AMD Ryzen AI 350でNPUは本当に使えるのか? Krackan Point環境での実測レポート(ComfyUI/LM Studio検証)
Ryzen AI 350(Krackan Point)を搭載した新しいAI PCを手に入れ、期待に胸を膨らませてComfyUIやLM Studioを動かしてみたユーザーは多いでしょう。筆者もその一人です。
しかし、実際にAI生成や推論を試みると、「あれ、NPUが全然動いていない?」「DirectMLでエラーが出て落ちる」といった問題に直面し、立ち止まってしまっている方も多いのではないでしょうか。特に、上位モデルのStrix Point(Ryzen AI Max 395/375)搭載機ではNPUが動作したというレポートがあるため、「なぜ自分の環境では動かないのか」と疑問に感じるのは当然です。
この記事では、Ryzen AI 350(Krackan Point)搭載PCで実際にComfyUIとLM Studioを動かした筆者の実測結果を共有します。そして、現状の「NPU封印状態」の理由を技術的な観点から解説し、「何が動き、何が動かないのか」をStrix Pointとの比較も交えて徹底的に整理します。
結論から言うと、2025年11月時点、Ryzen AI 350(Krackan Point)のNPUは実質的に利用できません。
🟦 検証環境
今回検証に使用したPCとソフトウェアの構成は以下の通りです。この最新のKrackan Point環境で、ローカルAI実行を試みました。

機種: ThinkPad P16s Gen 4 AMD(Ryzen AI 350 Krackan Point)
メモリ: 48 GB
GPU: Radeon 860M (iGPU)
ストレージ: 2 TB
BIOS: R2XET35W (1.15)
OS: Windows 10 ビルド 10.0.26200.7019
ソフト: ComfyUI 最新版、LM Studio v1.53.1(Vulkan/CPU llama.cpp)
🟨 # ComfyUIの検証結果
画像生成AIの代表的なプラットフォームであるComfyUI(Stable Diffusion XLモデルを使用)を用いて、CPU、DirectML(GPU)、ROCm/CUDAの3つのモードを試しました。
■ CPUモードでは完走するが、速度は実用レベルではない
まず、最も安定しているCPUモードで実行を試みました。結果は以下の通りです。
Prompt executed in 314.25 seconds
SDXLモデルを、GPUやNPUを使わずに純粋なCPUモードで完走させました。かかった時間は約5分14秒です。全プロセスがCPUに割り当てられ、メモリを大量に消費しますが、システムは安定動作しました。
結論: CPU運用なら安定して動作します。しかし、生成速度は非常に遅く、実用的な速度で多くの画像を生成するには向きません。あくまで「とりあえず動く」というレベルです。
■ DirectML(iGPU)ではVRAM Memory ERRORでシステムクラッシュ多発
次に、内蔵GPU(iGPU)であるRadeon 860Mを、Windows標準のAI推論APIであるDirectML経由で利用しようと試みました。これが最も多くのユーザーが期待し、そして直面する問題です。
結果として、高確率(ほぼ100%)で以下の致命的なエラーが発生し、システム全体がクラッシュしました。
Windows イベントログ:Microsoft-Windows-Kernel-Power / EventID 41 BugcheckCode 270
筆者も何度も試しましたが、DirectML指定時にiGPUのVRAM管理層で不整合が起きているものと推定されます。非常に低解像度(例: 312 px)で通るケースもごく稀にありましたが、通常のSDXL運用(1024x1024など)では再現性がなく、安定しませんでした。
推定原因: 現時点のRadeon 860M (iGPU) とDirectMLドライバ層の間のメモリ管理に不整合がある可能性が高いです。
結論: 現時点では、DirectML経由でのiGPU利用は、システムクラッシュのリスクが高すぎるため非推奨です。
■ ROCm/CUDAは利用不可
AMDが提供するGPU演算プラットフォームROCm(Radeon Open Compute)は、現時点ではKrackan Point(Ryzen AI 350)を公式にサポートしていません。
