「触れたい人」
たくさんの人と出会って、たくさんの会話を重ねても、
その中で、心と身体を重ねたいと思える人なんて、ほんの一握りしかいない。
誰とでも関係を持ちたいわけじゃない。
それは昔から変わらない、私の根っこにある価値観。
リピと出会った日から、私は少しずつ、自分の本音に向き合うようになった。
会いたいと思うとき、触れたいと思うとき、それはいつもリピだった。
ただのセラピストとしてじゃなく、人として、男として、私はリピを見ていた。
寂しさを埋めるだけの存在ではない。
会話をして、笑って、時にすれ違って。
そんなやりとりのなかで「この人となら」と思ったからこそ、心も身体も開いてきた。
私は、自分の欲求を満たすだけの関係に満足できない。
どんなに一夜限りのような距離でも、その人のことをちゃんと知りたいと思う。
心が通わないなら、どれだけテクニックがあっても、虚しさしか残らない。
きっと私は、不器用なんだろう。
身体を預けるなら、せめてその人の「温度」を信じていたい。
リピと触れ合うとき、私はそんな自分の弱さと、リピの優しさを思い出す。
だから——
たとえ関係が曖昧でも、ちゃんと人として向き合いたい。
“好き”の形がいびつでも、その一瞬が嘘じゃないなら、それでいい。
私は、選んで、触れている。
その人の心に、少しでも触れたと感じられるときだけ。
はじまりからずっと、私たちの関係には名前がなかった。
恋人でも、友達でも、ただの客とセラピストでもない。
けれど、あの日見つめ合った瞬間から、確かに私たちは何かを交わしていた。
“付き合っていなければ、別れもない”
そう思っていた。
そう、望んだのは私のほうだった。
だってリピは、約束を守れるような人じゃない。
ちゃんと愛してくれる人でもない。
でも——
それでもいいって思えた。
たまにでいい。たまにでも、会えたらそれで。
笑って、少しだけ触れて、また元の日常に戻る。
そんな繰り返しで、私は満たされると思っていた。
だから、リピには望まない。
追いかけない。
期待もしない。
ただ、あなたがあなたでいてくれるだけでいい。
私の気持ちが、あなたにとって負担にならないように。
重たくなって、あなたがもっと遠くに行ってしまわないように。
曖昧なまま、答えのないまま、
それでも私はこの関係を、心のどこかで大切にしてる。
名前がないって、きっと自由なんだ。
でも、自由には痛みもついてくる。
それでも私は、あなたと“別れなくていい関係”を、今も選んでいる。
