掌編小説|既読がつかない夜
みさきからLINEの返信が届いた。
胸の奥がひとつ跳ねる。
すぐに開きたい。
でも、すぐ既読をつけるのは、“好き”がばれすぎる気がして。
僕が主導権を握っていたい。
画面を見つめたまま、指先だけが宙で止まる。
みさきの返信にはムラがある。
早いときは十秒。遅いときは二時間。
今回は三分。
その“間”に合わせるように、僕は五分待って既読をつけた。でも、返ってきたメッセージはあっけない。
「ごめん、今ご飯食べてた」
ただそれだけ。
それだけなのに、胸の奥が少し沈む。
返事を打っては消し、また打っては消す。
「そっか」
「何食べてたの?」
「いいなあ」
「ゆっくり食べてね」
どれも重い気がして、
どれも軽い気がして、
どれも違う気がして。
結局、
「そっか、ゆっくりだね」
とだけ送った。
会話をしたい気持ちをグッと堪えて、
みさきの温度感に合わせた。
少しそっけなかっただろうか。
そう思った瞬間、胸がまたざわつく。
-----
みさきに送ったLINEは、二時間経っても既読がつかなかった。
部屋の時計の針だけが進んでいく。
秒針の音が、やけに大きい。
送ったのは、たった一行。
軽いはずの言葉が、今はやけに重い。
理由を並べても、
どれも嘘みたいに思えてくる。
“忙しいだけ”
“宿題をしている”
“充電切れたのかな”
机に置いたスマホが、
小さく震えた気がして手を伸ばす。
違った。
窓の外はすっかり暗い。
街灯の光が、部屋の壁に薄く揺れている。
日付が変わる少し前、ようやく既読がついた。
でも、返事は来ない。
既読だけが、そこにぽつんと残っている。
十七分後、画面が光った。
「うん」
それだけ。
こんなに待ったのに。
短い。
軽い。
でも、胸の奥に落ちる音は重かった。
これ以上、今日は返せなかった。
ーーーーー
翌朝、学校に着いたけれど、みさきに何て話しかければいいのか分からなかった。
廊下の角を曲がったところで、目が合う。
一瞬、胸が固まる。
すると、みさきはふつうの声で言った。
「おはよう、かけるくん」
その笑顔が、いつも通りすぎて、
胸の奥がきゅっと縮む。
「……おはよう」
それだけ言えた。
みさきはもう友達の方へ歩いていく。
僕の胸のざわつきなんて知らないまま。
昨日の夜、あんなに長く感じた時間は、
どうやら僕の世界だけのものだった。
気にしていたのは、僕だけみたいだ。
いいなと思ったら応援しよう!
ご拝読ありがとうございました。よろしければご支援いただけるとうれしいです。