ROCmはStrix Point(Ryzen AI Max 395/375)でのみ公式対応が表明されており、Krackan PointではPyTorchやComfyUIのROCm GPUモードで動作させることは不可能です。
また、NVIDIA環境をエミュレートするCUDA(ZLUDA経由など)も、このKrackan Point環境では起動不可でした。
🟧 # LM Studioの挙動
ローカルLLM(大規模言語モデル)の実行環境として人気の高いLM Studioでも、AI推論を試みました。
Krackan Point環境でLM Studioを起動したところ、以下の結果が得られました。
Vulkan GPUでの動作は可能:DirectMLとは異なり、Vulkan API経由でのiGPU利用は比較的安定して動作しました。
NPUは検出されず:設定画面を詳細に確認しましたが、「NPU」という項目自体が表示されません。
CUDAは非対応:エンジン選択肢でCUDAを選択すると、GPU survey unsuccessfulと表示され、起動できませんでした。
利用可能エンジン:
CPU llama.cpp (Windows)
Vulkan llama.cpp (Windows)
結論: LM StudioはVulkan経由でiGPUを利用できますが、NPUは一切使用されていません。LLM推論においても、NPUによる高速化の恩恵は受けられないのが現状です。
🟩 # NPU アクセスAPIの現状(2025 年11 月時点)

なぜNPUが検出されないのか?その理由は、OS、API、SDKの三層構造のどこにもKrackan Pointへのアクセス経路が存在しないからです。
現状の主なAI推論APIとKrackan Pointの対応状況を整理します。
ONNX Runtime NPU Backend
対応状況: Snapdragon X 対応のみ
備考: AMD Krackan 非対応。事実上、Copilot+ PCとして発表されたSnapdragon機専用。
DirectML NPU 拡張
対応状況: Strix Point/Copilot+ PC 向け
備考: Ryzen AI 350 非対応。iGPUドライバの安定性も不足。
OpenVINO 2025.0
対応状況: Intel NPU 専用
備考: AMD サポート外。Intel Core Ultra(Lunar Lakeなど)専用。
AMD XDNA SDK β
対応状況: Strix Point 向け公開範囲外
備考: Krackan Point 非対応。上位モデル(395/375)前提で設計・提供されている。
LM Studio
対応状況: GPU / CPU のみ
備考: NPU 呼び出し自体が現状不可。
結論: Ryzen AI 350のNPU(XDNA 2)を、ComfyUIやLM Studioといった一般のアプリケーションから直接利用できる公開APIやSDKは、現時点で存在しません。NPUは搭載されているものの、その機能はOSやアプリケーションからは「封印状態」にあると言えます。
🟦 # Strix Point との比較

「なぜ自分のKrackan Pointだけ動かないのか」という疑問は、上位モデルのStrix Point(Ryzen AI Max 395/375)とのサポート状況の差異を見ると明確になります。Krackan Pointは、AI PCとして位置づけられながらも、ソフトウェア側の優遇度が低い状況です。
Strix PointとKrackan Pointのソフトウェアサポートの差異は以下の通りです。
ROCm サポート
Strix Point: ○ 正式対応
Krackan Point: × 非対応 (現時点)
DirectML 安定性
Strix Point: 安定報告あり(Zenn記事参照)
Krackan Point: 高確率でクラッシュ
NPU SDK (XDNA SDK)
Strix Point: β 対応
Krackan Point: 非対応
LM Studio GPU 動作
Strix Point: ○ 可能
Krackan Point: △ Vulkanのみ実行安定
実用安定性
Strix Point: 実用レベル
Krackan Point: CPU限定で安定
Strix Pointが上位モデルとしてROCmやXDNA SDKの恩恵を先行して受けていることがわかります。Krackan PointのNPUはXDNA 2アーキテクチャであるため、ハードウェア的には潜在能力がありますが、ドライバ・APIのサポートが追いついていません。
🟪 # 考察:なぜKrackan PointではNPUが動かないのか
