【小説】息ができない僕たちは第一部:第4話 「亜紀の苦悩」
前回
店の前にずぶ濡れで立っていた女性客・亜紀を、大西と川辺は店内に招き入れた。亜紀が案内されたのは、バックヤード奥にあるコーヒーの香りが漂うカフェのような空間だった。「腹が減ってるのと、寒いのはよくない」と川辺は自慢のコーヒーとあんまんを出す。久方ぶりの空腹を満たす美味しいあんまんと大西らの会話に、気づけば亜希は笑っていた。そして、大西にゆっくりと自身の悩みを話し始めた。
「私には高校3年生の娘がいるんですけど、最近避けられている気がしていて…。夫に相談しても『気のせいなんじゃないか』とろくに話も聞いてもらえず、義母は『そういう時もあるわよ。あなただけじゃないわ。私でも乗りきれたんだから大丈夫よ。いっそ、仕事を辞めるとかして時間をつくったらどう?』と言いますし」
「それで、しんどくなってしまったと」
「ええ。反抗期かもしれないし、仕事を辞めて娘ともっとゆっくり話す時間をつくるのは、確かになと思うんです。でも、仕事は好きで、今大事なプロジェクトの最中ですし。だからといって、娘とこのままでいいとも思わないし。仕事と子育ての両方とろうとする私はワガママなんでしょうか…」
亜紀はうつむいて自信なさげに、胸の中に溜め込んできた思いを打ち明けた
「いえ、そんなことはないと思いますよ。ただ、亜紀さんの言う通り、今のままではよくない。亜紀さんが潰れてしまう。もし亜紀さんが、お仕事を辞めて娘さんのために時間をつくったとしても、娘さんは喜ばないんじゃないかな。亜紀さん自身のやりたいこと、在りたい姿をもっと大事にしてもいいと思う」
亜紀は驚いたように下に向けていた顔を上げた
「そんな風に言ってくれる人初めてです。同年代の友人ですら『みんな同じだよ』『仕事続けられてるだけいい方だよ』って言うので」
大西の言葉に亜紀は安心したのか、今までの職場や家族でのこと、辛かったこと、でもうれしかったことなどを話した。
大西は亜紀の気の済むまで話を聴き続けた。
「本当に今まで、1人でよくやってきたと思いますよ。でも、もう誰かの手を借りてもいいんじゃないかな?もし良ければ、亜紀さんが納得して進んでいくためのお手伝いをさせてくれませんか?」
亜紀は、少年のようなまっすぐな目で、自分の話を真剣に受け止めてくれたこの青年を、信頼するようになっていた
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