#118『戦わない』という知性と戦略
「負けるな。」
「逃げるな。」
「最後まで戦え。」
昭和生まれの私は、幼い頃、特にこのような言葉を聞きながら育ってきたところがあります。
困難に立ち向かう力は、たしかにとても大切です。自分の考えや立場を主張することも時に重要な場面もあります。ですが、教師としても親としても色々な人と関わる中で、一つのことを深く感じるようになりました。
すべての戦いに、参加する必要はない。
戦わないことが賢い戦略となる時もある。
むしろ本当に賢い人ほど、戦う相手と場面を慎重に選んでいます。戦わなくて良い場面では潔い判断を下します。
学校でも家庭でも、人間関係の悩みは尽きません。いくら感情をコントロールしようとしてもうまくいかない時、言い争いになってしまう時もあります。

誰かの何気ない一言が引っかかる。自分の考えがうまく伝わらない。価値観の違う相手にじわじわと心が消耗していく。そしてそれを引きずり、心がすり減っていく。
そういう時、私たちはつい相手に「分かってもらいたい」「変わってほしい」と思います。自分が何を変えられるか、ではなく『相手にどう変わってもらうか』を求めます。
ですが、どれだけ言葉を尽くしても、変えられないものがあります。それは、相手の内側にある考え方や価値観です。
丁寧に説明しても否定し続ける人がいます。
誠実に接しても悪意に受け取る人がいます。
どれだけ努力しても、自分が思うようには評価してもらえないことも多々あります。
そのすべてに正面から向き合い続けていたら、心も体も、いつか限界を迎えます。
だからこそ必要なのが、「戦略として戦わない」という選択です。
「戦わない」と聞くと、弱さや諦めを連想するかもしれません。しかし実際は、その逆です。
戦わないことは、自分の時間とエネルギーを守るための、意志ある判断です。自身の心身の健やかな安定を保ち明日を元気に迎えられればそれでオッケーです。
その時間を、子どもとの会話に使う。家族との時間に使う。自分の学びや成長に使う。本当に大切にしたい関係に使う。

勝つ価値のない戦いから降りることは、大切なものを守るための選択です。
これは、子育てとも重なる話だと思います。
友達から嫌なことを言われた子どもに、つい「言い返しなさい」「負けるな」と伝えたくなることがあります。
時には、子供の代わりに親が代わりとして戦うこともあります。子供を守るために戦わねばならない時もありますが、そうでない時も実は多くあります。
時には、「距離を置く」「関わらない」「別の場所を選ぶ」という選択肢があることも、伝えてあげたい。
すべてを真正面から受け止めなくていい。自分を守るために離れる勇気も、生きていく上で必要な力のひとつだからです。
もちろん、立ち向かわなければならない場面はあります。
自分の信念が問われる時。
誰かが傷ついている時。
大切な人を守らなければならない時。

そうした場面で勇気を出せるのは、普段から無駄な戦いで力を使い果たしていないからこそです。
人生で使える時間とエネルギーは有限
だから私は、「どう戦うか」と同じくらい、「何と戦わないか」を考えることが大切だと思っています。
本当に強い人とは、すべての戦いに勝つ人ではありません。戦うべき時と、戦わなくていい時を見極められる人です。

そんな賢さを持った大人でありたいし、子どもたちにも伝えていきたいと思っています。
今日も読んでくださり、ありがとうございました。
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