TALES|小説紹介|ツインノベル|一本松高校剣道部
こんにちは、雨後乃筍です。うごとお呼び下さい。
今回はTALESにて公開されています、Kokoro-Hashiru先生とusagi先生のツインノベルを紹介させていただきます。
読んだのはちょっと前なのですが、この記事に手をつけるのが遅くなってしまいました。
なお本記事では、ネタバレが含まれますので、ネタバレなしでお二方の作品を読まれたい方は、以下のリンクから本編にお進み下さい。
1 作品紹介 『一本松高校剣道部 〜誠の剣〜』
大阪から香川県の一本松高校へ転校してきた高校2年生、森山誠の視点で描かれる青春剣道小説です。彼は中学時代から続けていたサッカーでの挫折や、大阪に残してきた彼女・茜との別れなど、過去への未練や後悔を抱えながら逃げるようにこの街へやってきました。しかし、クラスメイトの山口伊月から強引に剣道部へ誘われたことをきっかけに、小学生時代に打ち込んでいた剣道を再開します。
本作の魅力は、誠の不器用で真っ直ぐな性格と、剣道に対する泥臭いまでの熱量にあります。地獄のかかり稽古で限界まで追い込まれる苦しさや、面を打つ瞬間の身体的な感覚、大会で「あと10センチ」届かなかった敗北の悔しさが、男性作者ならではのストレートな力強さで描かれています。また、父親から無造作に渡された一万円札のエピソードなど、男同士の不器用な愛情表現も印象的です。過去を断ち切り、「オレはここで剣道をして生きていく」と決意し、伊月への特別な感情を自覚していく誠の再生と成長の物語として、展開されます。
2 作品紹介 『一本松高校剣道部 〜伊月の剣〜』
一方の『伊月の剣』は、一本松高校剣道部に所属する女子高生、山口伊月の視点から同じ時間軸の出来事を描いた作品です。本作は、女性らしい細やかなタッチで、海沿いの街の豊かな情景や、伊月の心の揺れ動きが非常に柔らかく温かみを持って描かれています。夕飯にタコの天ぷらが並ぶ山口家の食卓の風景や、弟の宿題を見る何気ない日常が、等身大の女子高生の生活をリアルに浮かび上がらせます。
物語は、彼女が転校生の誠を剣道部に誘うところから動き出します。防具をつけて稽古に打ち込む誠の気迫あふれる声を聞き、伊月自身も「もっと強くなりたい」と剣道への情熱を再燃させていきます。同時に、一緒に竹刀を買いに行った帰り道でのドキドキ感や、怪我をして彼にお姫様だっこされたことを思い出して赤面する姿、自分の気持ちが「恋」なのか戸惑う様子など、恋の機微が丁寧に掬い取られています。伊月の視点を通して、日常のきらめきと、真っ直ぐで少し強がりな彼女の成長を味わうことができる、瑞々しい青春群像劇となっています。
3 ツインノベル構造
このツインノベルは、二つの作品が重なり合うことで「変化をもたらす者(誠)」と「受け止める者(伊月)」という見事な構造を持っています。物語の起点は、一本松高校という穏やかな環境に、大阪からの転校生である誠というアクション(新しい風)が吹き込むことです。彼の登場に対して、伊月が剣道部へ勧誘するというリアクションを起こすことで、二人の関係が始まります。
入部後も、誠が道場に響かせる大きな声や気迫のこもった稽古が、伊月の「もっと強くなりたい」という気持ちを刺激し、剣道に対する彼女の意識を変化させていきます。また、伊月が稽古中に怪我をしてしまうという出来事においても、誠が彼女の足の上に倒れ込んでしまったという彼のアクションが原因であり、それに対して伊月が「私の代わりに一本とってきて」と思いを託すという構図が見られます。このように、誠のストレートな行動や存在そのものが水面に石を投じるように波紋を広げ、それを伊月が細やかな心情の揺れとともに受け止め、応えていくという関係性が、物語全体の推進力となっています。
4 構造がもたらす効果
この「アクションとリアクション」の構造と、二人の視点を行き来できるツインノベル形式は、読書体験に非常に大きな効果をもたらします。連載当時、『誠の剣』のエピソードが『伊月の剣』よりも数日早く公開されるスケジュールが組まれていました。そのため、読者は自然と、まず誠の視点で出来事をストレートに体験し、その後に伊月の視点で同じ出来事を読み、彼女の細やかな心情や裏側の事情を知るという立体的な読み方ができます。
