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第10話:好きと適性の違いに気づいた日──手放すことから始まった価値

突然の異動辞令。

経理のスペシャリストになるんだと、学業に励んだ日々。
仕事は学んだ知識と実務のマッチングが
まるでクイズに正解したような楽しみと喜びに包まれていました。
これからはもっと経験を積んで自分自身が成長していることを
実感できるようになる
そんなことを疑うこともなく、
ただ真っすぐに仕事に向き合ってきました。
「就活時代に企業研究で深堀して自分の”軸”を見つけたことは
間違っていない。」
そんな過去への自分の行動や選択にも”正解”を見出していました。

けれど・・・
人生には“避けられない選択”が訪れることがあります。
私はその選択を、 入社5年目で経験することになりました。
それは今まで積み上げてきた日々を指定されたような瞬間でした。

1)異動が教えてくれた私の“本当の適性”


一生経理のスペシャリストとして生きていくのだと疑いもなく過ごしていたある日のこと。
異動の辞令が出ました。
経営に直接携わる部署への異動。
天職だと思っていた経理の仕事から離れるなんて・・・青天の霹靂でした。

経理から経営への異動は異例でした。
経営に携われることは名誉なこと。
社内では「おめでとう」の祝福の言葉。
でも私の第一声は

「嘘でしょ・・・なんで?」

周囲の喜びとは真逆の言葉。

気持ちのざわつきが止まらずに、その場をウロウロとしてしまいました。
まるで檻の中の動物のように。

そして異動辞令が出た理由を自問自答しました。

私の仕事ぶりがダメだったの?
経理として能力不足なの?
今までの努力は無駄だったの?
ベスト社員賞を貰ったのは経理としての功績を評価されたからじゃないの?
大きなプロジェクトに参加させてくれたことは経理として
認められたからじゃないの?

上司の姿が見え、私は直ぐに駆け寄りました。
そして私はおもちゃを取り上げられた子供のように、
上司に食い下がりました。

「絶対に嫌です。
経理のスペシャリストとして生きていくために、
学生時代からずっと努力してきたのに。
何がダメだったんですか。どうして経理から外されるんですか。」

上司は静かに
「外したんじゃない。抜擢なんだ。」
とならめるように言いました。

抜擢ってなぜ?なぜ専門職なのに別の業務に就かなければならないの?

「納得できません。
私の悪いところは改善します。だから経理でいさせてください。
この会社で経理のスペシャリストになりたいんです。
入社の時からずっと言っているのを理解してくれていましたよね?」

「だから抜擢なんだよ。
経理チームとしても手放したくないよ。
大事な仲間だと思っているし、新入社員の時から即戦力として頑張ってきてもらっていることは
誰よりも見ているし評価しているよ。
それはチームのみんなも同じだし、功績には感謝している。
でも、これが組織なんだよ。
会社員である以上、受け入れて欲しい。」

意味がわかりませんでした。
功績も認められてそれなりの評価もしてくれて、必要とされている。
人間関係も良好なのに。
なぜ好きな業務を手放さなければならないのか、
思考が追い付きませんでした。

異動部署へも掛け合いに行きました。
何度も何日も上司に経理に残りたいと伝え続けました。
ですが、何度話し合っても、一度出された異動は撤回されることは
ありませんでした。

時間だけが無駄に過ぎていき、異動日の一週間前になりました。

経理として入社したのに経理としての役目が終わった。
もうこの会社に私は必要ないと言われているんだ・・・
そんな風に思い始めました。
この会社で経理のスペシャリストになれないのなら
転職して新たな会社で経理のスペシャリストを目指した方がいい・・・
こんな風に自分を納得させ
上司に伝えました。

「だったら辞めます。」

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