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アカネサス構想シリーズ|第96回【68室のホテルが教える「先読み」の技術】──なぜ68室のホテルが世界ブランドに勝てるのか

こんにちは、株式会社アカネサス代表の北條竜太郎です。

今日から2回にわたって、
あるホテルのサービスについてお話しします。

「言われる前に、終わっている」

前回まで3回にわたって、

沖縄最大の建設会社・國場組が
700億円のプロジェクトに
乗らなかった話をお伝えしました。

今回の舞台は、
その國場組の子会社
テラスホテルズが運営するホテルです。



◆ 名前も知らない68室のホテル

ザ・テラスクラブ ウェルネスタラソ アット ブセナ。

沖縄・名護にある
68室の小さなホテルです。

リッツ・カールトンでもない。

フォーシーズンズでもない。

ほとんどの方は
名前すら聞いたことがないと思います。

外観はまるで
普通のマンションのようです。

初めて見たとき、
正直「ここが高級ホテル?」と思いました。

ところが一歩中に入ると、
別世界が広がっていました。

夜の海水プールです。

照明を落としたプールに、
温かい海水が満たされている。

音がない。

話し声もない。

ただ波の音だけが聞こえる。

水面に月が映っていました。

この静謐さは、
リッツにもハレクラニにもなかった。

外と中の落差に驚きました。

でも本当に驚いたのは、
建物でも景色でもありません。

サービスです。

その理由を一言で表現するなら
こうです。

「言われる前に、終わっている」。

今日はまず、
私が「テラスクラブ」で実際に体験した
6つのことを書きます。


◆ 体験1|夜11時のキャンセル不可プラン

エクスペディアで予約していた宿泊日を
間違えていたことに気づきました。

しかも、
キャンセル不可のプランです。

夜11時にホテルに電話しました。

普通なら
「エクスペディアにお問い合わせください」
で終わります。

ですが、
テラスクラブは違いました。

その場で
「キャンセルで大丈夫です」と一言。

いくらでしたかと聞かれ答えると、
エクスペディアのキャンセル不可料金のまま
直接予約に切り替えてくれたのです。

正規料金より安い金額です。

差額はホテルの持ち出し。

それも夜の11時にです。


◆ 体験2|マンゴーを切ってくれる

沖縄の知人からマンゴーをもらい、
ホテルに持ち込みました。

部屋に戻ると、
フロントから電話が。

「お切りしましょうか?」

── 30分後、
美しく盛り付けられたマンゴーが
部屋に届きました。

一言も頼んでいませんし、
「切ってほしい」とも言っていません。


◆ 体験3|忘れたメガネが部屋に

プールにメガネを忘れました。

しかし部屋に戻ると、
すでにメガネが届いていました。

何も言っていません。

忘れたことすら
自分で気づいていませんでした。


◆ 体験4|プールまで報告しに来る

これが一番驚いた話です。

フロントに電話して、
近くのレストランの予約をお願いしました。

その後電話を切り、
そのままプールに向かいました。

プールでくつろいでいると、
スタッフが足を運んで来て
こう言いました。

「北條さま、レストランのご予約が取れました」

私は「プールに行く」とは
一言も伝えていません。

理由を聞くと、
「北條さまはこの時間帯、
プールにいらっしゃることが多いので」と。

行動パターンを把握していたのです。


◆ 体験5|温かいお茶とブランケット

冬の沖縄です。

少し肌寒い日でした。

砂浜を散歩して、
ラウンジに戻りました。

席に着くと、
温かいお茶とブランケットが
すでに用意されていました。

散歩に出たことも戻る時間も
伝えていません。

「外から戻られたら冷えていらっしゃるだろう」と
見越していたのです。


◆ 体験6|ナンバープレートで車を記憶

車で外出して、
ホテルに戻ってきました。

車を停めた瞬間、
スタッフが鍵を持って立っていました。

ナンバープレートで
私の車を覚えていたのです。


◆ すべて「頼んでいない」

6つの体験に
共通していることがあります。

それは、
すべて「頼んでいない」のです。

マンゴーを切ってほしいと頼んでいない。

メガネを届けてほしいと頼んでいない。

プールに報告に来てほしいと頼んでいない。

お茶を用意してほしいと頼んでいない。

鍵を準備してほしいと頼んでいない。

── すべて、
言われる前に終わっている。

