『東南の角の守り神』
我が家の庭の外側、東南の角にある石垣の隙間から、その雑草が顔を出したのは数年前のことだった。
ちょうど玄関へ続く小じんまりとした石段の登り口にあたり、季節によっては眩しい朝日が昇る場所だ。「どうもみっともない、早く抜かねば」と思いつつ1、2週間放っておいたのがいけなかった。折しも春先、雑草の成長速度は凄まじい。あっという間に50センチほどに伸びていた。
私は太くなった茎を根元から伐採し、根の隙間に大量の除草剤を流し込んだ。
「へへへ、これでイチコロだろう」
高をくくっていたのだが、ひと月もすると、また同じ場所で40センチ近くに育った青々とした姿を見せる。除草剤などどこ吹く風だ。
ならばと、再び根元から切り倒し、今度は除草剤に加えて高濃度の塩水まで叩き込んでやった。「ひひひ、さすがにこれでお陀仏だろう」。勝った気でいた。
しかし秋になり、ふと目をやると——殺したはずのアイツは、1メートルを超える大木さながらの貫禄で、豊かな緑の葉を風になびかせているではないか。
そこから私と「雑草」との長きにわたる死闘が始まった。何度も切り、何度も薬を撒いた。しかし私をあざ笑うかのように、油断すると奴はまた元の大きさに戻ってしまうのだ。
一昨年の冬、3年以上の介護の末に寝たきりとなっていた義母に続き、我が家の愛犬・八太郎までが寝たきりになってしまった。19歳を超え、自力で立つことも水を飲むこともできない。それでも食欲は旺盛で、水が飲みたい、寝返りを打ちたい、排泄がしたいとなると、大きな声で私を呼ぶのだった。
昨年の年末、私はいよいよ1メートルを超えて威張っていたあの「雑木」の枝をすべて払い、30センチほどの裸木に仕立て上げてやった。だがその時、ふと気になってネットでその植物の正体を調べてみたのだ。
画面を見て、私は絶句した。
その木の名は「センダン(栴檀)」。
さらに調べていくと、インドではセンダンの仲間に、魔除けや厄除けの木として大切にされているものがあるという。日本のセンダンも、神社や寺院、公園などで見かける木らしい。
……家の東南、つまり太陽が昇る方角に根を張る木。
私の中では、この時点ですでに「ありがたい厄除けの木」になっていた。
「やばいことをしてしまった」と冷や汗が出た。長年我が家を守り、義母や八太郎がこうして長生きしてくれているのは、もしかするとこの木が厄を払ってくれていたからではないか。そう思った瞬間、自分が丸裸にしてしまった30センチの寒々しい木片が、心配で心配でたまらなくなった。
しかし、春が来ると私の心配はただの杞憂に終わった。
生命力の塊のようなセンダンはぐんぐんと枝葉を伸ばし、この8月にはなんと2メートル以上にまで成長した。庭の沈丁花を今にも追い抜く勢いだ。道路に飛び出た枝こそ少し整えたものの、いまや私はこの木を「我が家の守り神」として、愛おしく見守っている。
今年の5月、義母は90歳で穏やかに旅立った。介護の終わりは寂しくもあるが、大往生だった。
一方の八太郎は、今日も元気に吠えている。寝たきりの体のどこにそんな体力があるのかと思うほどの大きな声で、いまも私を呼んでいる。
長年「死闘」を繰り広げてきたセンダンの木。
八太郎が元気に声を上げてくれている間は、どうやらまだまだ、粗末には扱えそうにない。
*なお、あとでもっと詳しく調べた結果、この木の学名は Melia azedarach。一方、インドで神聖視され、魔除けや厄除けなどの民間信仰と結びついて語られることが多いニームは、別種のインドセンダン Azadirachta indica だそうです(笑)。
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