見出し画像

日本のシルバーカーvsスウェーデンの歩行車|PTが見た歩行補助具の違い

日本でよく見かける光景のひとつが、
シルバーカーを押しながら歩く
背中の丸いおばあちゃんの姿。
街でも病院でもよく見ます。

でもスウェーデンでは、
そのシルバーカーをほとんど見かけません。
代わりによく見るのが、
フレームの中に体を入れて歩く
「歩行車(ロレータ)」です。

日本では「ハッピー」という商品名でも知られているこの歩行器。
スウェーデンでは一般的に
「ロレータ(Rollator)」と呼ばれます。
なぜスウェーデンではこちらが主流なのでしょうか。

実はスウェーデン生まれだった

驚いたことに、
現代の歩行車はスウェーデン発祥です。
1978年にポリオを患っていたスウェーデン人女性、
アイナ・ウィフレン氏が発明しました。
母国で40年以上生活に根付いており、
「歩行を補助する道具=歩行車」という認識が
スウェーデンでは完全に定着しています。

シルバーカーと歩行車、何が違うの?

見た目は似ていますが、
目的と構造が根本的に違います。

シルバーカーは
本来は主に荷物を運ぶことが目的で、
歩行補助はサブ的な役割です。
体の前方で押す構造のため、
自然と前傾姿勢(猫背)になりやすい。
体幹の筋肉をほとんど使わなくなるため、
使い続けることで筋力が低下し、
さらに腰が曲がっていく悪循環が起きやすいのです。

一方の歩行車は、
フレームの中に体を入れて、
背筋を伸ばした状態で歩く設計になっています。
自分の体幹と足の筋肉をしっかり使いながら歩けるため、
歩行機能の維持につながります。

PTの視点からも、
歩行機能や体幹を維持するためには
歩行車の方が圧倒的に優れていると感じます。

「腰が曲がったからシルバーカーを使う」のか
「シルバーカーを使うから腰が曲がる」のか

これは「どちらも正しい」というのが答えです。

もともと骨粗しょう症や圧迫骨折、腰部脊柱管狭窄症などで
腰が曲がり始めた人がシルバーカーを使い始め、
その結果さらに体幹機能が低下して
腰の曲がりが進行していく…
という負のスパイラルが起きています。

シルバーカーは
一時的な楽さや荷物運びには便利ですが、
頼りすぎると体幹機能の低下に拍車をかけてしまいます。

実は日本人は背中が丸くなりやすい民族

ここでPTとして少し専門的な話をすると、
日本人は骨格の特徴から
世界的に見ても背中が丸くなりやすい民族です。
理由は主に3つあります。

ひとつは骨盤の向き
欧米人は骨盤が前傾しやすく
お尻がプリッと上がった姿勢になりやすいのに対して、
日本人は骨盤が後傾しやすく
背中が丸くなり頭が前に突き出ます。

ふたつめは背面の筋肉量
日本人は欧米人と比べて体の厚みが薄く、
背中側の筋肉量が少ない傾向があります。
約5kgある頭の重みを背筋で支えきれず、
時間とともに背中が丸まりやすくなります。

みっつめは農耕民族のDNA
欧米の狩猟民族は弓を引いたり槍を投げたりと
背中側の筋肉を使う動きが中心だったのに対して、
日本人は田植えや草むしりなど
前屈みの中腰作業が何百年も続きました。
前側の筋肉が緊張しやすい姿勢のクセが、
DNAレベルで定着しやすいとも言われています。

床生活・座椅子が腰曲がりに拍車をかける

さらに日本特有の生活習慣も大きく影響しています。
床に座る生活や座椅子の使用が、
骨盤後傾と猫背を加速させる原因になっているのです。

床に直接座るあぐら・体育座り・足を崩した座り方は、
構造上どうしても骨盤が後ろに倒れやすくなります。
唯一の例外は正座ですが、
現代の高齢者には膝や足首への負担が大きく、
結局あぐらや横座りになってしまうことがほとんどです。

