六畳のプラネタリウム
東京の六畳一間。
私の部屋の天井には、蓄光シールの星が貼られていた。
電気を消すと、小さなプラネタリウムになる。
上京した日に貼った星だった。
夢を追いかけて東京へ来た。
でも現実は、思い描いていたものとは違った。
仕事ではミスばかり。
怒られて、落ち込んで。
帰ってきて天井を見上げるだけの日々。
そんな日々が続いた、ある日。
職場で取り返しのつかないミスをした。
「ここは君に向いていないかもしれない」
上司の言葉が頭の中で何度も響く。
うつむきながら帰った。
部屋に戻ると、力が抜けた。
玄関の明かりだけが薄暗く部屋を照らしていた。
天井では、いつものように星だけがぼんやりと光っていた。
でも今日は、慰めてくれるどころか、笑われている気がした。
「……もう、こんなのいらない」
気づけば夢中でシールを剥がしていた。
一枚、また一枚。
全部剥がし終えると、そのまま部屋を飛び出した。
たどり着いたのは、近くの小さな公園。
息を整えて見上げると、本物の夜空が広がっていた。
暗くて。
静かで。
どこまでも遠い。
涙がこぼれた。
「きれいですよね」
不意に声がした。
振り向くと、少し離れた場所で望遠鏡をのぞいていた青年がいた。
「今夜はよく見えますね」
青年は夜空を見上げて微笑んだ。
「何億光年も遠くの星って、もしかしたらもうないのかもしれないんですよ」
「……え?」
「今見えている光は、何億年も前に放たれたものだから」
私はもう一度、夜空を見上げた。
さっきまで冷たく見えていた星が、少しだけ違って見える。
「じゃあ……もうなくなっているかもしれないのに、光は届いているんですね」
「そういうことです」
少しの沈黙。
風が木々を揺らし、虫の声だけが静かに響く。
「なんだか、不思議ですよね」
「そうですね」
青年は望遠鏡をたたみながら、小さく笑った。
「暗いからこそ、光って見えるんです」
少し間を置いて、続けた。
「つらい日は、いつもここへ来るんです」
それだけ言って、静かに歩いていった。
翌朝。
私は久しぶりにカーテンを開けた。
白い天井には、もう星はない。
それでも昨夜見た夜空は、ちゃんと心の中に残っていた。
仕事には行きたくない。
また失敗するかもしれない。
それでも。
私はまだ終わってない。
深く息を吸って、玄関のドアを開けた。
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