家族信託の有用性 【書籍の紹介含む】
突然ですが、幼少期に読んで以降、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロのファンです。前者は主として19世紀ごろ、後者は少し後で大戦期の話もあった気がします。
ああいうシルクハットをかぶる紳士の世界では、保険などよりも信託という言葉の方が多用されていたりします。あ、資産家ばっかり出てくるからか…。
日本では信託法という法律で運営されている法領域があります。
昨今の、「公的年金がダメになるのが見越される以上は、自分で老後資金を増やしておけ」という、ファイナンシャルプランナー等の方々による助言(iDeCoやNISAの)で出てくるような、投資信託なども、その射程に入ってきます。
テレビなどでも出てくる話になってくると、ご経験者は察してくださるかとは思うのですが、文字通り信じて託すわけです。投資信託の場合は、これまた文字通り、投資のプロにですね。
じゃあ、家族信託ってなんだろう?そうです、信頼できる家族に託すんですよ。ただ、暴走や手違いがないように、信託法の想定する枠組みの中で。
成年後見制度や遺言制度の利点を取り込める

図解の❶について
この段階、例えば自己の不動産の売買などで用いた方もおられるかもしれないのですが、委任状を用いて委任契約を結ぶということが一つの解決策だという図解になります。ここでは、子から見て、親のメンタルは健常なままです。委任を正常に決断できるわけですので。しかし、フローが点線まで至ると、次の❷への対応が必要となってきます。
ところで、下段の家族信託の「➡」ラインの想定では、同じ精神状態で、信託契約というものを結びます。
対象となる信託財産は、主として現金の他、不動産や中小企業の株式とされます。ここの締結時点で、上図の❹に到るまでのことをフルセットで契約書に入れておける【※】というものです。
【文中※マークのように書くと、他の制度要らない、とおっしゃる方がおられるかもしれないのですが、信託財産に対する行為しか射程圏にないので、例えばいわゆる身上監護(介護や看護の領域)は盛りこめていません。万能ではないので、くれぐれもご注意ください…。】
この契約を用いて、親が元気なうちから、子に自己の財産の処分や管理を任せていくものです。
既に述べたことの法的表現および確認に過ぎませんが、信託契約は契約ですので、制限行為能力者は自分で締結できません。制限行為能力者とは、平たく言うと、高齢化等で認知症になったりしたので、正常判断が難しいという状況にある人などを指すと思ってください。
それで、上記のように、「元気なうちから…任せていく」という表現になっています。
図解の❷について
図解の上段にある成年後見は法定と任意との区分があるのですが、巷間著名な成年後見制度というのは、上記の制限行為能力者のうちもっとも重度の人を成年被後見人と名づけ、面倒を見る人を成年後見人として、裁判所の審査を経たうえで後見人が財産管理をするというものです。また、その後も裁判所に定期的な報告を要します。
ここは、我々行政書士の他、弁護士さんや司法書士さんも支援している領域です。
任意の場合は、❶の段階から自発的に契約で備えるものなので、時系列はもう少し前から跨って流れるかもしれません。図解は便宜上区画してあって申し訳ないです。ただ、この契約は、❸までしか織(折)り込めないかもしれません。
どういうことかというと、もし自分が認知症にんってしまったら、という想定で公証役場に行って任意後見契約を公正証書で書いてもらったとします。それが過不足なく機能したら、❷におけるケアを子に任せうると。
そして合わせ技で、遺言書も遺しておくわけです。
自分が亡くなったら配偶者に一旦すべての財産を相続させるよう指定したい。その後、配偶者も亡くなったら2次相続として息子や娘が各何割ずつ…。といったような。
ところが。
図解の❸について
ところがです。遺言書というのは、いわば、直接手渡しできる一回分についてしか指定できない限定ツールなのです。
なので、配偶者想い、子孫想いというのを反映させた一枚(部)の遺言書で「一度にえいやっと分割する」場合には役立つのです。
が、上記の❷記載の末尾の想定シーンのような、段階的に訪れる相続には歯が立たないのです。
亡くなった後に、墓の中から、「あ、それちょっとタイム、それはなしで」とは言えないわけです。
図解の❹について
これも例えばなので憤慨なさらないでほしいのですが、上記の一旦配偶者に丸ごと預けてしまう指定の遺言をした場合の延長で、生き残った配偶者が、心労等で後を追うようにお亡くなりになったとします。
あまりに急だったので、遺言書も作成されていないと判明。図解の上段の通常のフローでは対処できない段階的な相続が不意に訪れてしまう。
その場合、民法は自主的な遺言書がない以上は、次点として、ご遺族による遺産分割協議をしてくださいと定めています。