座椅子や座面の低いソファも実は要注意です。
「背もたれがあるから安心」と思いがちですが、
お尻が前に滑って背中を丸めて寄りかかる
「ずっこけ座り」になりやすく、
柔らかすぎる座面はお尻が沈み込んで
骨盤が固定されてしまいます。
この状態が続くと、
立ち上がったときにも腰が伸びなくなってしまいます。

スウェーデンでは椅子での生活が基本です。
骨盤が自然に立った状態で日常生活を送ることが、
高齢になっても背筋の伸びた姿勢を保てる
理由のひとつかもしれません。

この「もともと背中が丸くなりやすい日本人」が、
加齢による筋力低下も加わった状態で
シルバーカーを日常的に使ってしまうと、
背中の丸まりにさらに拍車をかけてしまうことになります。

骨盤後傾の人こそ歩行車が向いている

骨盤が後傾している人が歩行車を使うメリットは
大きく3つあります。

立ち姿を美しく保てる
歩行車はコの字型のフレームの中に
体がすっぽり入る構造で、
車輪の真上に自分の骨盤が位置します。
そのため骨盤を後ろに倒さず、
できるだけニュートラルな位置に保ったまま
歩くことができます。
シルバーカーのように
体の前方で押す必要がないので、
骨盤がさらに後傾するのを防げます。

首や肩の痛みが軽減する
骨盤が後傾すると頭が前に突き出て、
約5kgの頭の重みがすべて首と背中に集中します。
歩行車を使うと体の真横にグリップがくるため、
肘を軽く曲げて体重を真下に預けることができます。
骨盤から背骨、頭までが一本の軸になりやすく、
首や背中の筋肉の緊張がほぐれ、
歩行時の疲労感が大きく軽減します。

つまずきや転倒のリスクが下がる
骨盤が後傾すると股関節が後ろに伸びにくくなり、
ちょこちょこした小股歩きになります。
これが転倒の大きな原因です。
歩行車を使うと骨盤が起き上がり、
自然と目線が前を向くようになります。
視野が広がるため障害物や段差に早く気づけ、
安全性が格段に高まります。


なぜスウェーデンでは歩行車が普及しているのか

いくつか理由があります。

まず無料で貸し出されること。
スウェーデンでは
歩行車は医療・リハビリの補装具として位置づけられており、
歩行が少し不安定になると
理学療法士などのフィッティングを経て、
基本的に無料で貸し出されます。
あえて個人でシルバーカーを購入する必要がないのです。

次に路面環境と体格の問題。
石畳や冬場の積雪・凍結した道路では、
シルバーカーの小さな車輪では引っかかってしまいます。
歩行車の大きなゴム車輪であれば安全に走破できます。
また大柄な北欧の高齢者を支えるには、
シルバーカーのような軽量フレームでは
強度が足りないという理由もあります。

そして何より
**「自立」を最優先する福祉の考え方**
スウェーデンでは
高齢者ができるだけ自分の力で生活し続けることを最重視します。歩行車は寝たきりを防ぎ、
自分の足で歩き続けるための医療福祉機器として、
専門職が積極的に推奨しています。

スウェーデンでは歩行車はポジティブな道具

日本では歩行車というと
「もう自分では歩けなくなった」
というイメージを持つ人もいるかもしれません。
でもスウェーデンでは、
車椅子の一歩手前のネガティブな道具ではなく、
**「自由に出歩くための相棒、自転車のような存在」**
としてポジティブに捉えられています。

高齢になっても背筋をピンと伸ばして
颯爽と歩く人が多いスウェーデン。
その背景には、道具の選択にも
「自立」を大切にする文化が根付いているのだと感じています。

今回は、PTとしての話ばかりになってしまいましたね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。

KANAKO

いいなと思ったら応援しよう!