【SusHi Tech Tokyo 2026】Orbに虹彩を─「人間であること」が、認証になる時代へ
東京ビッグサイト、西展示棟。
2026年4月27日から29日まで、アジア最大級のグローバルイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2026」が開催されました。世界60の国・地域からスタートアップ750社以上、来場推計6万人。今年で4回目、過去最大規模の3日間です。
会場をぐるりと歩いている途中、思いがけない場所で「Orb(オーブ)」のブースに出くわしました。

ニュースやワールドビジネスサテライトで存在は知っていて、「日本のどこにあるんだろう」とずっと気になっていたデバイス。それが、ふっと目の前に現れたわけです。あ、これか、と。会いたかった人に偶然出会えたような感覚でした。せっかくの機会だし、ここで体験してみよう——そんな流れで、銀色の球体の前に立つことになりました。
なぜ、Orbだったのか
Orbは、OpenAIのサム・アルトマン氏が共同創業者を務めるプロジェクト「Worldcoin」(現在は「World」に改称)** が世界中に展開している、銀色の球体型デバイスです。眼球をスキャンして虹彩データを取得し、「この人は確かに人間で、しかも一意な存在である」ことを証明する—いわゆる**Proof of Personhood(人間であることの証明)**のための装置。
スキャンが完了すると、ブロックチェーン上に「World ID」というデジタルIDが発行され、暗号資産「WLD(ワールドコイン)」が付与されます。
虹彩は指紋以上にユニークで、一生変わらない。だから「人間性」を証明するための、ある意味もっとも合理的な手がかりになる、というのがプロジェクトの説明です。
実際にOrbの前に立ち、目を覗き込む。 正直なところ、少しドキドキしました。目の奥まで読まれている感覚は、初めての種類の緊張感だなと。
サム・アルトマンが描く、もう一つの未来
Orbの背景にある思想は、僕の理解ではざっくり二層構造になっています。
■ 一層目:AGI時代のベーシックインカム
サム・アルトマンは、AGI(汎用人工知能)が進化していく未来において、富がごく一部のAI企業に集中することへの強い警戒感を持っています。だからこそ、その富を全人類に公平に再分配する仕組みが必要で、そのためには「人類80億人ひとりひとりを、確実に区別できる仕組み」がなくてはならない。Worldcoinはその出発点だ、と。
■ 二層目:人間とAIを判別するインフラ
そしてもう一つ。これは僕がOrbに惹かれた本当の理由でもあるんですが、生成AIがここまで進化した現在、ネット上の発信が「人間によるものか、AIによるものか」を見分ける手段が決定的に不足してきています。
World IDは、その判別レイヤーになり得る。 SNSの一投稿、レビューの一行、決済の一クリック—その向こう側に「確かに人間がいる」と保証できる仕組み。これが、AI時代の新しいインフラとして機能していく可能性は十分にあるなと感じています。
博報堂さんが日本展開をサポートしている
公式リリースによれば、Worldcoinの運営会社Tools for Humanityと博報堂さんが業務提携を結んでいます(2024年10月発表)。日本国内におけるWorld IDの普及・社会実装を、広告コミュニケーションの観点からサポートしていく、という座組みです。
注目したいのは、その目的の置き方です。 「AIが当たり前になる時代に、広告コミュニケーションの信頼性をどう担保するか」—プロモーションやマーケティングの現場で、コンテンツの受け手が確かに人間であるという保証は、これからますます重要になっていきます。広告会社が生体認証技術と組むこと自体が、業界がフェーズ転換を迎えているサインだなと感じました。
博報堂さんは、すでに2023年12月から「博報堂JV Studio」を通じて検証を重ねてきており、慎重に段階を踏んだ上での提携でした。日本のような信頼を重視する市場にこそ、こうした丁寧なステップが必要なのだと思います。
「目をスキャンされる」という心理的ハードル
正直に書いておくと、Orbを体験している間、僕自身、少しドキドキしました。
虹彩を見られるという行為には、想像以上の身体的な抵抗感があります。目は「魂の窓」とも言われるくらい、人間にとって繊細な部位です。
これは特に日本社会において、生体認証が広がっていく上での大きなハードルになりそうだなと感じました。プライバシー意識の高さ、慎重さ、新技術への警戒感—どれも、日本の「丁寧さ」の裏返しでもあります。
ただ一方で、フィッシング、なりすまし、AI生成の偽動画と、デジタル空間の脅威は加速しています。「危機感がきちんと共有されたとき、日本人はむしろ慎重さ(恐怖)をテコにして一気に浸透していく」—僕はそういうふうに感じます。慎重に、しかし着実に。今後の世間の反応を、ちゃんと見届けたいテーマです。
ロボット、生成AI、そしてAI追悼コンテンツ
会場を歩いていると、Orb以外にも目に留まったブースがいくつもありました。

