
年上だけど、後輩のわたしに。
あげます、ってどういうことだろう。
お札を、くれる。
すごい破壊力だ。
物をプレゼントされるとか、ジュースくれるとか
そんな経験は沢山でもないけどある、
でも、何かの対価とかでもなくて、
クラウドファンディングみたいに応援してます、とかでもなくて。
家族や親戚でも、お正月だから、とかお小遣いだから、とかたまにあったからとか理由があって
何か買いなさい、とか、貯金しなさい、とか目的があって。お札をもらうってそんなとき。純粋にお金をもらったことなんて今まであったかしら。
新しいお札、みて見たいけどいいんですかー?
なんて普通の返しをしてしまう。
いいですよ。
この辺みんなに見せてから持って行きます。またあとで。
更衣室で、私の聞き間違いかな、と思って
とりあえず交換ってことだろうと思い直す。
お財布の中には、諭吉さん、樋口さん、野口さん
相手は誰か聞くのを忘れた。
あげます、がほんとにあげます、なら千円かな。
私は野口さんをお渡しすればいいですか?
そうメッセージを送ったら
はい、それでお願いします、とかえってきた。
良かったー、勘違いしなくて。
ホールから帰ってきたら真由が預かってるよ、と封筒を渡してくれた。
とてもかみが薄い茶封筒。
グラシン紙のように輪郭がはっきり分かるわけではなく、北里さんの輪郭や1000円の文字がほんのり透ける程度の薄さ。
現金をそのまま受け渡すのではなく
また中のお札を出すわけでもなく
あっ、そうなんだと感じるぐらい
この辺の気の配り方が絶妙で、くれるだなんてへんな誤解をしてしまった。
もしかしたら、なんて。
目が合ったら、気づかれてしまうかも。
今日も封筒の外から北里さんをみる。
巽くんは新札が出回るまでは記念にしときましょうと言った。出回っても、きっとこの北里さんは使えない。
なんのはなしですか
