ちゅのつく言葉
「これから、“ちゅ”がついたらキスするから」
隣に座っていた彼女が、突然そんなことを言い出した。
「なんだよそれ。“ちゅ”?」
「はい、一回」
ちゅっ。
軽くキスされて、思わず固まる。
「……なるほど、そういうことか」
「そういうこと」
彼女は満足そうに笑ってる。
「じゃあ、チューリップ」
ちゅっ。
「チュパカブラ」
「二つ目でそれ?」
ちゅっ。
「チュッパチャプス」
「あ、それなつい」
ちゅっ。
なんだこれ、楽しすぎる。
次は何を言おうか、真面目に考える。
ちゅがつく言葉……。
彼女は楽しそうにこちらを見ている。
「マチュピチュ」
「お、二回ね」
ちゅっ。
ちゅっ。
「ラッキーワードじゃん」
「“ちゅ”二個入ってるからボーナス」
彼女はケラケラ笑った。
少し伸びた前髪をかきあげながら、ちゅのつく言葉を探す。
「宇宙」
ちゅっ。
「……急に神秘的じゃん」
「でも、もうネタ切れてきた」
「まだあるでしょ?」
彼女はちょっと困ってるこっちを見て、また楽しそうにしている。
「あ、あった。中学校」
「おーなるほど」
「初めてちゃんと喋ったの、中学校だったじゃん」
ちゅっ。
ちゅっ。
あの頃は、こんなふうになるなんて思ってなかった。
授業中に目が合うだけで落ち着かなくて、廊下ですれ違っただけで一日嬉しくて。
昔を思い出すようなキスだった。
「熱中」
ちゅー。
今度は、少し長い。
触れるだけのさっきまでとは違う、体温がじわりと伝わってくるような。
「……今の長かったね」
「うん」
彼女の頬が、ほんのり赤くなっている。
なぜかは、あえて聞かなかった。
「集中」
ちゅっ。
「日中」
ちゅっ。
「ちゅーもーく」
ちゅっ。
もうなんでもよくなってきた。
「なあ」
「んー?」
「それ、キスしたいだけだろ」
すると彼女は少し考えてから、
「ばれた?」
と笑った。
その顔が可愛すぎて、もう優勝。
「じゃあ次が最後」
「えー、もう終わり?」
彼女は少しだけほっぺをふくらませる。
「キスに夢中」
「……それちょっと上手くまとめすぎ」
「そこは、しないのか」
「やーい、がっかりしてる」
いたずらが成功した子供みたいに、彼女は笑ってる。
なんだこれ、楽しすぎる。
「ルール違反」
「え?」
ルールを守らなかったから、
今度はこっちから、ちょっと長めのやつを仕返ししてやった。
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