これはスタッフ個人の
「気が利く」といった話では
説明がつきません。

個人の資質ではなく、
何らかの「仕組み」があるはずです。


◆ なぜ魔法のようなサービスが可能なのか

まず前提として、
テラスクラブは68室です。

リッツ・カールトン沖縄は97室。

ハレクラニ沖縄は360室。

68室というのは、
スタッフが全員の顔と名前と行動パターンを
覚えられるギリギリのサイズなのです。


◆ 3つの能力に分解する

前回の6つの体験を分解してみると、

必要だったのは、
大きく分けて「3つの能力」
であることが分かります。

【1】観察

・マンゴーを持ち込んだことに気づく。

・プールにメガネが残っていることに気づく。

・砂浜から戻ってきたことに気づく。

・車のナンバーを覚えている。

これは
「見ているかどうか」の問題です。

忙しいホテルでは、
スタッフは自分の作業に集中しています。

目の前を通る客の変化に
気づく余裕がありません。

68室という規模だからこそ、
見える。

【2】共有

プールでレストラン予約を
伝えに来た話を思い出してください。

フロントが予約を取り、
その情報をプール担当に伝えた。

プール担当は
私がプールにいることを知っていた。

最低でも3人が連携しています。

しかも

「北條さまはこの時間帯、
プールにいることが多い」
という行動パターンの蓄積がある。

これは個人の記憶ではなく、
チームとしての情報共有です。

スタッフ同士が

「あのお客様は今どこにいて、
何を必要としているか」を
リアルタイムで把握している。

【3】判断

温かいお茶とブランケットの話。

「砂浜から戻った」

「冬で肌寒い」

「だからお茶とブランケットを用意する」

この判断を、
上司に確認せずにやっている。

マニュアルにはないはずです。

「冬の散歩帰りにはお茶を出す」
なんてルールはないでしょう。

現場のスタッフが
自分の判断で動いている。

さらに驚くべきは、
エクスペディアの件です。

夜11時。

キャンセル不可プランを
その場で「大丈夫です」と即答し、

正規料金より安い金額で
直予約に切り替えました。

差額はホテルの持ち出しです。

つまり売上を減らす判断を、
夜の11時にいるスタッフが行っている。

普通のホテルなら間違いなく
「明日フロントマネージャーに確認します」
と言われるでしょう。

テラスクラブでは、
現場のスタッフがその場で決断できる。

これは
損失を伴う判断まで含めた
「権限委譲」です。


◆ 3つが揃って初めて実現する

整理しましょう。

  1. 観察:68室だから全員が見える

  2. 共有:リアルタイムで情報が流れる

  3. 判断:現場が自分の頭で考えて動ける

この3つが揃って初めて、
「言われる前に、終わっている」
が実現します。

逆に言えば、
1つでも欠けたら成立しません。

観察力があっても共有しなければ、
個人プレーで終わる。

共有しても判断できなければ、
「上に確認します」で遅れる。

判断力があっても観察がなければ、
的外れなサービスになる。


◆ お金をかけているわけではない

ここで重要なのは、

この3つはどれも
「お金をかけているわけではない」
ということです。

高い設備を入れたわけではない。

有名なコンサルを雇ったわけでもない。

観察、共有、判断。

すべて
「人の動き方」の問題なのです。

そして68室という規模が、
動きを可能にしている。

大きくなれば
観察は難しくなる。

共有は遅くなる。

判断は現場から離れる。

テラスクラブは
「大きくならない」ことで
この3つを守っているのです。


構造的ポイント

・「言われる前に、終わっている」
 サービスには仕組みがある

・必要なのは
 観察・共有・判断の3つ

・68室という規模が
 3つの能力を可能にしている

・お金をかけずに
 「人の動き方」で実現している


次回予告|「小さい」ことが武器になる

実はこの構造、
どこかで見たことがないでしょうか。

日本の旅館です。

世界の5つ星ホテルが「システム」で
追いかけているものを、
日本は「人」でやってきた。

そして、
この話はホテルだけの話でしょうか?

私たち食品メーカーの現場にも、
同じ構造がないでしょうか。

次回の最終回で、
その話をします。


#テラスクラブ #沖縄 #ホテル #サービス #先読み #観察力 #情報共有 #権限委譲

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