■ ロボット展示
作業用の協働ロボットから、洗濯物を畳むロボット、ダンスを披露するヒューマノイドまで。中国を中心に開発が一気に進んでいると言われている領域ですが、噂ではなく実際に動いている姿を間近で見られたのが印象的でした。「もうSF映画ではなくなったんだな」と、改めて。

■ 韓国メーカーのAIキオスク広告
スマホで自分の写真を撮るだけで、AIがそのままブランドイメージに変換し、商品紹介の広告クリエイティブとしてキオスクで再生される—というサービスが展示されていました。UGC(ユーザー生成コンテンツ)と広告の境界が、生成AIによってさらに曖昧になっていく感覚、ここはユニークです。

■ AI追悼コンテンツ「SOULLINK(ソウルリンク)」
これは特に刺さりました。 韓国のスタートアップJL Standardが手がけるサービスで、故人の写真・音声・会話履歴をもとにAIで「あの人」を再現し、リアルタイムチャット・通話・AI動画メッセージなどで再会できるというもの。バナーには「AIでよみがえる、あの人の記憶と姿にふれる追悼コンテンツ」と書かれていました。
献花や芳名帳のデジタル化、お墓や供養の場のデジタル構築といった文脈も含めて、葬儀という領域全体がDXの渦中にあります。

日本人の死生観と、テクノロジーの交差点。 Orbが「これから生きていく人間」を証明する装置だとすれば、SOULLINKは「亡くなった人」をもう一度立ち上げる装置です。一見真逆に見えて、「人間の存在をどう記録し、どう証明するか」という意味では、地続きのテーマだなと感じました。
テクノロジーの交差点として
会場には、初日(4/27)に高市早苗総理が登壇され、挨拶でこう述べられていました。
「『サステナブルな都市をハイテクノロジーで実現する』というコンセプトに共鳴して、世界中から、社会課題を解決するすばらしい技術やアイディアを持った6万人を超えるスタートアップ、大企業、ベンチャーキャピタル、都市のリーダーの皆様が、ここ東京にお集まりいただいていると聞いております。」
スタートアップによって創出されるGDPは、日本の名目GDP比で4%。直近2年で32%増加しているとのこと。新設された「日本成長戦略会議」を起点に、スタートアップ育成5か年計画の強化、ディープテック支援、地域スタートアップ創出の3本柱で動いていくという発信でした。
そして、小池百合子都知事も登壇され(27日・28日)、3日間を通して国内外の起業家、投資家、政策担当者が交差していました。スタートアップカンファレンスというと、ともすれば「業界の人だけのイベント」になりがちですが、SusHi Techはパブリックデイ(4/29)も用意されていて、「テクノロジーは社会のもの」というメッセージが会場全体から滲んでいた気がします。
虹彩認証と広告コミュニケーション。 ヒューマノイドと洗濯物。 生成AIと故人の追悼。
一見バラバラに見えるテーマが、「人間とテクノロジーの境界」というレイヤーで全部繋がっている。その地図を歩いている感覚が、SusHi Techの面白さなんだろうなと思います。
一つひとつ、見届けたい
ベーシックインカムも、人間性証明も、生体認証の広がりも。 語る材料は無数にありますが、結局は一つひとつ自分の身体で確かめてみないと、本質はわからない。
Worldcoinの今後の展開、世間の反応、そして日本での社会実装がどう進むのか。 ほんと変化が早いですが、できるところから一つひとつ、追いかけていきたいなと。
少し未来の感覚を持ち帰った、SusHi Tech Tokyo 2026でした。
■ SusHi Tech Tokyo 2026 公式 https://sushitech-startup.metro.tokyo.lg.jp/
■ 高市総理大臣 SusHi Tech Tokyo 2026 出席(首相官邸) https://www.kantei.go.jp/jp/105/actions/202604/27sushi_tech.html
■ World(Worldcoin / Tools for Humanity) https://world.org/
■ 博報堂 × Tools for Humanity 業務提携リリース https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/111571/
■ SOULLINK(JL Standard) https://soullink.kr/
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