農林水産物・食品の世界動向分析(令和8年8月3日)

農林水産物・食品の世界動向分析(令和8年8月3日)(本文4,539文字)
 
 
JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)が発信する「農林水産物・食品ビジネス短信」から、農林水産物ならびに食品の世界動向を分析します。
※本分析は本記事の筆者によるものであり、JETRO他の見解ではありません。
 
 
1. 【主要トピック1】:欧州の環境・包装規制(PPWR)本格化と主要国における食品安全・管理制度の導入
欧州連合(EU)における「包装および包装廃棄物規則(PPWR)」の適用開始を控え、欧州市場に参入・展開する世界各国の食品・関連事業者は、明確化される環境規制への実務的な対応を進めている。これと同時に、トルコやバングラデシュにおいても食品安全の確保や管理強化を目的とした新たな制度や法規制が施行・導入されており、制度的コンプライアンスとトレーサビリティの確保が主要な要件となっている。
 
1-1. EU包装・包装廃棄物規則(PPWR)の適用開始とサプライチェーンにおける包装データ可視化
欧州委員会は2026年8月12日のPPWR適用開始に向け、管轄担当者による実務解説を行うとともに、欧州共同研究センター(JRC)がEU市場における包装材投入量の推計およびデータの可視化を推進している。PPWRはEU域内で流通する全ての包装資材に対し、リサイクル可能性や再生プラスチックの使用割合、過剰包装の制限などを規定するものである。日本を含む域外の食品輸出事業者や包装資材メーカーは、製品自体の品質管理に加え、一次・二次包装の材質組成や重量、リサイクル適合性を正確にデータ化し、現地輸入事業者へ提示する体制の構築が求められる。
 
1-2. トルコにおける「新規食品(Novel Food)」規制の施行と安全評価の明確化
トルコでは、食品安全の確保と新技術を用いた食品の流通促進を目的とした「新規食品(Novel Food)」に関する規則が施行された。本規制は欧州のNovel Food規制の手続きと整合性を図るものであり、これまで同国市場に流通していなかった代替タンパク質や新技術による食品原材料の安全評価手続きを明文化したものである。これにより、トルコ市場への新規食品・新素材の投入に関する法的手続きが明確化される一方、事業者は科学的エビデンスおよび安全評価データの提出が義務付けられることとなる。
 
1-3. バングラデシュにおける食品事業者の登録・ライセンス制度導入と法令遵守の強化
バングラデシュ政府は、国内の食品安全水準の向上と流通管理の透明化を目指し、全ての食品事業者に対する統一的な登録・ライセンス制度を導入した。これまで流通管理の統一性が課題とされていた同国において、製造・加工から流通・卸・輸入に至る各段階での公的管理体制が整備される。現地での製造投資や完成品の輸出を行う事業者にとっては、法制度のコンプライアンスコストが生じるものの、中長期的には公的な管理基盤に基づく取引環境の整備につながる施策である。
 
 
2. 【主要トピック2】:体験型文化プロモーションの展開と新興市場・地方都市における日本食の多角的展開
日本食に関連する施策においては、単に食材を供給する形態に加え、地域の歴史や文化等の要素を取り入れた体験型のプロモーション手法が見られる。東南アジアや北米、中国等の多様な地域において、体験型イベントの実施や現地教育機関・流通との連携、地方都市や特定分野(ペット市場等)への拠点展開が行われている。
 
2-1. 北米市場における体験型食イベントの実施と見本市でのジャパンパビリオン展開
米国アーカンソー州では、演出手法やストーリー性を取り入れて日本食を提供する「フード・シアター」によるイベントが開催され、現地消費者に対し日本食文化の理解促進を図る取り組みが行われた。また、ニューヨーク市で開催された北米東海岸規模の食品見本市では、ジャパンパビリオンに日本から33社・団体が出展し、現地のバイヤーや外食関係者に向けて日本産食材の提示を行った。消費者の関心が多様化する北米市場において、製品特性と文化背景の双方を周知する施策が実施されている。
 
2-2. 東南アジア市場における教育・PR施策と製造・流通拠点の整備
東南アジアにおいては、マレーシアのテイラーズ大学で調理学部の学生を対象とした日本食特別講義が開催され、現地の将来的な調理従事者に対する調理技術や知見の共有が行われた。また、ベトナムではホテル・ニッコー・サイゴンでの日本食PRフェアが開催されたほか、雪印メグミルクベトナムが南部タイニン省において新規工場の稼働を開始した。これにより、完成品の輸入販売のみならず、現地での生産・供給体制を通じた乳製品・食品カテゴリーの展開が進められている。
 
2-3. 中国・香港・台湾における「ジャパンブース」出展と地方・体験型要素のPR
ジェトロは、中国・四川省の成都で開催された「HOTELEX成都展」および台湾のペット見本市において、初となる「ジャパンブース」を設置し、中国内陸部やペット関連市場への参入支援を実施した。さらに香港では、香港ブックフェアと同時開催されたスポーツ・レジャーエキスポにおいて、日本の地方観光や体験型消費に関する情報発信を行った。これらの取り組みは、主要都市部に限らず、内陸地方都市や新規カテゴリー(ペット等)へ日本関連産業の展開領域を広げる施策となっている。
 
 
3. 【主要トピック3】:主要国における貿易協定・制度の変動と農産物・資材の需給動向
農水産物・食品の流通構造は、各国間の貿易協定、国内規制の変化、穀物・資材の世界的需給動向、各国のエネルギー・農業政策等に影響を受ける。北米や南米、中東、アフリカにおいて、州間規制の緩解、FTAの発効、バイオ燃料施策、主要食糧の輸入見通しが発表されており、各市場における流動性に変化が生じている。
 