ただ、経済学の想定する合理的人間がどこにも存在しないフィクションであるように、法律学の想定する理性的人間もどこにも居ないわけです。
そこで、巷の財テク雑誌などでも解説される〔士業監修となっていたりもします〕、いわゆる「争う家族」で「争族」なんて酷い宣伝句が誕生したりすることになります。仲良しだったとしても、争いだすんですね。
上述した通り、遺言書は直接手渡しする限定ツールに過ぎませんので、お父さんが綿密に作成していたとしてもですね、それを承継したお母さんがご心労で亡くなったという場合、雑誌通りの骨肉の争いになってしまいかねません。どこかの家庭の話が自分の家族の話になってしまう。
ところが、❶の時点で、信託契約を結ぶ際に、信託財産の帰趨については、数次相続する場合分けをしておけるんですね(既述の通り、身上監護の面は別途施策が要ります)。
付録の話ですが、収益ビルなどをお持ちのご家庭だと、共有不動産を兄妹で相続して争族になったという事例を見聞したことがおありかもしれません。それも、❶の時点で、誰か一人代表として受託者を立てておいて、その人が残りの兄弟に収益を分配する、報告義務等も課す、もし不履行があれば契約書に基づいて裁判等もできるといった対策が立つわけです。
ただし、契約であるので、契約自由の原則というものがあって、裁判所の監督もありません。
となると、よほど綿密に家族会議を重ねて条項の策定を入念にやらないと、受託者〔主として子〕の内心に魔が差してしまって、上手くいかないかもしれない諸刃の剣です。
ここで、専門家の出番か?となりそうなのですが。
独占的法律専門家の不在
信託銀行と信託会社
意外に思われるかもしれないのですが、記事前半に記しました通り、信託法という法律があり、それを利活用してきたプロというのは、実は民間会社なのです。いわゆる、信託銀行とか、信託会社といった存在です。
老後・没後の財産信託として使えるものには、他に商事信託という領域もありまして、いわゆる「身寄りがないが資産はある」という富豪の方(つまり託せる家族がない)などが、過去これまで用いたりしてきたようです。
そういう人は家族の代わりに高い報酬を払って、彼らプロの運用管理をサービスとして享受していたようです。
両者の違いは主として取扱い財産にあるようで、信託銀行は金銭しか取り扱えません。他方、信託会社は、金銭+不動産等(一定の条件あり)が取り扱えるようです。
他に、信託銀行が取り扱うものに、遺言信託というサービスがあるそうなのですが、実は「遺言書の作成支援や保管、執行までワンパックにします」というものだそうで、執行が終わってしまえば契約終了です。家族信託が長期的に視野に入れている、子孫に及ぶ財産管理までは対応できないようです。
チームワークでの対応が現実
このように、民間会社任せだった信託は、国が急ごしらえした成年後見制度が硬直的であるという批判が起きて、にわかに脚光を浴びたきらいがあります。
主導者というと国策に反旗を翻しているみたいな表現ですが(汗)、司法書士さんたちが熱心なようです。
しかし、「家族信託の設計をコンサルティングする業務」は新登場したものであって、彼らも独占的ではないので、実際には、弁護士、行政書士、税理士、社労士などといった複数士業が参入しており、既存の民間会社の助力も得る(そこには他に、保険や介護といった支援者も登場します)という混成チームで対応しているのが現状です。
行政書士なのに成年後見制度の不便さを裏付けるようなことになって恐縮なんですが、少なくとも、➀身上監護を盛り込めるという側面と、②裁判所の監督があることによって子による専横を防げるという側面に魅力を感じない限りは、成年後見制度は機動性を欠いて鈍重に見える人が居ても仕方ないかもしれません。成年後見人への報酬もかかりつづけますしね。
それらの制約は同時に、財産処分等について、慎重さを担保する意味があるとは思うのですが。
ただ、⓶については、フォローはあります。家族信託においても、信託監督人という耳慣れない存在を置くことも法定されているので、裁判所が居ないとどうしても監視できないというものでもないのです。
その他デメリットもありはする
税制上、信託財産として預けた不動産が複数あった場合に、いわゆる損益通算が禁止されているなどの特例が存在します。
締めくくりに
家族信託の基本的な機能や魅力、メリットのほか、デメリットも少し触れましたが、有用性から、今後も利活用の幅が拡がっていくのではないかと思われます。気になった方は、追って調べてみて下さい。
▷参考図書
上述した、家族信託の伝道者として(?)、ご活躍中の司法書士の先生が著した本があります。この方は、NHKやフジテレビの特集でも取り上げられていた実績があります。
全5章、100ページほどでコンパクトな本ですが、事例集や相続対策まで載っており、とても有益な本だと思います。もしよろしければ、こちらからどうぞ。