これらの検証結果と比較から、Krackan PointのNPUが動かない理由は、以下の3つの階層的な問題が絡み合っているためと分析できます。
1. ドライバ階層の問題(ハードウェア層)
ROCm未対応: AMDのGPU演算基盤であるROCmが、現時点でKrackan PointのRadeon 860M/NPUを公式サポートしていないことが致命的です。
DirectML 安定性不足: DirectML経由でiGPUを利用しようとするとクラッシュします。これは、Krackan Point専用のiGPUドライバ(Radeon 860M)の最適化が不十分な状態にあることを示唆しています。
2. API層の問題(Windows/OS層)
Windows ML / ONNX RuntimeのKrackan認識不足: WindowsのAI基盤が、Krackan PointのNPUを「推論デバイス」として認識していません。現時点では、Snapdragon X EliteのようなCopilot+ PCの主力モデル向けの対応が優先されている状態です。
3. SDKの問題(開発者層)
AMD XDNA SDKがStrix Point前提: AMD自身が提供するNPU向けSDKが、よりハイエンドなStrix Pointをターゲットに設計・公開されており、Krackan Pointユーザーにはアクセスが提供されていません。
総じて: NPUは物理的に搭載されていますが、アプリケーションからNPUに処理を「指示する」ためのソフトウェア的な経路(ドライバ、API、SDK)がすべて未整備である、というのが現状です。NPUはまさに「搭載されているがアクセス不能な封印状態」にあると言えます。
🟨 # 今後の展望:NPU解放の可能性
現時点ではKrackan PointのNPUは使用できませんが、今後のアップデートによって状況が好転する可能性は十分にあります。
Microsoft Copilot+ PCの正式展開によるDirectML NPU対応拡大:
Copilot+ PCが市場に浸透することで、Windows ML/DirectMLのNPU対応が強化され、Krackan Pointもその恩恵を受ける可能性があります。
AMDによるKrackan Point向けROCm/XDNA SDKの提供:
AMDが販売を加速させるためには、Krackan Pointユーザーを無視できません。Strix Pointでの先行対応が一段落した後、Krackan Point向けのROCmサポートや、XDNA SDKの公開範囲拡大が行われる可能性は高いと見ています。
Vulkanベースのフレームワークの発展:
LM Studioの例に見られるように、DirectMLのような特定のAPIに依存せず、VulkanをバックエンドとするAIフレームワークが発展すれば、Krackan PointのiGPUも安定した性能を発揮できます。
現時点では、CPU or Vulkan GPU運用が最も安定し、現実的な選択肢となります。
🟩 # まとめ:現状はCPU/iGPU(Vulkan)運用を前提に
AMD Ryzen AI 350(Krackan Point)のNPU活用現状について、実体験を基に検証した結果を再結論としてまとめます。
NPUの利用: 実質的に使用不能。API・SDK・ドライバすべて未整備。NPU推論は諦める。
ComfyUIの安定性: CPUモードのみ安定。DirectMLはクラッシュ多発、ROCmは非対応。
LM Studioの利用: Vulkan GPUで動作可能。NPUは使用されないが、LLM推論は比較的安定して行える。
現実的な運用: CPU / iGPU(Vulkan)運用。現時点では、この2つを前提に使うのが最も現実的。
Krackan Pointは優れたCPU性能とiGPUを搭載した優秀なプロセッサですが、AI PCとしての真価(NPUによる高速推論)を発揮するには、ソフトウェア側の準備が追いついていない状況です。
今後のAMDおよびMicrosoftからのドライバ・APIアップデートに期待しつつ、今は「NPUはまだ封印状態のようなもの」と割り切って、CPUやiGPUを活用したAI運用を楽しむのが賢明でしょう。
本記事は、2025年11月時点の検証結果に基づき作成されています。
追記:たまたまZoomを起動して動作確認を行っていたところ、NPUに動きがありました。初めて動いたのを見ました。アプリ側の対応が必要なこと、痛感しました。

参考文献
本記事の技術的比較や背景情報は、以下の記事を参考にしています。
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