これにより、片方の視点だけでは気づけない感情の補完が行われます。
例えば、伊月が怪我をした際、誠は「自分のせいで」と深く責任を感じて落ち込んでいましたが、伊月の方では彼に助けられたことへの淡い喜びや、彼の剣道復帰を心から願う思いがありました。
また、誠が試合で負けた時、彼自身は不甲斐なさに苛まれていましたが、伊月は短期間で試合に出場した彼を心から称賛していました。このように、当人同士はすれ違っていても、読者は「神の視点」で互いの深い思いやりや本当の気持ちを理解することができ、物語の深みと感情移入が格段に増幅されるのです。
5 構造の逆転
また、物語の構造上は「誠の剣」(アクション)→「伊月の剣」(リアクション)という時間の流れで展開されますが、ラストシーンだけは、この時間軸が逆転します。読者はまず、「伊月の剣」で伊月の決意と、自分の感情を秘めた、まま未来へ歩み出す姿を見届けます。このシーンでは伊月が「アクション」を起こしているのです。
そして「誠の剣」では、誠は伊月に対して「自分で決めた答えならそれがいい」「止めるんは違うやろ」と背中を押すような言葉をかけていましたが、内心で「お前が好きだ。だから、鹿児島には行くな!」と叫ぶほど激しい葛藤と後悔を抱えていたことが明かされます。
先に伊月の未来への決意と秘めた恋心を知っているからこそ、後から明かされる誠の「言えない気持ち」の重みと切なさが増幅される、ツインノベルの時系列を逆手にとっての効果を生み出しています。
また「伊月の剣」では、「引退」から「卒業」までが、時間通りに進むのに対し、「誠の剣」では、一気に時間が飛び「卒業式の最中」から過去の回想という形で展開します。
「未来へ向かう伊月」と「過去を愛おしむ誠」の対比
伊月の視点は常に前(未来)を向いており、読者も彼女と一緒に時間軸を真っ直ぐ進んでいきます。一方、誠の視点は、新人戦翌日の最も楽しかった二人の時間から始まり、卒業式という別れの場面から「あのかけがえのない日々」を振り返るという構造になっています。
余韻の強調
誠の視点で過去の時系列を行き来することで、読者は誠と共に「こんな眩しい高校生活は二度と来ない」という強い郷愁を疑似体験します。真っ直ぐに夢へ向かう伊月と、彼女の背中を見送りながら「一本松での日々」と「言えなかった言葉」を宝物のように抱えて卒業していく誠の姿、そしてが対比され、「仰げば尊し」の歌と共に、物語のラストに深い余韻とカタルシスをもたらしています。
6 両方の小説を同時並行で読むことの解放感
両方の小説を同時並行で読み進める最大のカタルシスは、お互いが相手を深く想い合っているにもかかわらず、言葉にしきれないもどかしさを、読者だけが全て知っているという点にあります。
片側の視点では「もどかしさ」や「もやもや」を残してしまいます、それを補完する手法としては「エピローグ」や「後日談」、私の小説で言えば「番外編」などで補完したりしますが、読者は常に「神の視点」で二人の物語を追っかけているため、清々しく圧倒的な開放感に満ちています。
二人で過ごした「一本松」というかけがえのない青春の輝きを胸に、それぞれの未来へと踏み出していくラストシーンは、ツインノベルだからこそ味わえる、清々しく圧倒的な開放感に満ちています。
何より素晴らしいのは、この二つの小説を、二人の異なる作者が書いている点です。作者ごとに力を入れたいシーンや、場合によっては時間軸がずれたりしがちだと思うのですが、この二人の作品は、最後までシンクロ率が高いままエンディングを迎えます。
一瞬「もしかして同一人物で、多重人格?」と疑いたくなりますが、おそらく別人です。(会ったことないので)
NOTE記事です
お二人ともUさんの「ぼっち・ざ・れびゅー」参加者です。
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