第一印象の危うさ
今回は書籍から引用する。第一印象では真の実力を判定できないことがある、という事例だ。
お恥ずかしい話だが、私のビリー・ホリデイ体験を白状しよう。最初に買った(聴いた)のが『奇妙な果実』(レコード)だったが、この選択が良くなかった。歌にはすさまじい気迫と怨念を感じるのだが、美声というわけでもなく説教臭い音楽だ。もうわかった、という烙印を押してレコード棚の奥にしまい込んでしまったのだ。その後(10年以上間があいている!)彼女の他のアルバムを手にし聴いてみると、相変わらず美声には聞こえなかったが説教臭さが全く無いだけでなく多幸感があり(ビリーの側にではなく私の側にだ)、妙に中毒性があるではないか。改心してビリーのアルバム(CDです)を次々と買い漁った。かくしてビリーはやっと私のものになった(ついに良さがわかった)のである。
(以下引用)
ビリー・ホリデイ(1915~59)が史上最高の女性ジャズ・ボーカリストであったことは万人が認めるところであるが、それでいてはじめて彼女を聴いたときからそう思ったという人は皆無に近い。「なんて変な歌手だろう」とその資質を疑ったーーというのが、多くの人の第一印象である。だから人気投票の首位を得たことは一度もない。ところが印象のわるかったレコードを何度も聴きかえしてゆくうちジワリジワリと利いてくる。第1期は33年の初吹込みから44年デッカに移籍するまでのCBS時代でどれもすばらしいが特にこの後半コモドアに吹込んだものを最高傑作と推す人は多い。第2期はデッカ時代、スイング唱法よりも歌詞の表現に重点を置いたバラードを中心とした時代で円熟境をみせるが、声は急速に失われてゆく。第3期のヴァーブ時代から最晩期の『レディ・イン・サテン』『ラスト・レコーディング』になると、ひどい声だが歌への執念と気迫に圧倒されてしまうのである。
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ビリー、エラ、サラ、カーメン
・時代を彩る個性あふれるジャズ・ボーカル
『ジャズ ベスト・レコード・コレクション』
油井正一<著>
新潮文庫