3-1. カナダにおける州間酒類取引規制の緩和と州間経済連携の動き
カナダの9州は、国内流通の障害となっていた酒類の州間取引規制の緩和を決定した。この背景には、対米貿易における関税措置等の状況変化を受け、カナダ国内の州間経済連携を強め、内需の流通効率を高める目的が存在する。これにより、カナダ国内での酒類流通の平準化が進むとともに、日本からカナダへ輸出される酒類についても、特定の州を経由した全土への販売経路の確保や流通手続きの効率化が見込まれる。
 
3-2. EFTA・メルコスールFTAの発効とブラジルにおけるエタノール混合率引き上げ
ブラジルとEFTA(欧州自由貿易連合)加盟国間におけるFTAが2026年10月1日に発効することが決定した。これにより、加盟国間における農産物・加工食品の関税障壁等の低減が進む。また、ブラジル政府はガソリンへのバイオエタノール混合率を32%に引き上げる決定を行った。バイオエタノールの原料となるトウモロコシやサトウキビの需要構造が変化することにより、直接的または代替的に関連する穀物・製糖の需給および飼料価格へ影響を与える可能性がある。
 
3-3. エジプトの小麦輸入首位維持予測とモルディブにおける経済多角化施策
国連食糧農業機関(FAO)の2035年までの農業見通しによると、エジプトが継続して世界最大の小麦輸入国となると予測された。黒海地域を含む国際情勢を背景に、中東・アフリカ地域における主要食糧の調達動向が引き続き世界穀物市場の需給要素となることを示している。一方、モルディブでは経済多角化に向けたビジネスセミナーが開催され、特定産業依存からの脱却に向け、食品・インフラ分野における投資機会の紹介が行われた。
 
 
4. 日本に与える影響と対応の方向性
2026年7月後半の動向は、欧州の環境規制(PPWR)や各国の制度導入に伴う「法規制・基準への即応力」と、主要市場における「体験要素や地域特性を踏まえた情報発信」の重要性を示している。日本企業は、穀物・資材の需給変動や各国の通商制度の変化を注視し、最新の規制に合致した製品仕様の整備と証明データの管理体制を構築することが求められる。同時に、製品特性と文化・体験を組み合わせた施策を推進し、各市場での定着を図ることが適当と考えられる。
 
4-1. 市場アクセスの変化
◆輸出入事業者
EUのPPWR適用開始やトルコの新規食品規制、バングラデシュの事業者登録制度など、対象国の最新規制に関する情報収集と適応体制の整備が必要である。特に包装資材の仕様データ化やトレーサビリティの提示は、手続き上の停滞を回避するための必須要素となる。
◆流通・販売事業者
カナダにおける州間酒類取引規制の緩和は、日本酒や和洋酒の現地流通網を拡大する機会となり得る。現地の輸入事業者・卸業者と連携し、特定州から全土へ接続する効率的な供給ルートを精査することが推奨される。
◆消費者
海外の環境・安全基準に適合した製品や、管理体制が維持された輸入加工食品の流通により、国内市場における選択肢の確保と安全性の維持が期待される。
 
4-2. 価格動向や需給バランス
◆輸出入事業者
ブラジルのエタノール混合率引き上げ(32%)やエジプトの小麦輸入予測は、穀物・飼料・糖類等の国際相場に影響を与える要因となる。原材料調達コストの不確定性に備え、契約条件の精査や調達先ポートフォリオの多角化を検討することが重要である。
◆流通・販売事業者
原材料や物流関連費用等のコスト変動要素を勘案し、適正な価格形成を行うとともに、製品特性や付加価値を明確にした商品構成を維持することで、収益構造の安定を図ることが求められる。
◆消費者
国際的なエネルギー政策や穀物需給の状況により、輸入原材料や飼料に依存する一部食品の価格水準が推移する可能性がある。
 
4-3. 新たな商機や規制対応
◆輸出入事業者
米国アーカンソー州の「フード・シアター」や香港でのレジャー関連PRに見られるように、製品の背景となる文化的要素や使用場面を伝える施策が有効である。また、台湾でのペット見本市初出展にみられるよう、ペット関連製品等の新規カテゴリーへの展開も検討課題となり得る。
◆流通・販売事業者
ジェトロの「HOTELEX成都展」や「雪印メグミルクベトナム」の工場稼働に見られるように、中国内陸部や東南アジア市場における流通網の確立が期待される。現地外食・ホテル事業者との協働による認知向上が選択肢となる。
◆消費者
国内外における日本食プロモーションの実施やGI登録の推進等により、国内外において品質管理された各種農林水産物・食品に接する機会の維持・拡大が見込まれる。
 
 
5. 全体の総括・展望
このように、2026年7月後半のJETRO「農林水産物・食品ビジネス短信」からは、世界の食品産業が欧州のPPWRに代表される「環境・安全規制への適合」と、各主要市場における「体験型・多角的プロモーションの推進」という二つの大きな動向の中にあることが窺えます。カナダにおける州間規制の緩和や南米のFTA発効といった制度的変化は参入機会を提供する一方、バイオエタノール政策や主要国の食糧需給動向は構造的な課題を提示しています。
今後は、各国で変更される法規制への適合を図るためのデータ管理および提示体制を整えつつ、製品の持つ機能や文化的背景を的確に伝える多角的なアプローチが重要であると考えられます。国際的な制度変更やマクロ経済の動向を客観的に把握し、従来の供給網や販促手法を状況に応じて見直すことで、グローバル市場における安定的な事業展開を進めていくことが展望されます。
 
 
以上です。
引き続き、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
 
 
 
<一次情報>
【JETRO】農林水産物・食品ビジネス短信
https://www.jetro.go.jp/biznewstop/biznews/foods/
 
 

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